725話 カルハンの重装魔装士
大型のサンドシップがフェランの港街の近海にやって来た。(カルハンで開発された浮遊船はどこを飛ぼうとサンドシップと呼ぶ)
元はカルハン海軍所属の軍艦であったが、払い下げられ遺跡探索者ギルド所有となっていた。
船の名はネプチューという。
ネプチューはただのサンドシップではない。
改装され船内に遺跡探索者ギルド支部が設けられていたのだ。
この海域の新たな支配者となったブレードシャーク達が自分達の縄張りに侵入したネプチューに襲いかかる。
ブレードシャークはBランクにカテゴライズされている魔物だ。
その強さはSランクのブラッディクラッケンには遠く及ばないが数が多く、バルバール海賊団が呆気なく全滅したところから決して油断できる相手ではなかった。
だが、ネプチューは元軍艦ということもありビクともしなかった。
ブレードシャークの攻撃ではネプチューの船体に穴を開けることもできない。
ほどなくしてネプチューの甲板に三人の魔装士が姿を現した。
腰にスカート型の移動用魔道具を装備した重装魔装士であった。
それに気づいた一体のブレードシャークが海から飛び出して重装魔装士達に襲いかかった、
かに見えたがそれより早く重装魔装士の一人が左肩にマウントしていたリムーバルバインダーをパージし襲い来るブレードシャークに向かわせた。
衝突するかに思えた瞬間、リムーバルバインダーの蓋がパカっと開いた。
中は空だった。
その代わり内部と開いた蓋の内側にはびっしりと赤い棘が生えていた。
その姿はまるで凶悪な肉食獣が獲物を捕食するために口を大きく開いたかのようであった。
これは武具の格納や魔力供給機能を排除し攻撃に特化したアイアンメイデンと呼ばれるリムーバルバインダーであった。
アイアンメイデンが噛みつきに来たブレードシャークに逆に噛み付いた。
悲鳴を上げるブレードシャークに残りの重装魔装士達がパージしたリムーバルバインダー、アイアンメイデンが襲いかかり、その体を引き裂いた。
その姿は三匹の凶悪な肉食獣が獲物の体を食い千切るかのようであった。
アイアンメイデンに襲われたブレードシャークは肉だけでなく、内臓も抉られ骨を剥き出しにして海へと落ちていった。
説明するまでもなく即死である。
重装魔装士達の攻撃はそれで終わりではない。
右肩に装備されたリムーバルバインダーの蓋が一斉に開いた。
そこから現れたのはカルハン海軍で正式採用されている水陸両用オートマタ、アマサーンであった。
武器は左腕のかぎ爪と右腕に内蔵されたブレードだ。
背部には風魔法を利用した海中移動用の魔道具が内蔵されていた。
「どぅーむ、行け」
重装魔装士達の命を受けアマサーン達がネプチューの周囲をうろついていたブレードシャークに向かってジャンプし海へ飛び込んだ。
しばらくすると海上にブレードシャークの死体がいくつも浮かび上がって来た。
重装魔装士に攻撃を仕掛けるブレードシャークもいたが三人の連携は見事で尽く返り討ちにされた。
ロックはその様子を浜辺から魔道具“望遠くん”で見ていた。
「……あれはカルハン軍正式仕様のリムーバルバインダー、アイアンメイデン。そしてカルハン海軍の水陸両用オートマタのアマサーン?しかし、あれは市販はされていないはず……彼らはカルハンの軍人?」
ロックの呟きに答える者はいない。
やがてブレードシャークの襲撃はなくなった。
全滅したかは不明であるが、少なくとも現状この辺りに生きているものはいないようだった。
ネプチューが浜辺に到着し、着陸した。
三人の重装魔装士が甲板から飛び降りる。
腰のスカート型の移動用魔道具を制御して静かに浜辺に着地した。
それと同じくしてネプチューの側面にあるドアが開き新たな人物達が姿を現した。
彼らは装備からして冒険者、いや、探索者であろう。
探索者達がロックの前にやって来た。
その後に三人の重装魔装士が続く。
「久しぶりだな。ロック」
声をかけて来た探索者を始めパーティメンバーにロックは見覚えがあった。
ロックは彼らが冒険者だった頃に何度か依頼をしたことがあったのだ。
そのパーティは数年前に遺跡探索者ギルドに入会し、そのまま活動拠点をカルハンに移したため久しく会っていなかった。
「まさかあなた達が来ると思いませんでした」
「俺達もだぜ。どうやら以前にフェランで活動していたことがあったから選ばれたようだ」
彼らは少し前まで両方の組織に所属していたが現在は遺跡探索者ギルドにしか所属していない。
再会を喜びあっているところで先ほど海に飛び込んだアマサーン達が姿を現した。
それぞれ左腕のかぎ爪でブレードシャークの死体を掴んでおり、引きずって浜辺に引き上げて来た。
その様子を見ながらロックが尋ねる。
「カルハン海軍が協力するとは聞いていませんが?」
「安心しろ。彼らは軍人じゃない。歴とした探索者だ」
「カルハン軍とは無関係ということですか?」
「そうだ」
しかし、ロックは素直に信じることが出来なかった。
「私の記憶ではあのオートマタ、アマサーンは市販されてはいなかったはずですが?」
ロックの疑問に当の重装魔装士達が答えた。
「どぅーむ。この魔装具は今回特別に貸してもらったのだ」
「貸してもらった、ですか?」
「どぅーむ。俺達は元軍人でな。融通を利かせてもらったのだ」
「どぅーむ。その代わりネイコの方舟で得た財宝の一部を軍に支払うことになっているがな」
「そうですか」
ロックは優れた商人である。
それが評価されて遺跡探索者ギルドとの交渉を任されたのだ。
とはいえ、流石に仮面で顔が見えない相手の顔色をうかがうのは無理であった。




