724話 遺跡探索者ギルドの来訪
フェランの港町の近海に出現したネイコの方舟は冒険者にとって格好の探索場となるはずだった。
しかし、彼らはやって来て皆一様に途方に暮れる。
彼らにはネイコの方舟に向かう手段がなかったのだ。
舟を持つ地元の漁師達に「舟を出してくれないか」と交渉するも全て断られた。
この近海の主であったブラッディクラッケンはいなくなったが魔物は他にも棲息している。
サーギンの姿はあまり見られなくなったがエッジフィッシュはいまだ多く棲息している。
それだけでも漁師達には脅威なのに今ではバルバール海賊団が呼び寄せたブレードシャークまでいるのだ。
自分達の命をかけてネイコの方舟へ送り届けるのは割りが合わなかったのだ。
しかし、「行けばなんとかなるさ」という甘い見積もりで続々と冒険者達がこの港街に集まって来た。
ネイコの方舟へ向かう手段がないと知り、すぐさま引き返す者達もいたが、諦めきれず何か変化が起こる事を望み留まる者達もいた。
サイゼン商会が急ピッチで船の準備をしているがこれはあくまでも海底に沈んでいる財宝を引き上げるためであり、ネイコの方舟の探索は考えていなかった。
そもそも準備を始めた時にはまだネイコの方舟は出現していなかったのだ。
仮に用意した船で冒険者達を運ぶことになった場合、問題となるのがクズ冒険者達である。
彼らが乗船を希望した時に、
「あなた達はクズだからダメです」
とは流石に商人の立場では正直に言えない。
差別すれば後で商会が嫌がらせを受ける可能性が高いのだ。
他にそれらしい理由を述べてもクズ達は納得しないだろう。
間違いなく彼らは自分達に都合のいい回答を得るまで同じ会話を繰り返すクズスキル?クズループを発動させることであろう。
どうでもいいことであるが、このクズループはゴンダスが生み出したものではないため正式名称は存在しない。
そんなわけでサイゼン商会はクズを問わず冒険者達の輸送を拒否することを決めていたのである。
リサヴィがハイト山脈にある隠れダンジョンに挑んでいる頃、サイゼン商会のロックはフェランの港街に来ていた。
今日、遺跡探索者ギルドの船が近海に到着するとの報告を受けており、彼らと今後の打ち合わせをするためである。
ロックは約束の時間より少し前に彼の護衛達と共に浜辺へとやって来た。
浜辺には多くの兵士達と冒険者達がいた。
周囲の冒険者達を見渡した後でため息をつく。
ため息をついたのは冒険者が多くいたからではない。
クズ冒険者が多くいたからだ。
別に彼らは「クズです!」と名札や看板をぶら下げているわけではない。
にも拘らずロックがそれと気づいたのは彼らの態度だ。
皆一様に腕を組んで仁王立ちし、なんか偉そうな顔をしていた。
相手がいればキメ顔をしていただろう。
彼らを見てロックがボソリと呟く。
「クッズポーズか……」
その言葉は自称劇作家の双璧の男が名付けたものであったが一気に広がってロックの耳にも届いていた。
ただ、彼らクズ冒険者達はそのことを知らないのかクッズポーズを取り続けながら周囲を見渡していた。
運良く舟を出す者が現れたら自分達も乗せてもらおうと思っているのかもしれない。
あるいは可能性は低いが流れついた財宝を発見した者がいないか見張っているのかもしれなかった。
リサヴィがいた頃は海岸の隅っこで大人しくしていた彼らであったが、今や我が物顔であちこちに立っていた。
ロックはクズのために頭を使うのがバカらしくなり頭を切り替える。
いや、切り替えようとしたのだが、金の匂いでも嗅ぎつけたのか一組のクズパーティが目の前にやって来た。
そのクズパーティのクズリーダーがロックに声をかける。
「お前見たことがあるぞ!確かサイゼン商会のロックだな!?」
「はあ。確かに私はロックですが」
クズリーダーがロックを護衛する者達を見てニヤリと笑った。
「お前、そんな護衛で大丈夫か?」
その言葉に護衛達がムッとする。
「問題ありませんよ」
「いやいや大ありだ!自分の命を守るんだぞ!一番いい護衛を雇うべきだろう!そう、俺らのようなな!!」
クズリーダーがそう言うとパーティメンバーも揃って腕を組んで仁王立ちする。
そしてキメ顔をした。
ロックは目の前でクッズポーズを見せられ顔が強張った。
思わず笑いそうになるのを必死に堪えたのだ。
それに気づかず、クズリーダーは偉そうに続ける。
「よしっ、決まったな!お前らは用無しだ!さっさと消えろ!」
クズリーダーに続いてクズメンバーも護衛達を達を追い払おうとする。
「結構です」
ロックの言葉は当然、彼らの耳には届かなかった。
クズフィルターでカットされたのかもしれない。
クズ冒険者達とロックの護衛達が一触即発の状況に騒ぎを聞きつけた兵士達がやって来た。
それに気づきクズ冒険者達は逃走した。
ロックは再びため息をついて言った。
「……クズ冒険者が」
ちなみにそのクズ達だが兵士を巻いたらしくしばらくして浜辺に戻ってきていた。
約束の時間を少し過ぎた頃、周りでざわめきが起きた。
彼らが指差す方向に目を向けると沖に船らしき姿が見えた。
ロックは魔道具、望遠くんを目に当てて確認する。
「……あれが遺跡探索者ギルドの船?浮いていますからサンドシップですね……しかし、カルハン海軍のもののようにも見えますが……」
そう思ったのはロックだけではなかったようだ。
フェランの兵士達も遺跡探索者ギルドが船でやって来ることを知っていたがカルハンの軍艦が来たと思ったようで慌ただしくなった。
ロックの元へ兵士達の隊長がやって来た。
ロックは知らなかったが彼はここ最近いろんな出来事が重なり、その対応に追われて五キロほど痩せていた。
それはともかく、彼は真剣な表情でロックに尋ねる。
「ロック殿、あの船は遺跡探索者ギルドのものですか?」
ロックは彼を安心させようと落ち着いた態度で答える。
「はい。間違いなくあれは遺跡探索者ギルドの船です。船体に遺跡探索者ギルドのマークがあります」
「そ、そうですか」
その言葉に隊長はほっとする。
「それにいくら大国カルハンといえどもいきなり侵略行為などしないでしょう」
「確かにそうですね」
「ここは私に任せて兵を下がらせて下さい。下手に緊張をさせてはお互いのためになりませんから」
「わかりました。あとはお任せます」
「はい」
ロックは物分かりの良い隊長でホッとした。
とはいえ、ロック自身も百パーセント安心しているわけではなかった。




