731話 ホスティの苦悩 その1
冒険者ギルド本部でもあるヴェインギルドに都市国家フェランの王から直々に荷物が送られて来た。
荷物の箱を開けたギルド職員が悲鳴を上げた。
箱の中身は冒険者の首であった。
そのほとんどがキメ顔をしていた。
それらはフェランの港街の浜辺で“ごっつあんです”を決めた直後に探索者の重装魔装士が操るオートマタ、アマサーンに首を落とされたクズ冒険者達のものであった。
首の他に彼らの冒険者カードも添えられていた。
また、グラマスであるホスティ宛の手紙も入っていた。
内容を要約すると以下の通りである。
「直ちにまともな冒険者を我が国の港街に派遣してクズ冒険者どもを追い払え。さもなければ我が国は冒険者ギルドを廃し遺跡探索者ギルドにその代わりをさせる」
フェランの王はフェラン支部をすっ飛ばして直接本部に苦情を言って来たのだった。
ここまで怒りを露わにしたのは先のアズズ街道で被害を受けたサイゼン商会に続いて二回目であったが、クズ冒険者に対する苦情はいろんな国から毎日のように届いていた。
ホスティは放っておくわけにもいかず、報酬をヴェインギルドが持つことにしてフェランギルドにクズ冒険者達を追い払う依頼を出した。
この依頼はちょっとした混乱を生んだ。
なんとこの依頼に当のクズ冒険者達が応募して来たのだ!
だが、クズ冒険者達からしたら何もおかしくなかった。
彼らは自分達をクズだと思っていないからである!
収集がつかなくなったフェランギルドは仕方なく依頼を受けられるのはフェラン所属のみと限定したのだが、するとクズ冒険者達は「フェラン所属になってやる!」と上から目線で言って来た。
彼らは断っても何度もしつこく押しかけてフェランギルドの職員の負担を大きくした。
遺跡探索者ギルドはクズ冒険者対策として海上へ避難したが、フェランギルドは移動できないので逃げ場はなかった。
だが、困っているうちにクズ冒険者達の数は徐々に減っていきやがて応募にやって来る者は現れなくなった。
リサヴィ派が始末した、という噂が流れたが真偽は定かではない。
ただ、フェランギルドがクズ冒険者達の行方を調査することはなかった。
グラマスを補佐するシージンがグラマスであるホスティの元へやって来た。
「ホスティ様、クズ冒険者達の件でご報告があります」
「何かわかったんだな?」
「はい。フェランで騒ぎを起こした者達でいわゆるクズスキルの“ごっつあんです”を行った者達の体内からユーコットキッキ草及びクルクルの木の葉から採取される成分が検出されました」
シージンの言葉を聞いてホスティが思わず椅子から立ち上がる。
「おい待て!クルクルの葉だと!?それは一時的な幸福感を抱くのと代償に頭をおかしくする、各国が禁止薬物に指定しているものだろう!?」
「はい。その通りでございます。ユーコットキッキ草も思考が鈍り相手の言うことを聞いてしまう洗脳効果があることで使用が禁止されております」
これらはどちらも魔の領域で発見された珍しい植物であった。
魔の領域以外で栽培しようとしてもすぐに枯れてしまうため闇市場で高額で取引されている。
高額な上、希少なものなので誤って服用することは考えられないものであった。
「それらがクズ冒険者から検出されたってことは……」
「はい。彼らは自らの意思でクズになったのではなく、洗脳されて、クズ的思考を植え付けられてクズになったものと考えられます」
実際、彼らの冒険者カードを調べたところ、ここ最近急にクズ行為を働くようになった事がわかった。
それ以前は真面目で評判のいい者達ばかりであった。
「誰がそんなことをしやがんだ!?」
「遺跡探索者ギルドが自分達の勢力を拡大するためだと言う話もありますが私はそれはないと考えております。彼らもクズ冒険者達に酷い迷惑を被っているようですし、そもそもそんなことをして事が露見したら後が大変です。取り返しがつきません」
これら禁止薬物を使用した者は全国で指名手配され極刑と決まっている。
「そうだな。で、犯人の目星はついているのか?」
「はい」
シージンの表情を見てホスティは嫌な予感がした。
「当てがあるのはいい事だが、そいつは俺が知っているんだな?」
シージンは静かに頷くと続きを話し始める。
「実はつい先日、別の場所でクズ行為を行なって捕まった者達がいたのですが、彼らの体内からもそれら禁止薬物が見つかりました」
「それで?」
「幸い、彼らの中には洗脳が浅くまだ話が通じる者達がおりましたので聞き取りを行った結果、首謀者としてゴンダスの名が上がりました」
「ゴンダスだと!?」
「はい。彼らが言うにはゴンダスは冒険者ギルド主催のセミナーを開いており、彼らはそれに参加して様々なクズ行為を教わったそうです。その時出された食事に禁止薬物が混入されており気づかず摂取したものと思われます」
「ふざけんな!そのクズ行為ってのはクズスキルのことなんだろ!なんで俺らがクズスキルなんぞ伝授しなきゃならねえんだ!!」
「ゴンダスは“エクセレントスキル”と呼んでいたそうですが」
「何がエクセレントスキルだ馬鹿野郎!!」
ホスティが机に両手を叩きつけた。




