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711話 ソドムラ王メナン

 ゴンダスと話していた魔術士が主のもとに戻って来た。

 その者の名はメナン。

 都市国家ソドムラの王であった。

 側近達が集まる王の間、玉座に座る王の前で魔術士が作戦の経過報告をした。


「……ということで作戦は順調に進んでおります」

「そうか」


 メナンは満足気に頷いた。

 魔術士から思わず笑みがこぼれた。

 それにメナンは気づいた。


「どうした?」

「し、失礼いたしました!」

「かまわん。面白いことがあったのだろう?俺にも話せ」

「は。では」


 魔術士はゴンダスとの会話を話し始める。


「実はゴンダスを仲間に引き入れる際に私は身分を偽り『遺跡探索者ギルドの者』と名乗ったのですが」

「おお、そう言えばそんなことを言っておったな」

「はい。冒険者ギルドの信用を落とす理由として対抗組織である遺跡探索者ギルドからの嫌がらせとしたほうが信じやすいと思ったのですが、奴自身がそういう人間であるためでしょう、疑うことなく信じました」


 その言葉に王を含め側近達からゴンダスをバカにした笑いが起きる。


「続けろ」


 メナンに促され魔術士が話を続ける。


「は。それで奴が成功報酬として遺跡探索者ギルド支部のギルマスの座を要求していた件を指摘されたのですが、私はすっかり忘れておりました。私のついた嘘に騙されているとも知らず真剣な表情をしている奴の顔を思い出してしまい、思わず笑ってしまったのです」


 再び王と側近達から笑い起きる。


「所詮はコネでギルマスになった戦うしか能のない男だ」

「はい。その力も私どもと比べたら赤子に等しいですが」

「言ってやるな。我らに“人間ごとき”が叶うわけないだろう」

「は、その通りでございます」


 側近達から一際大きな笑いが起きた。

 その中に笑い過ぎて顔が“ありえない形“に変形するモノもいた。



 メナンとそのパーティはかつて未踏破のダンジョン、現在は彼の名からメナンのダンジョンと呼ばれている、を踏破した英雄と言われている。

 だが、現実は異なっていた。

 メナンとそのパーティはダンジョンの最深層に到達した際、そこに存在していた魔界の門から現れた魔王とその配下の魔族に敗れた。

 死を覚悟した彼らだったが、魔王は彼らを殺さず提案を持ちかけてきた。

 彼らは魔王の提案を受け入れた。

 魔王の指示に従い、メナン達はダンジョンを踏破したと嘘の報告をしてダンジョンにあった財宝でソドムラを建国した。

 その後、魔王達はメナンのパーティメンバーに姿を変えて入れ替わり、ソドムラを支配してきたのであった。

 そう、都市国家ソドムラは魔族が支配する国となっていたのだ。

 ちなみに本物達は魔術士の姿をした魔族の特殊能力をもって洗脳し、神殿など魔族が入るには危険なところへ代役として(もはやどちらが代役かわからないが)利用するため生かされていた。

 国を乗っ取った魔王達は来るべき人類との戦いに向けて慎重に準備を進めていた。

 その一つが冒険者達の力を削くことである。

 ゴンダスのようなクズを使って冒険者をクズに堕とし、更には勇者になる可能性のある者を排除していた。

 今の所、彼らの作戦は順調に進んでいるといえよう。



 魔術士がメナン、いや、メナンに化けた魔王にゴンダスが要求していたもう一つの件の対応について尋ねる。


「陛下、ゴンダスですが、遺跡探索者ギルド支部のギルマスになる件とは別にもう一つ要求をしてきました」

「ほう」


 側近達からゴンダスに対して怒りの声が上がる。

 

「あのクズは図に乗りすぎではないか!?」

「そうだ。牢屋から出してやっただけで十分だろう!」

「奴はマルコの領主と同じ甘い蜜を吸った仲ということで牢屋でも快適に過ごしていたが、領主はいずれ殺すつもりだったはずだ!」

「その通りだ!あんなゴミの言うことなど放っておけ!」

「まあ待て」

「魔お……陛下!?」

「話だけでも聞いてやろうではないか」


 魔王の言葉で側近達は引き下がった。

 

「それで今度は何を要求したのだ?」

「はい。ゴンダスは自分が冒険者ギルドを追放されたのは鉄拳制裁のサラのせいだとしてサラを憎んでおります。その復讐の機会を設けて欲しいと」

「鉄拳制裁……あの、ナナルの弟子か」


 魔王の表情が不機嫌になる。

 

「はい。そのサラです」


 魔王は側近の一人に顔を向けた。

 

「冒険者ギルドの方はどうなっている?ゴンダスの存在に気づいた様子はあるか?クズを生み出していることに気づいているか?」


 指名された者が答える。

 

「は。ゴンダスが脱走したことには気づいたようです。クズに関しては増えていることに疑問を持っているようですが、ゴンダスが関わっていることにはまだ気づいていないようです」

「そうか」


 魔王をしばし思案した後、ボソリと呟いた。


「……そろそろ潮時かもしれんな」


 その言葉は皆に聞こえたが、独り言だとわかっていたので尋ね返すことはせず、じっと待った。

 魔王が言った。

 

「奴はもう不要だ。要求は無視し、今行っているクズの育成が終わったら処分しろ」

「承知いたしました」

「……いや、待て」

「如何いたしました?」

「せっかくだ。奴の希望を叶えてやろうではないか」

「え?」


 魔王の突然の心変わりに魔術士は驚いた。


「鉄拳制裁のいるパーティはリサヴィだったか」

「は、はい」

「リサヴィにはサラともう一人の神官が勇者だと思っている者がブラッディクラッケンを倒したのだろう?」

「はい、リオと言うそうです。ただ、それは話だけで証拠となるものは残っていないそうですが」

「その件がなくても奴らが強いことは確かだ。今一番危険な奴らだと言っていいだろう」

「確かに。もっとも勇者になる可能性が高いでしょう」

「そこでだ。そのリオとやらに奴を、闇勇者などと呼ばれている奴をぶつける。その前座にゴンダスを呼んでやろうではないか」


 その言葉からゴンダスがサラに勝つことをまったく考えていないことがわかる。


「なるほど。それはいい考えですね。闇勇者もそろそろ処分すべき頃と私も思っておりました。何かの間違いで奴の方が本当に勇者になっても困りますからね」


 側近の一人が魔王に確認する。


「では、その戦いにどちらが勝とうとも生きては帰さないということですね?」

「そうだ。全員そこで殺せ。一人も生かして帰すな」

「は。では、闇勇者が今いる“あの場所”を冒険者ギルドにリークしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、任せる。だが、ゴンダスを置いてからだぞ」

「承知いたしました」


 もはや物扱いされるゴンダスであった。


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