712話 未来予知はあるのか?
ロックに連れられサイゼン商会が所有する屋敷に案内された。
部屋割りを尋ねられ、アリスが答えた。
「わたし達はっ全員一緒でお願いしますっ。抜け駆けする人がいっ……たいですっ」
アリスはサラにど突かれて頭を抱える。
ロックは苦笑しながらリサヴィを四人部屋に案内した。
普通の宿屋の四人部屋と違い広々として豪華な造りであった。
当然、二段ベッドではないし、特別製の四人用ベッドでもない。
ダブルベッド並みの大きさのベッドが四つ並べられていた。
ちなみに他のメンバーの部屋割りだが、ヤーべが一人部屋、残りは男女別々で二人部屋であった。
夕食は皆で一緒にとった。
食事を終えてリサヴィが泊まる部屋に戻ったところでサラはずっと質問したくてたまらなかったことをリオに尋ねる。
「リオ、あなたはネイコの方舟が現れることがわかっていたのですか?」
サラの質問にアリスが驚いた顔をする。
ヴィヴィは仮面に隠れて表情は見えない。
リオの答えだが、
「なんとなく何かが来ると思った」
と曖昧な答えをした。
少なくともやって来るのがネイコの方舟だとは知らなかったようだ。
サラは意を決して尋ねる。
「それは未来予知ですか?」
「未来予知?」
リオがくすり、と笑った。
「……何がおかしいのですか?」
むっとした表情を向けるサラにリオは答えた。
「サラ、お前は未来予知を信じているのか?」
「え?ええ……」
「そうか」
「リオ?」
リオの口から衝撃的な言葉が発せられた。
「そんなものは存在しない、と俺は思っている」
「そ、そんなことは……」
「逆に聞く。サラ、お前は見たことがあるのか?」
「え、ええ……」
「それは本当だったか?本当に起こったのか?」
「それは……」
サラはリオが魔王になる未来予知を見たがそれはまだ先の話だ。
サラの見た未来予知がこれだけなら偶然リオに似た者が魔王となった夢を見た、ただの勘違いだったと考えることが出来たかもしれない。
しかし、サラは一度も会ったことのなかったアウリンと未来予知で出会い、その後再会(と言っていいのかわからないが)したことで未来予知があることを確信した。
未来予知についてはサラだけでなく、ナナル、そしてユーフィも信じていた。
ユーフィなどは彼女の館にサラ達が来る未来予知を何度も見たと言っていたのだ。
そのことをリオも聞いていたはずだ。
それにも拘らず何故存在しないと言うのか?
人の話を聞かないリオのことなのでその時の話を聞いていなかった可能性もある。
その事を指摘してもよかったが、サラはこれ以上この話を続けるのは危険な気がした。
このまま未来予知について議論を進めてうっかりリオが魔王になることを話してしまうかもしれない。
それがどう影響するかわからないため、この話を切り上げることにした。
「……私が見た未来予知はまだ先のことです。内容についてはナナル様に話すことを禁じられていますので話せません」
「そうか」
リオはサラが見たという未来予知の内容に興味がないようだった。
そもそも未来予知を信じていないので聞くだけ無駄だと思っているのかもしれない。
二人の話を聞いていたアリスが口を開いた。
「あのっ、わたしはっ未来予知はあると思いますよっ」
サラは焦った。
またもアリスが空気を読まない発言をするのかと。
ただ、今回に限ってはそう思われるのはアリスは心外だろう。
サラがそんな事を考えているとはアリスでなくてもわかるはずはなかったのだから。
サラがハラハラしているのに気付くことなくアリスはのほほん、とした顔で先を続ける。
「ほらっ、ユーフィ様も見たって言ってたじゃないですかっ」
リオはその言葉を聞いても撤回しなかった。
「本人がそう言っているだけだ。ボケが始まっているのかもしれない」
リオは六英雄に対して容赦なかった。
「ぐふ、確かにな」
「まあ、その可能性も否定はできないですけどっ」
アリスは不満そうだったが証拠は何もないので諦めたようだ。
と思ったらサラに顔を向けた。
「サラさんが見たのが本当に未来予知だったならっ、いい未来だったってことですよねっ」
「え?」
アリスの言葉にサラは内心動揺するが表面上は平静を装うことに成功した。
ヴィヴィがアリスに理由を問う。
「ぐふ?何故そう思う?」
「だってっ悪い未来なら変えようとしますよねっ?でもっサラさんは何かしているように見えませんっ。いい未来だったからっ何もしてないんですよっ」
「ぐふ。それもそうだな」
アリスの言うことは珍しく一理あり、ヴィヴィは納得したようだ。
サラは曖昧な笑みで誤魔化した。
今アリスが言ったことをまさにサラは実践しているところであった。




