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723話 隠しダンジョン

 リサヴィはハイト山脈の山道を進んでいた。

 アズズ街道が復旧した今、凶悪な魔物が多く棲息しているハイト山脈越えをわざわざ選ぶ者などよほどの物好きか戦バカだ。

 そんなわけでリサヴィは魔物以外とは出会っていない。

 日が暮れて来た頃、前方にキャンプスペースが見えてきた。


「リオ、今日はあそこのキャンプスペースで休みませんか?」

「そうだな」


 夕食の準備をしているリオを手伝いながらアリスが言った。


「あのクズ達っ、どうしてますかねっ?」

「ぐふ、引き返しただろう」

「そうですね。夜通し歩けば私達に追いつくことができるかもしれませんが、彼らの実力ではその前に魔物に襲われるでしょう」


 サラの言葉の後に「そして死ぬ」と皆が頭の中で付け加える。

 その置き去りにしたクズ冒険者達だが、今いる場所がどれほど危険なところなのか怒りで我を忘れて騒ぎまくった挙句、魔物を引き寄せて逃げていったことなど知る由もない。



 夜が明け、朝食を済ますと歩みを再開した。

 途中で昼食を兼ねた休憩をとりながら進む。

 魔物の襲撃が何度かあったが難なく撃退した。

 そして日が暮れて来た頃、突然、リオが立ち止まった。


「どうしました?」


 リオは問いに答えず、山道脇の森をじっと見つめる。

 皆がそちらに目を向けた。

 そこの茂みは微かに踏まれた跡があった。

 どうやらそこから何かが森の中へ入っていたようだ。

 それが人なのか、魔物なのかは判断がつかない。

 盗賊クラスがいたらわかったかもしれないが残念ながらリサヴィにはいない。


「行ってみるか」

「本気ですか?」

「ああ。強制はしない。嫌ならそのまま山道を進めばいい」


 リオは素っ気なく答えた。


「そんなわけにはいかないでしょう」

「そうなのか?」


 リオは首を傾げながら尋ねた。

 本気でそう聞いたようだ。


「あなたを野放しにすると何するかわかりません」

「ぐふ、また鬼嫁気取りか」

「誰がですか」

「ほんとにっ油断できませんねっ」

「何もしていないでしょう」


 リオがどうでもいいように言った。


「まあ、サラがいようがいまいが俺のやる事は変わらないけどな」

「な……」


 サラが文句を言う前にリオは森の中へと入っていく。

 その後にアリス、ヴィヴィが続き、最後にサラ達がため息をつきながら続いた。



 しばらく進むとあたりが開けてきた。

 その先にはぽつん、と小屋が立っていた。

 アリスがぽつりと呟く。

 

「なんかっとても場違いですねっ」


 その小屋を見ていたサラが思わず呟く。


「……あれ?」


 その言葉を聞きつけアリスが尋ねる。


「どうしましたっ?」

「私はこの小屋を見たことがあります。知っています」

「そうなんですかっ?」

「これはなんだ?」


 リオの問いにサラは答えようとした。


「この小屋には……!!」


 サラはそこまで言って内心しまった、と思った。


「サラさんっ?」


 皆の視線がサラに集中する。


(今更知りませんとは言えないわね。別に秘密と言われているわけでもないですし)


「話す前に私の記憶が間違っていないか確認させてください」


 皆特に異論はなかった。

 サラを先頭に小屋に向かう。

 ドアに鍵はかかっていなかった。

 中に入り、一通り確認する。

 大したものは置いてなかった。

 ただ最近人が使った形跡があった。

 その者が先ほどの跡を作ったのかもしれない。

 サラは奥の部屋に入るとある床の前に立った。

 そこで腰を下ろして床を軽く叩いた。

 するとその床が外れた。


「あっ!?」


 アリスが驚きの声を上げる。

 その床の下から階段が現れた。


「ぐふ、そろそろ説明してもいいのではないか?」

「そうですね。この下に地下室があるはずです」

「地下室には何があるんだ?」

「何もありません」

「なに?」

「行ってみればわかります」


 念のため、下に誰かいないか気配を探るが何も感じなかった。

 階段を下りた先はサラの言った通り地下室だった。

 何もないが部屋の端の床には魔法陣が描かれていた。

 ただ、その魔法陣は相当昔に描かれたらしく、所々消えており今は機能していないようであった。

 

「サラさんっ、ここは何ですかっ?」

「ここはナナル様がお持ちのラビリンスキューブによって転送される場所です」

「ラビリンスキューブっ!?」


 ラビリンスキューブとは人を転送する魔道具で通常は魔術士の隠れ家やダンジョンへと運ぶ。


「つまりこの近くにダンジョンか魔術士の隠れ家……いや、ナナルのものならダンジョンがあるんだな?」

「はい、そうです。かつて私の特訓で使用したダンジョンがこの近くにあります」

「ぐふ、隠れダンジョンか」

「ちょっとっ疑問があるんですけどっ?」

「なんですか?」

「ラビリンスキューブってっ、一方通行ですよねっ。サラさんはっそのダンジョンで特訓してどうやってムルトに戻ったんですかっ?」

「ぐふ、確かにな。お前がこの場所を把握していなかったのだから通常の手段でムルトに帰ったわけではあるまい」

「その通りです。そのダンジョンの地下十階に転送陣があるのです。そこからムルトに近い場所へと転送されます」

「それは面白いな」


 リオが興味深げな笑みを浮かべる。


「行ってみるか」

「ダンジョンにですか?本気ですか?」

「ここからどれくらいかかるんだ?」

「ダンジョンまではここから歩いて一時間ほどですが、十階まで、その転送陣までは五日ほどかかりました」

「一人でか?」

「はい。ナナル様は手伝ってくれませんでしたから」


 ヴィヴィが考えながら言った。


「ぐふ、確かに悪くないな。単純計算で戦力は四倍だ。二日もあれば余裕で到達するだろう。その転送陣を使えば一気に移動でき、私達の行動を把握したクズ達がハイト山脈の出口で待ち伏せしていたとしても回避できる」

「確かにっ」

「サラ、ダンジョンに入るためのアイテムとか必要か?」

「いえ、アイテムは必要ないですが……」

「じゃあ行くか……いや……」


 リオは決断した後、考え込み始める。


「ぐふ?」

「一つ問題があった」

「なんですかっ?」

「そのダンジョンにどうやって行くかだ」


 リオの言葉を聞いてアリスが首を傾げる。


「何を言ってんですかっ。サラさんが知ってるじゃないですかっ……はっ!?」


 アリスは言った後で珍しくすぐ気づいた。


「そういえばっサラさんてっ方向音痴でしたねっ」

「違います」

「まあ、それはすぐわかることだ」

「失礼ですね!」

「ぐふ、夜の森を方向音痴のサラについて歩きまわるのは危険だ。無駄に体力だけ消耗する可能性が高い」

「失礼ですね!」

「じゃあっ今日はここで一泊して明日の朝出かけることにしませんかっ?」

「そうだな」

「……」


 誰もサラが方向音痴であることを疑っていなかった。



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