716話 ロックとの雑談 その4
「残念ですが仕方ないですね」
そう言ったロックだが魔物退治を拒否されたことに大してショックを受けていないようだ。
サラ達はロックが最初から断られると思っていたのだろうと思ったがそれだけではなかった。
「実は、今日の昼過ぎに遺跡探索者ギルドから海底に沈んでいる財宝回収に邪魔な魔物退治を引き受けてもよいと連絡があったのです」
「遺跡探索者ギルドですか?冒険者ギルドではなく?」
「はい。彼らは魔物の攻撃に耐える強力な船を所有しているとのことです」
冒険者ギルドはどこの国にも属していない独立した組織だが、遺跡探索者ギルドの設立にはカルハンが大きく関与している。
一説にはジュアス教団を贔屓する冒険者ギルドを嫌って対抗組織を作ったというものがあるが真偽は不明だ。
遺跡探索者ギルドの支部を置くことをカルハンを警戒するエル聖王国をはじめとする大国は許可していない。
今のところ、カルハンと友好的な都市国家にのみ遺跡探索者ギルドは存在する。
「フェランはカルハンと親交があったのですか?」
ロックはサラの言葉を聞いて勘違いしていることに気づいた。
「いえ、違います。遺跡探索者ギルドはフェランにではなく私共サイゼン商会に話を持ってきたのです」
「はあ」
ロックはサラ達の表情からまだ情報が不足していると気づく。
「皆さんはご存知なかったかもしれませんが、アズズ街道でのクズ冒険者達の愚行が私どもを含むアズズ街道警備依頼を出している商会の間で大問題となったのです。そして『警備を冒険者に任せておけない』という結論になりましてまずはオッフルに遺跡探索者ギルド支部を立ち上げるということになりました」
都市国家オッフルの王はカルハンと特に親しいわけではなかったし、カルハンの影響力が強い遺跡探索者ギルドを自国に持ち込みたくなかった。
だが、大商会から「アズズ街道警備に資金提供するのをやめるぞ!」と脅されて渋々支部を認めたのだ。
「その関係でサイゼン商会が遺跡探索者ギルドと打ち合わせ頻繁にするようになり、そこから今回の提案を受けたのです」
遺跡探索者ギルド誘致の言い出しっぺはサイゼン商会なのだが、そこまで詳しくロックは話さなかった。
ここまでの説明を受けてサラ達は納得した。
「そういうことだったのですか」
「ぐふ、まあ仕方ないかもな」
「私個人としてはそこまでしなくてもと思っています。皆さんのような立派な冒険者の方が多いのですから依頼を受ける冒険者を厳しくチェックするだけでいいと思っているのですが」
「私達を信用してもらえて嬉しいですね」
「それは本当のことですので。ああ、話が少し逸れましたね。その件で下見に来ていた者がブラッディクラッケンが倒されたことを知ったそうです」
「今の話の流れからすると遺跡探索者ギルドの申し出を受けるのですね?」
「はい。フェランの王は最初難色を示されましたが彼らの力を借りることが最短で財宝を回収する方法であることは間違いありません。皆さんと出会ったのはその交渉の帰りだったのです」
ヴィヴィが遺跡探索者ギルドが持っている船について話をする。
「ぐふ、探索者ギルドのいう船とはおそらくサンドシップだな」
「はい、私もそう思います」
ここでいうサンドシップとはカルハン領内で使用されている浮遊船のことだ。
浮遊船とは言っても高くは飛べず一、二メートル浮く程度だ。
当然、海上を移動することもできる。
「ぐふ、それでどのくらいふっかけられたのだ?」
「海底に眠っている財宝のことでしたらいらないそうです」
「えっ?タダで魔物退治してくれるんですかっ?」
「あくまでも海底に眠っている財宝は、です」
ロックの言い方でヴィヴィは遺跡探索者ギルドの目的に気づいた。
「ぐふ、奴らの目的はネイコの方舟か」
「はい。ネイコの方舟の探索許可が魔物退治をする条件です」
「ネイコの方舟は誰のものでもないですが留まっている場所がフェランの領海ですから後で揉めないように話をしてきたということですね」
「はい。それと魔物退治ですがネイコの方舟が留まっている間だけです」
「なるほど」
「ただ、倒した魔物に引っかかっていたりして意図せず手に入れた財宝はその限りではないとのことでしたが」
「それはそうでしょうね」
「ですねっ」
「ぐふ、そうなるとネイコの方舟探索は実質、遺跡探索者ギルドの一人占めだな」
「そうですね。冒険者達にはネイコの方舟へ向かう手段がありませんからね」
言い方からしてロックはネイコの方舟に眠る財宝には興味なさそうであった。
実際、ダンジョン探索は冒険者ギルドや遺跡探索者ギルドの領分である。
アリスは遺跡探索者ギルドの行動に疑問を持った。
「遺跡探索者ギルドはっ海底に眠る財宝よりもっネイコの方舟にある財宝の方に興味があるってことですよねっ?欲しいものが方舟にあるってわかってるんですかねっ?」
「そのようですね」
サラが首を傾げる。
「ネイコの方舟については謎が多いです。カルハンは私達が知らない情報を持っているということなのでしょうか?」
「そうかもしれません。カルハン魔法王国は暗黒大戦前にこの大陸を統一していた古代帝国の末裔が興した国だと歴代国王は豪語してますし、実際現存するどの国よりも長い歴史を持ちます。古代帝国の帝都は今のカルハン領内あったということですからネイコの方舟が作られた経緯やその当時の資料が残されていてもおかしくはありません」
「ぐふ、あるいは以前に現れたときに発見したもののなんらかの理由で持ち帰ることが出来なかった、とかな」
「その可能性もありますね」
アリスが沈黙しているリオに話を振った。
「リオさんはどう思いますっ?」
リオはアリスに顔を向けて言った。
いや、断言した。
「奴らが欲しいのはネイコの方舟そのものだ」
「「「「!!」」」」
皆、ネイコの方舟の船内がダンジョンと化していることからその中に眠る財宝ばかりに目が向いていた。
方舟自体が巨大な船型の魔道具であることを失念していた。
ただ、彼らを擁護するとネイコの方舟にはブリッジが存在しなかった。
少なくともこれまで発見されていない。
そのため、ネイコの方舟のことを知る者ほどダンジョンとしてのイメージが強く残っていたのだ。




