719話 アズズ街道警備の冒険者達との再会
「よう、リサヴィ!」
サラはその声に聞き覚えがあったので声のした方向に顔を向けた。
それはアズズ街道を警備していた四組のパーティのうちの一組であった。
「ちょっと待ってくださいリオ」
サラの声でリオは足を止めた。
それにアリスとヴィヴィも従う。
やって来た彼らにサラが声をかける。
「久しぶりですね」
「そうだな」
彼らと話しているところにまた声がかかった。
「よう!リサヴィ!!」
聞き覚えのない声だったのでサラは無視し、その声の主と目を合わさないよう気をつけながら彼らとの会話を続ける。
「他の方達は街道警備ですか?」
「そうだ」
「お前らはいつまでフェランにいるんだ?」
「実は今から出発するところなのです」
サラの返事に彼らは残念そうな顔をしたが引き留めることはしなかった。
「まあ、その方がいいかもな」
「そうだな。港街の近海に沈む財宝やネイコの方舟目当てに続々と冒険者達が集まってきてるからな」
「もちろん、クズ冒険者達もな」
「そのようですね」
サラがそう言った直後だった。
「よう!リサヴィ!!」
再び声がかかったがサラ達は無視した。
「しかし、ここから出るにしても大変だぞ」
このパーティのリーダーが先ほど呼びかけて来た者を胡散臭そうな目で睨む。
「クズがおこぼれ貰おうとお前達を狙ってるからな」
「そのようですね。しかし、それはあまり心配していません」
「そうなのか?」
パーティの一人が「あっ」と呟いて声を潜めて言った。
(もしかしてヤルのか?クズ抹殺?)
「そんなことしていません」
サラは冷めた目で否定する。
リーダーが発した者を注意する。
「やめろ。ここでする話じゃないだろ」
「済まない」
彼らにサラの言葉は正しく伝わっていなかった。
サラはそのことに気づいたがこの場で納得させる自信がなかったので諦めて理由を口にする。
「私達はハイト山脈経由で行きます」
「ハイト山脈?なんでまた?」
「確かにクズ達の実力じゃ追ってこれないだろうけどよ」
「リオが行きたいそうなのです」
「そうなのか?」
リオは彼らの視線を受けて理由を答える。
「同じ道を進んでもおもしろくないだろ」
「「「……」」」
リオの答えに彼らは沈黙した。
確かにそう思うことはある。
だが、それは危険がない、あるいは他の道と同程度の危険度の場合だ。
以前の状態を取り戻したアズズ街道があるのに何故危険なハイト山脈を選ぶのか?
その疑問はすぐ解けた。
伝説の魔物(実際には魔族だったが)ザブワックを倒したのだ。(本人達は否定しているが彼らは確信していた)
その力を持つリサヴィならどちらを選んで大して変わらないのだろうと。
納得したところで彼らの一人が話を戻す。
「しかし残念だよな。他の奴らも会いたがっていたんだけどな」
特に魔法が授からず悩んでいた神官が魔法を授かったことをリオに話したくてしょうがなかったことを話すが、当のリオはその話を聞いても無反応であった。
その態度を見ても特に気分を悪くはしなかった。
リオはなんとなくそんな反応をするかもと思っていたからだ。
「よう!リサヴィ!!」
聞き覚えのない声だったのでサラ達はまた無視して彼らと話を続ける。
「よろしくお伝えください。ね、リオ」
「ああ」
「わかった。伝えとくぜ」
リーダーがそう答えた時だった。
「よう!リサヴィ!!」
これまた聞き覚えのない声だったのでサラ達は無視し、彼らと別れた。
もちろん、何事もなくこのまま終わるわけはない。
リサヴィの前に立ち塞がる者達がいた。
「よう!リサヴィ!!」
サラを始め皆彼らに見覚えはなかった。
だが、その声には聞き覚えがあった。
先ほどから声をかけて来た“者達”の中にいたのだ。
「よう!リサヴィ!!」
「よう!リサヴィ!!」
「よう!リサヴィ!!」
新たに三組、計四パーティがリサヴィの前に現れた。
彼らに共通するのは腕を組んで仁王立ちしキメ顔をしていることである。
更に加えると皆、クズ臭をぷんぷんさせていた。
リサヴィに堂々と絡んでくるところを見るとこの街にリサヴィ派がいることを知らない、新たにやって来たクズ達なのであろう。
サラが面倒臭いと思っていることを隠しもせずに言った。
「邪魔です。退いてください」
しかし、これまでクズ冒険者達が人の話を聞くことはなかったし、彼らももちろん聞かなかった。
リサヴィがクズに絡まれているのを見て偽魔装士達を排除したマトモな冒険者達が助けに入った。
リサヴィに絡むクズ冒険者達を引き離すマトモな冒険者達もリサヴィと話がしたかった。
だが、それ以上にクズ冒険者と間違われたくなかった。
今のリサヴィは皆不機嫌な顔をしている。
その状況で面識のない自分達が話しかけてもクズ冒険者と間違えられる可能性があるので泣く泣く話しかけるのを断念し、クズ冒険者達を排除する方に回ったのである。
そんなわけで彼らはクズを排除するのに必要以上に力が入っていた。
格好だけのクズ冒険者達が悲鳴を上げながら逃げ出した。




