728話 クズ冒険者達は諦めたくない その2
喚き続けるクズ冒険者達にロックが冷めた目を向けながら言った。
「では当然リサヴィの皆さん全員の名前を言えますよね?もし言えたなら大親友、でしたか、その言葉を信じ……いや、やっぱり信じられませんがブレードシャークはあなた方に差し上げましょう」
ロックの言葉を聞き、クズ冒険者達が一斉に「よっしゃー!!」と叫びガッツポーズを決める。
また答えてもいないのに「交渉がうまくいったぜ!」と全員がもう手に入れたかのように騒ぎまくる。
「喜ぶのはまだ早いですよ。まだ全員の名前を答えてもらっていません」
「馬鹿野郎!そんなん簡単だろうが!」
「おう!大親友の俺達なら余裕だぜ!」
「それはもういいですから早く名を上げてください」
クズ冒険者達はロックの態度にムッとしながらも名を上げ始める。
「鉄拳制裁サラだ!」
「鉄拳制裁サラだ!」
「鉄拳制裁サラだ!」
「鉄拳制裁サラだ!」
クズ冒険者達は全員が言い終えると再びガッツポーズをした。
その姿を見て探索者のリーダーが思わず呟く。
「ギャグか」
ロックが無表情で催促する。
「まだサラさんの名前しか、一人しか上がっていませんよ」
ロックの指摘で彼らは顔を見合わせる。
「お前が言え」と突き合う姿を見てロックが言った。
「やはり大親友は嘘ですね。ではお引き取り……」
「「「「ちょ、ちょ待てよ!!」」」」
そう言って円陣を組みぼそぼそと作戦会議?を始める。
探索者のリーダーが呆れた顔でロックに尋ねる。
「なあ、この茶番、いつまで続けるんだ?」
「まあまあ。もう少しだけ付き合ってください」
作戦会議?が終わると彼らは自信満々の笑みを浮かべていた。
ロックはまったく期待していない口調で答えを促す。
「ではどうぞ」
クズリーダーが自信を持って答えた。
「鉄拳制裁サラ!」
「それはさっきも聞きました」
「ざけんな!黙って最後まで聞きやがれ!」
「それは失礼しました」
クズリーダーがクズ戦士に顎で合図する。
「うっかり神官のアンリエッタ!」
もう化けの皮は剥がれたが(いや、最初から剥がれていたか)、ロックは顔色ひとつ変えずに先を促す。
ロックが否定しなかったことでクズ冒険者達は正解だと思い込み調子に乗った。
「リッキーキラー!!」
その言葉で集まっていた冒険者達の中に殺気を発した者達がいたが彼らは気づかなかった。
だが、流石にその二つ名が蔑称であると気づく者が彼らの中にもいた。
「おいおい、それはマズイって言っただろ!」
「おお、そうだったな。訂正するぜ!冷笑する狂気だ!」
「どちらも名前ではありません。二つ名です」
「うっせえなぁ!みんな二つ名でしか呼ばねえんだからいいんだよ!」
「おう!俺が許す!」
「俺もな!」
「俺もだ!」
仲間内で許可が出たのを聞き、発言したクズが「どうだ!」という顔をロックに向ける。
クズ冒険者への耐性がない探索者達は頭が痛くなってきた。
「お前らにそんな権限ないだろ」
探索者のリーダーのツッコミは彼らには聞こえなかったようだ。
ロックはとりあえず最後まで聞くことにした。
「それで最後は?」
「棺桶持ちだ!」
その言葉に今度は重装魔装士達から殺気が湧き上がる。
もちろん、クズ冒険者達が気づくはずもない。
「それも名前ではありません」
「さっきから言ってんだろうが!どっちでもおんなじだってよ!」
「「「だな!」」」
「それは魔装士全てに対する蔑称です。少なくとも大親友を蔑称で呼ぶはずがありません」
「俺らはそう呼んでたんだ!あいつもそれで喜んでたぜ!!」
「「「だな!!」」」
「……そうですか」
「「「「おう!!」」」」
クズリーダーが勝ち誇った顔で言った。
「これでブレードシャークは俺らのもんだって決まったな!」
「「「だな!」」」
「いいえ。決まったのはあなた達がリサヴィの皆さんの大親友というのが真っ赤な嘘だということです。まあ、最初からわかっていましたが」
「「「「ざけんなー!!」」」」
「ちなみに先ほどの答えですがサラさん以外、全て間違えです。二つ名は当然認めません」
「ざけんな!!少なくともアンリエッタは合ってんだろうが!!」
「半分合ってんだ!もう全員正解と言っても過言じゃねえ!!」
「「「だなー!!」」」
探索者達は頭を押さえながら言った。
「……こいつらマジか?」
「言葉の意味を理解してんのか?」
「頭大丈夫か?いや、大丈夫じゃないか」
探索者のリーダーはロックが頷くのを見てクズとの会話を打ち切る。
「もういいから去れ。これ以上茶番を続けるようなら強制排除するぞ。冒険者の誇りを汚す恥晒しのクズどもが!」
探索者のリーダーの言葉にクズ冒険者全員がキレた。
「「「「誰がクズだ!!誰が!!」」」」
彼らはこぞって武器を手にすると切先を探索者達に向けた。
各々がカッコいいと思うポーズでだ。
こんなこともあろうかと必死に練習していたのである!
もちろん脅しだったが、その行為は自身の死刑宣告となった。
「俺ら……ん?」
叫びを中断したクズ冒険者の首がぽてっと砂浜に落ちた。
武器を手にした彼をアマサーンが敵と認識し首を刎ねたのだ。
残りのクズ冒険者達が重装魔装士の言葉を思い出し慌て出す。
「ちょ、ちょまてー……」
「ち、ちが……」
「な、なあ、わかん……」
クズ冒険者達は敵意はないと必死に言い訳を始めるが相手はオートマタである。
言い訳が通じるわけなくアマサーンは容赦なく次々と首を刎ねていく。
あっという間にクズ冒険者達は全滅した。




