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713話 ロックとの雑談 その1

 しばらくしてロックの使いの者がやって来た。

 ロックが時間があれば雑談をしたいとのだった。

 部屋を用意してもらった上に豪華な夕食をご馳走になったこともあり了承した。

 使いの者に案内された部屋にいたのはロックだけでヤーべの姿も傭兵達の姿もなかった。

 呼ばれたのはリサヴィだけのようだった。

 皆が席についたところでロックが笑顔で話し始める。


「すばらしいですねウィング・フォーは!」


 ロックはクレッジ博士が開発した新型魔装具であるウィング・フォーのテスト状況を話し始めた。

 どうやらロックがリサヴィを呼んだのはウィング・フォーの話をしたかったからのようだ。

 ウィング・フォーは存在自体がフェラン魔工所の重要機密なのでおいそれと他の者には話せない。

 ヤーべはサイゼン商会の者だから関係者と言えなくもないが、あの危険人物がウィング・フォーの存在を知ったら何をするかわからない。

 黙って持ち出すことも十分に考えられるのでこの場に呼ばなかったのだろうとサラ達は思った。

 雑談と言いつつも何か依頼ごとがあるのでは?と思っていたので少し拍子抜けした。

 ロックは楽しそうに話を続ける。


「私のように魔力のほとんどない者でも操れるのが素晴らしい!幸い私には空間認識能力があるようでリムーバルバインダーを思ったように動かすことができました!」

「えっ!? ロックさんも使ったんですかっ?」


 アリスの問いにロックは嬉しそうに頷く。


「はい。ああ、もちろん、ヴィヴィさんと比べたら児戯に等しいですが」

「ぐふ、そうか」


 ヴィヴィのどうでもいいとでも言いたそうな少し冷めた返事も上機嫌のロックは気づかなかったようだ。


「私も四枚同時操作に挑戦したのですが流石に無理でした。全くいう事を聞きませんでしたよ。それどころかもう少しで魔装士酔いで戻してしまうところでした。ははは」


 ロックは失敗談を楽しそうに語る。

 ロックが笑顔なのはいつものことだが、それが営業スマイルである事は否めない。

 しかし、今浮かべている笑顔は本物だった。


「ぐふ、四つ同時は私でも神経を使ったからな。そもそもウィング・フォーは過敏に反応し過ぎる。本来、反応が早いのはいいことなのだがあれは早すぎる。考えただけで、実行するつもりがないのに動き出してしまうことがある」

「そう!その通りなのです!」


 ロックが相槌を打つ。


「他の試験魔装士達に聞いたところでは他の魔装具は強く念じることで動き出すそうですがヴィヴィさんもそうですか?」

「ぐふ、その通りだ」


 今の話を聞いてアリスが首を傾げる。


「わたしはっ魔装具を使ったことないのでよくわからないですねっ」


 ヴィヴィが少し考えてから口を開いた。


「ぐふ、リムーバルバインダーの動作をドアで例えるならば、ドアノブを回さないと開かないのが従来のもの、ドアノブに触れただけで開くのがウィング・フォーだな」

「ああっ。なんとなくわかりましたっ。ウィング・フォーは気が早いんですっ」

「そうなんですよ」


 楽しそうなロックにアリスが尋ねる。


「ロックさんはっ魔装士になりたかったんですねっ。だからっ魔装具開発に熱心だったんですねっ」


 アリスの問いにロックは首を横に振る。


「違いますよアリスさん」

「えっ?」

「私は魔装士になりたかったのではありません。冒険者になりたかったのです。その才能がなく商人の道を選びましたが諦めきれませんでした。今は冒険者になる“だけ”でしたらできます。しかし、それは私が目指した冒険者ではありません」


 ロックは明言しなかったがそれはフェラン製のあらゆる機能をオミットした廉価版魔装具を使って冒険者になった、いわゆる偽魔装士のことだと察した。


「私がなりたかったのは名ばかりのなんの役にも立たない冒険者ではなく、自分の力で依頼をこなせる冒険者なのです。その長年の夢がウィング・フォーの完成で見えてきました。とはいえ、流石にこの年で冒険者になる気はありません」


 その後、ロックは真剣な表情で付け加える。


「それでも私のように断念せざるを得ない者達に希望を残してあげたいのです」


 自分の言葉に酔っているロックに空気が読めないことには定評のあるアリスが冷水をぶっかける。

 

「でもっウィング・フォーは量産できないですよねっ?」

「……」


 静まり返ったことでアリスは失言に気づいた。

 

「すっ、すみませんっ、つい本当のことをっ」


 アリスの自覚のない追撃を受けたロックであるが笑みを絶やさなかった。

 しかし、内心相当ムッと来ていた。

 そのため、本来言うつもりはなかった情報を口にする。

 

「これは皆さんだからお話しすることですから口外しないで頂きたいのですが」

「いえ、重要な話であれば無理に話さなくても……」


 サラの言葉をロックは遮って先を続ける。

 

「実は既に量産用の試作を製作中なのです」

「えっ!?」

「え?」

「ぐふ?」

「……」


 ロックは皆の驚いた顔に満足した。

 いや、リオ一人だけ無表情だったがそれはいつものことなので気にせず続ける。


「皆さんが驚くのは無理もないですね。実際、量産型はウィング・フォーをデチューンしたものです。マナサプライヤーの代わりにプリミティブを使用しますので活動時間は有限ですしオリジナルに遠く及びません。ですがそれでも一般的な、Cランク冒険者程度の力を発揮できると思います。使いこなすことが出来ればそれ以上の活躍も出来ると思っています」

「ぐふ、それが本当なら偽魔装士は淘汰されるだろうな」

「はい」



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