709話 ゴンダスの演説
ある街の某所に多くの冒険者が集まっていた。
その冒険者達に共通するのは何度も依頼に失敗していることだった。
彼らは「冒険者を長く続けるためのコツを教えるセミナーがあるので参加しないか」と誘われてここへやって来たのだった。
壇上に立った人物を知る者が驚きの声を上げる。
「ゴンダス!?あいつは無能のギルマスじゃないのか!?」
その声に会場がざわつく。
「なに!?あいつが!?」
「ちょっと待てよ!ゴンダスは牢屋に入れられてんじゃなかったのか!?」
「俺は処刑されたって聞いたぞ!」
壇上の人物、ゴンダスが「わはははっ」と笑いながら口を開いた。
「無能のギルマスか。酷い言われようだな。確かに俺はゴンダスだ。元マルコのギルマスのゴンダスだ」
ゴンダスが本人であることを認めたことで再び会場がわざつく。
「落ち着けえい!!これから説明してやるからよ!!」
ゴンダスの一声で会場はしんと静まり返る。
ゴンダスはその様子を見て満足そうに頷いた。
「それでいい。まず始めにだ。何故、俺がここにいるのか疑問に思ってんだろう。それをこれから説明してやる。俺はマルコ周辺で起きた二つの問題を解決するために冒険者達を向かわせた結果、大勢死なせてしまった。そいつらが力不足である事を見抜けなかった俺の罪は重い。無能のギルマスと言われても仕方ねえ」
今の言葉でゴンダスが全く反省していないのは明らかだった。
彼は数々の違法行為を行ったことには触れず死んだ冒険者達に責任があるとしたのだ。
「不本意ながら俺は力ない冒険者達の巻き添いで失脚した。ギルマスの座を追われた。だがな、ギルドの上層部はわかっていたんだ!俺に全く罪がないことを!誰かが責任を取らないと収まらなくなっていたから仕方なく俺を処分したんだ。本当だぜ。俺はこれまでギルドに多大な貢献をしてきたんだ。そんな俺をたった一度の失敗で、それも無能な冒険者達の尻拭いなんかで失うのは惜しいと思ったんだ。そう思うのは当然だがな」
ゴンダスは言いたい放題だった。
冒険者達は呆れた顔をする、
かに思えたが実際にそうしたのは少数だった。
他の者達は疑問に思わなかったようだ。
ゴンダスは演説を続ける。
「俺への風当たりはまだ強えからすぐに表立って動くわけにはいかねえ。とは言えだ。有能な俺を遊ばせておくのも勿体無いと思ったんだ。それで裏方に回ることになったんだ。そう、お前ら自信をなくした冒険者を立ち直させる、な」
ゴンダスは一旦言葉を切って集まった冒険者達の顔を見回す。
「ここに集まったお前らは皆、自分の力に限界を感じて冒険者を続けていく自信がなくなった、あるいは、不安に思った者どもだ。だが、心配すんじゃねえ!後輩どもの力を借りりゃいいんだ!」
いきなりの他力本願発言に先ほど呆れた顔をした者達が不満げな顔をする。
「おお、納得かねえって奴がいるようだな。その気持ちはわかるぜ。お前らは厳しい冒険者ギルドの入会試験を突破した選ばれし者だ。誇り高き冒険者だ!」
選ばれし者、誇り高き冒険者、と持ち上げられて多くの者達は気分が良くなった。
異常なほど気分が高揚した。
「そんなみっともねえこと出来るか、と思ってんだろう」
先ほど不満顔した者達が頷く。
だが、不思議な事にその数は減っていた。
「だが、それは大き間違いだ!」
「間違いだって!?」と思わず声を上げた者がいた。
その者は先ほどから不満顔していた者だったが、その思いは弱くなっていた。
ゴンダスはその者をちらりと見た後で理由を述べる。
「お前らがこれまで後輩の面倒を見てやったことなんて数えきれないくらいあるだろう。なに?覚えがない?あったりめえよ!誇り高き冒険者がそんな些細なことを、やって当然のことをいちいち覚えてるわけねえだろうが!」
「確かに面倒見たことあるよな」と彼の言葉に頷く者達がいた。
「それでもまだ不安のある奴がいるかもしれねえ。だが、安心しろ!お前らが後輩の面倒を見てやってたことは俺が保証してやる!」
初対面の者達に対してそう言い放ったゴンダスの顔はなんか自信満々だった。
「お前らはそのときの恩をただ返してもらうだけなんだ!」
その言葉を受けて今まで後輩の面倒を一度も見たことない冒険者達が「確かに面倒を見ていたかもしれない」と思い始める。
中には脳内でその様子が創造されて現実に起こったことだと思い込む強者もいた。
「お前らが恩を返してもらうのは当然の権利だ。恥じることは何もねえ!」
ゴンダスの言葉に感極まって叫ぶ者がいた。
「そうだ!俺達の当然の権利だ!」
「だな!」の大合唱が会場から起こった。
その中には先程までゴンダスの話に疑問を持っていた者達も含まれていた。
ゴンダスは満足げに頷きながら話を続ける。
「誰から恩返してもらえばいいかわからないという者達もいるだろう。面倒見た相手の顔なんていちいち覚えてねえだろうからな!だが、気にすんじゃねー!近くにいる後輩から返して貰えばいい。何故ならお前らの誰かが必ずその後輩の面倒を見ていたはずだからだ!だからそいつらの面倒を見た者達の代わりにお前らが返してもらえばいいんだ。そんでその後輩を実際に面倒見た奴らも近くにいる後輩から返してもらえばいい!その後輩もお前らの誰かが面倒を見たはずだからだ!だから恩を返して貰う相手は誰でもいいんだ!」
その理屈で言えば彼らも新米冒険者の時に先輩冒険者の世話になっており貸し借りなしのはずであるが何故か皆その考えに思い至らなかった。




