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710話 クズ新生

 ゴンダスの言葉に「その通りだ!」と賛同する声が次々と上がり会場を埋め尽くす。

 ゴンダスがニヤリと笑った。


「お前らの冒険者生活はまだ終わりじゃねえ!お前らがこれまで面倒見てきてやった後輩達から恩を返してもらう時が来たんだ!お前らは堂々と後輩どもから報酬をもらっていいんだ!好きなだけもらっていいんだ!それだけのことをお前らはやって来てんだ!これからは刈り入れ時だあー!!」


 集まった冒険者達の瞳にクズの火が灯った。


「そうだ!俺達は恩を返してもらうだけなんだ!」

「当然の権利だ!!」


 ゴンダスはその様子を満足気に頷きながら静まるように手で合図をする。

 場内が静まったところで口を開く。


「だかよ、そのことを口に出して言うなよ。あいつは自己中だからな。お前らの話を聞いても恐らく納得しない。『なんで俺らが知らない奴らの借りを返さなきゃいけないんだ!?』って言うに決まってる。

だからお前らは余計なことを言わなくていい。俺がこれから教えてやるスキルを使って報酬をもらえばいいんだ。俺はこのスキルをエクセレントスキルと名付けた」


「エクセレントスキル……」と呟く声があちこちで聞こえる。


「おう、華麗に報酬を得ることからそう名付けたんだ」


 それはいわゆるクズスキルと呼ばれているものであった。


「あと格好も大事だぞ!お前らは誇り高き冒険者なんだからな!」


 そう言うとゴンダスはおもむろに腕を組んで仁王立ちしキメ顔をした。

 いわゆるクッズポーズである。


「こうやって堂々としてろ。そうすれば奴らは勝手にお前らを格上の存在だって理解する。事を有利に進めていけるぞ!」


 ゴンダスの言葉を受けて彼らは一斉にクッズポーズをとった。

 その様子はとても異様で滑稽であったが最早それを指摘する“マトモな”者は一人もいなかった。



 彼らはクズ行為は正しい行いであると洗脳された。

 一般常識を失い、クズの常識を得たのである。

 どこに出しても恥ずかしいクズと化し、エクセレントスキル(クズスキル)をも取得した彼らの顔は皆、自信に満ち溢れていた。

 こうしてクズ冒険者へと生まれ変わった彼らは妄想で作り上げた恩を後輩達から返して貰うために各地へと散っていった。

 その後ろ姿をゴンダスが凶悪な笑みを浮かべながら見送る。


「俺を追い出しやがった冒険者ギルドを潰してやるぞ!そしてサラ!あの生意気なジュアスの神官もこの手で殺してやる!その前にたっぷり楽しませてもらってな!」


 もうおわかりであろうが、ゴンダスが罪を許され冒険者ギルドから依頼を受けたという話は真っ赤な嘘である。

 ゴンダスはマルコの領主の牢屋に囚われているところをある人物の力を借りて逃げ出したのだ。

 ゴンダスの脱走はマルコの領主の知るところとなったが失態を知られるのを恐れて隠蔽した。

 そのため、ゴンダスが脱走した事が世間に知られることはなかったのである。



「期待しているぞ」


 ゴンダスは独り言に返事した者の存在に驚き身構える。

 ゴンダスの前方の空間が歪み、実際に空間が歪んだのかそう見せる幻影かもしれないが、そこから黒いローブを纏った魔術士が現れた。


「お前か。驚かすんじゃねえ」

「それは済まなかったな」


 その魔術士はゴンダスの脱走を手助けした仲間の一人であった。

 彼らはゴンダスを助けるに当たって条件をつけた。

 それは冒険者ギルドの信用を落とすこと、であった。

 ゴンダスは二つ返事で快諾し牢から逃れた。

 その後は今回のように自信をなくした冒険者を騙して集め、クズへと堕としていたのだ。

 魔術士が笑みを浮かべた。

 と言ってもゴンダスからはフードで隠れて口元しか見えないが。


「今回も結構な数のクズを生み出したようだな」

「まあな。しかし、毎度のことながらお前の魔法は大したもんだな」


 そう、冒険者達がゴンダスの言葉を信じてしまったのはこの魔術士が会場に仕掛けた洗脳効果がある魔法陣のせいであった。


「当然だ。カルハンの魔法は世界一だからな」


 彼は当然のように答えながらもゴンダスを煽てることを忘れない。


「だが、それもお前の演説があってこそだ」

「まあな!」


 ゴンダスは褒められて満更でもない顔をする。

 

「この魔法よ、本当にサラの野郎には効かないのか?」


 ゴンダスはサラに一発KOされた恨みを忘れていなかった。


「ああ」


 魔術士は考える素振りも見せず即答した。

 

「相手が弱っていないとかかり難い。効果が現れ始めるのが人によって差があっただろう。あれは心の弱さの差から来るのだ」


 このことがあり、依頼を失敗し自信を失くしている者達に声をかけたのだ。


「それは前も聞いたぞ」

「ならもう言わなくてもわかるだろう。サラほどの実力者であれば効かないだけでなく、魔法陣の存在にも気づくだろう」


 魔術士の言葉にゴンダスは舌打ちをする。

 魔術士は旅立ったクズ冒険者達の話に戻す。


「彼らは各地でまだ見ぬ未来のクズ達にお前の素晴らしいスキルを広めてくれるだろう」

「わはははっ!ちげえねえ!」



 ゴンダスが一通り笑った後、真顔になった。


「そろそろ俺との約束を守ってもらうぞ」


 ゴンダスはこの魔術士がある組織に所属していることを知り、成功報酬を要求していたのだ。


「約束?」


 魔術士が首を傾げる。


「ざけんな!忘れたとは言わせねえぞ!冒険者ギルドの信用を落とせたら遺跡探索者ギルドの支部のひとつを俺に任せるって話だ!」

「……」


 魔術士はゴンダスに遺跡探索者ギルドの者と名乗っていた。

 その事を“思い出す”。


「もちろん覚えている」

「ほう。ならなんで首を傾げやがった?」

「また要求を増やすつもりなのかと思い警戒していた」

「俺がそんな奴に見えるってか?」

「ああ、見える」

「……」

「よく見えるぞ」


 ゴンダスの怒りの表情が笑顔に変わり、「がはははっ!!」と豪快に笑う。


「だが、この程度では十分と言えない」

「わかったわかった。俺に任せておけ!まだまだやってやるぜ!俺を追放しやがった冒険者ギルドに仕返し出来て楽しいしな!」

「期待しているぞ」

「おう!その代わり鉄拳制裁の奴に復讐する機会を用意しとけよ」

「……やはり要求が増えたではないか」


 ゴンダスが「がははは!」と大笑いした。

 魔術士は苦笑する。

 ゴンダスに見えたのは魔術士の口元だけだった。

 フードに隠れた目が真紅に染まり、妖しい光を放っていることには全く気づいていなかった。



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