714話 ロックとの雑談 その2
「その量産型の性能は?」
今まで沈黙していたリオが突然発言したことに皆が驚く。
思わずサラが尋ねる。
「リオ、あなた話を聞いて……いえ、興味があったのですか?」
サラはリオの表情が微妙に不機嫌に変化したのに気づき慌てて言い直した。
リオは機嫌を悪くしたからかサラの問いには答えずロックに顔を向けその行動で先を促す。
ロックが先程自身で言ったようにこれは機密事項だ。
しかし、自分から言い出したことなので、
「いやあ、それは話せませんね。ははは」
とは言いにくかったこともあるがリオの目を見て話したい、ぜひ聞いてほしいという気持ちが強くなった。
その思いがどこから来るのかわからぬままロックは説明を始めた。
量産型の名前はウィング・ツーとなるとのことだった。
名前でわかる通りリムーバルバインダーの数をオリジナルの四つから二つに減らしている。
「ウィング・ツーと名付けてはいますが飛行用リムーバルバインダーはオプションです」
「ぐふ、装着者の魔力なしで魔装具を扱おうとするのだから仕方ないだろう」
「はい。ウィング・ツーは装着者自身の魔力でも操作可能にできますので飛行用は魔力に余裕がある者向けになります。とは言っても実際に飛行できる魔装士はそうはいないでしょうが」
「ぐふ、そうだろうな」
「そうなんですかっ?」
「ぐふ、ほとんどが飛行未経験者だからな。飛び方を教える者もいない」
「なるほどっ……あれっ?でもヴィヴィさんは上手く飛んでましたよねっ?」
「ぐふ、私は自分のリムーバルバインダーの上に乗って飛んだことがある」
「あっ、ブラッディクラッケンと戦った時のリオさんのようにですねっ?」
「ぐふ」
ロックの話を聞き終えてリオが小さく頷く。
「……それならいけるかもな」
リオの呟きを聞きサラが尋ねる。
「何がですか?」
リオはサラに顔を向けて言った。
「量産型を使えば一般人をCランク冒険者に底上げ出来るんだろ。攻撃力不足はスローランスを装備すれば補える」
「スローランスとはクレッジ博士が開発した魔装士の遠距離攻撃用の使い捨ての魔道具のことですね?」
ロックの確認にリオは小さく頷いた。
「私は実物を見ていませんがリアクティブバリアを発生させる特殊なゴーレムを倒したとか」
「そうですっ。でもっあれはっ、リアクティブバリアを発生続けさせてっマナ切れを起こさせて倒したんですよねっ」
「ぐふ、そうだ。数で押し切って倒した。リアクティブバリアを破壊するほどの力はなかった」
「過程はどうでもいい。倒せた。それが全てだ」
「しかしリオ、スローランスには魔法を付加する必要があります。魔術士が必要です」
「最初から魔法をかけておけばいい」
「そうですが維持できるのでしょうか?」
「知らん」
リオはサラの問いに素っ気なく答えた。
サラはむっとしたが確かにリオが知っているわけはない。
ロックがリオに根本的な質問をする。
「あの、リオさんは何と戦うつもりなのですか?」
「魔族に決まっているだろう」
リオの言葉に皆が驚きの表情をする。
ロックはリオはジュアス教団の神官であるサラかアリスに聞いて知ったと思った。
「サラさん!アリスさん!本当なのですか!?魔族の襲来があるのですか!?近づいているのですか!?」
アリスは驚いた顔で首を横に振ったがサラは沈黙したままだった。
サラは近い将来、魔族が襲来することを未来予知で知っていた。
だが、
(それを率いるのはリオ、あなたではないのですか?今の発言はまるで別の魔王が現れて襲撃するように聞こえ……!!)
そこでサラははっとする。
サラが見た未来予知では何体もの魔王が出現していたことを思い出したのだ。
(……もしかしてリオの未来が変わった!?リオは魔王にならず、魔王と戦う人類側になった!?)
サラはその考えに至り思わず笑みがこぼれる。
その顔を見たアリスが言った。
「サラさんっ、いくら戦バカだと言っても流石に魔族襲来を喜ぶのは不謹慎ですよっ」
アリスに注意されサラは謝罪した。
拳で。
「痛いですっ」
サラはこほん、と軽く咳払いして言い訳をする。
アリスをど突いたことにではない。
「すみません。混乱しててそのような表情に見えたかもしれませんが喜んでなどいません」
そう言った後リオに尋ねる。
「リオ、私達はそんな事を言ったことはありません。あなたはどこでそれを知ったのですか?」
サラの問いにリオはどこか呆れたような顔をする。
サラはムッとしたもののリオの言葉を待つ。
リオはどこか面倒くさそうな感じで口を開いた。
「最近魔族や魔物の動きが活発になっているだろう。これは近々、魔族の襲撃が近いからだ。そう思わないのか?」
「確かにっ」
「ぐふ……」
「そ、それはそうですが……」
リオはただ予想を口にしただけで確証がないとわかったがロックの中から不安は消えなかった。
ロックは困った顔をしながら言った。
「確かにリオさんの言う通り最近魔物の行動が活発に、そして強力になっているようです。魔物の強さがギルドが定義したランク以上で依頼に失敗したという話が商人である私の耳にも届いておりますので出来ることなら準備しておきたいのですが、実際のところウィング・ツー、それにスローランス、そのどちらも数を揃えるのは難しいです」
アリスが首を傾げながら尋ねる。
「量産型はまた完成していないんですからわかりますけどっスローランスもですかっ?」
「はい」
「マルコの魔術士ギルドが開発したものだからフェラン魔工所では作れないとか?」
「いえ。開発費を出したのは魔工所ですから製造法は知っていますが、そもそもあれは量産向きではないのです。魔道具を使い捨てにするので単価が非常に高いのです」
「ぐふ、確かにその通りだな」
「クレッジ博士は全く気にせず使っていたようですが」
「ですねっ」
ロックが苦笑する。
が、少々顔が引きつっているのでクレッジ博士が乱発したのは結構痛かったのだと察する。
「それとですね、実はあの公開実験で各国がスローランスのことを知ってレリティア王国に抗議が来たのです。『どこの国と戦争をする気だ』と」
「「「「……」」」」
「それでレリティア王国国王直々にスローランスの研究・製造を中止しろとマルコの魔術士ギルドに通達しただけでなく製造法を知っているフェラン魔工所にも来まして」
「それで造れないか」
「はい。私どもが従う義務はないのですが他の商売に支障をきたしてもいけませんし、都市国家連合内からも抗議が来ては従う他ありません」
「確かに同じ都市国家連合に属しているとはいえ隣国で強力な武器が造られているのは脅威でしょうね」
「ぐふ、その武器を運用する魔装具も造っているのだからな」
「はい。とは言っても私どもは最初から量産する予定はありませんでした。あれ“も”私どもが依頼したものではなくクレッジ博士が勝手に造ったものなのです」
「「「「……」」」」
クレッジ博士のゴーイングマイウェイぶりに皆呆れた。
魔族襲来用に装備を整える提案?をしたリオであるが難しいとわかっても無理に自分の意見を通そうとはしなかった。
その表情を見る限りどうでもよさそうであった。




