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706話 あっけない最期

 緊張感を持つ側代表の騎士がリオに尋ねる。


「ブラッディクラッケンを倒した時のように奴らを倒せないか?いや、倒せないまでも追い払うことは出来ないか!?」


 その問いに答えたのは魔装具の仮面の望遠機能で海賊船を観察していたヴィヴィだった。


「ぐふ、放っておけばいい」

「いや、しかし、今の武器の威力を見ただろう!?」

「ぐふ、あれは四十八型だ。街までは届かないだろう」

「何?四十八?」

「ぐふ、カルハン製の魔道砲だ。国外への販売はしていないはずだから盗んだのだろうな。それはともかく、威力はあるが射程距離はそれほどでもない。街に届かせようと更に近づけば座礁する可能がある。そんな危険を犯すとは思えない」

「港を使う可能性はないですかっ?港からなら攻撃が届きそうですけどっ?」


 アリスの考えをヴィヴィは否定する。


「ぐふ、百年近く使われていないあのボロ港をか?周辺調査せずいきなり利用するとは思えんし、そもそもそのつもりなら最初からやっているだろう」

「あっ、確かにっ」


 騎士がヴィヴィに確認する。


「つまり、俺達があの魔道砲の射程距離を知らないと思ってハッタリをかましたってわけか!?」

「ぐふぐふ」

「しかしだヴィヴィ。お前の言う通りハッタリだとしても奴らの力は大砲だけじゃない。海賊達の腕も相当だと聞いている。上陸されたら厄介だぞ!」


 隊長が騎士に同意する。


「お前達は大丈夫かもしれないが、我々は少なからず犠牲者を出すことになるだろう」

「奴らが上陸する前になんとかしてくれないか?」


 他力本願の騎士の言葉を聞いてリオがくすり、と笑った。


「な、何がおかしい!?俺は真剣なんだぞ!」

「ぐふ、私達が命をかけて守ってやる理由はない」


 その言葉に一人の考えなしの兵士がヴィヴィを怒鳴りつける。

 

「ふざけるな!こうなったのはブラッディクラッケンをお前達が倒したからだろうが!」


 その兵士の言葉に一番に反応したのは隊長だった。

 

「馬鹿者!彼らがいなければサーギンの襲撃で街が大きな被害を受けていたのだぞ!」


 その兵士は隊長に怒鳴られて一瞬怯んだもののすぐさま言い返す。


「た、確かにそうですが、ブラッディクラッケンを倒すことはなかったじゃないですか!」


 ブラッディクラッケンは両生類ではないので放って置いても街には影響なかった可能性が高い。

 その兵士の意見に同意する者が少なからずいた。

 彼らはここ数日昼夜問わずの浜辺警備でストレスが溜まっていたのに加えて海賊の出現でイラつき感情を制御できなかった。

 リオ達が何か言う前に隊長が文句を言った兵士達を怒鳴りつける。


「馬鹿者どもが!何都合のいいことばかり言っている!!俺達の代わりに戦ってくれたんだぞ!感謝こそすれ責めるなど筋違いだ!」


 文句を言っていた兵士達がビクッとして頭を下げる。

 隊長がリサヴィに頭を下げる。

 

「済まない!部下達には後できちんと言っておくので今の言葉は聞かなかったことにして欲しい」

「俺からもお願いする」


 そう言って隊長だけでなく騎士も頭を下げた。

 サラはちらりとリオの様子を窺ってから言った。

 

「いえ、私達は大丈夫です」



 騎士は今のやり取りでリサヴィに助けて欲しいと言いにくくなったが、彼らだけでは勝てたとしても大きな被害を被ることは間違いないので恥を忍んで再度助けを求める。

 

「それで、その、申し訳ないが手を貸してくれないか?」


 騎士の言葉にリオはそっけなく言った。


「断る」

「なっ……」


 兵士達はリオの機嫌を損ねたのだと思い震え出す。

 彼らはなんだかんだ言いながらもリサヴィは協力してくれると思っていたのだ。

 助けを求めるように皆がサラを見る。

 サラは最初リオは海賊が来る未来予知を見たと思っていた。

 しかし、これまでのリオの態度からどうもそうではない気がしてきた。

 皆の前であることもあり、サラは未来予知のことは伏せて言葉を選びながらリオに尋ねる。

 

「あなたはここへ海賊と戦うつもりで来たのではないのですね?」

「ああ。全くない」


 その言葉を聞いて兵士達の中には絶望の表情を見せる者もいた。

 だが、リオの話はそれで終わりではなかった。


「俺達が何もしなくても勝手に死ぬ」

「な、何?」

「それはどう言うことだ!?」


 騎士と隊長が真意を確かめるようとするがリオは何も答えない。

 ただ、海賊船をじっと見つめるだけだった。



 兵士達に今、出来ることといえば住人達を街の外へ避難させることだ。(ヴィヴィの話が確かだという保証がないため)

 取り敢えず女性を優先的に避難させることにした。

 隊長の命令で兵士達が行動を開始する。

 ばばさまは「この場に残る」と抵抗したが、兵士達に引きづられていった。

 


 要求に応じるように一向に見えないことに腹を立てたバルバール船長だが、ヴィヴィの言う通り魔導砲での攻撃はハッタリであった。

 弾を無駄にしたくないこともあり、直接脅すことにして上陸部隊を出発させた。

 海賊船から数隻の小舟が下ろされ浜辺へと向かう。

 先頭を走る舟には舟先に足を乗せて偉そうな格好をした海賊がいた。

 それなりの地位にある海賊なのだろう。

 その彼が突然、仰向けに倒れた。

 直後、舟に乗っているはずなのに水飛沫が飛び海に落ちた。

 そして悲鳴が上がる。

 それは彼だけに起きたことではなかった。

 その舟に乗っていた海賊を始め、他の舟からも海賊達が海に落ちて悲鳴が上がる。

 彼らは海の魔物の襲撃を受けたのだった。

 魔物、エッジフィッシュに舟が切り刻まれ、海に落ちた海賊達も同じ運命を辿った。

 あっという間に上陸に向かった海賊達が全滅した。

 魔物の攻撃を受けたのは上陸に向かった舟だけではなく、海賊船も攻撃を受けていた。

 彼らは海賊だ。海の魔物に対する備えを当然していた。

 小舟はともかく海賊船は小物の魔物ごときの攻撃でダメージを受けるはずはないと高を括っていた。

 実際これまではそうだった。

 しかし、その考えは甘過ぎた。

 もっと慎重に調査していればこの辺りの魔物が他より強力だと気づいたはずだ。

 だが、バルバール船長は欲を優先した。

 同業者を含め、他の者達に沈没船の宝を奪われてなるものかと調査を怠ったのだ。

 これまでエッジフィッシュの攻撃を受けても強固に作られた船に穴が開くことがなかったことが過信に繋がったのだろう。

 確かにエッジフィッシュは船を切り裂くことはできなかった。

 しかし、エッジフィッシュより凶悪な魔物、ブレードシャークが現れた。

 ブレードシャークは容易に海賊船を切り裂いた。

 船底から浸水し傾き始める。

 そこで余裕をかましていた海賊達が慌て出す。

 脱出を図ろうと我先にと積んでいた舟を降ろすが海賊達が乗り終える前に魔物によって切り裂かれ尽く沈められた。

 縄梯子を降りる途中の仲間を見捨てて舟を出す者達もいたが浜辺へ辿り着く者は一人もいなかった。

 いや、正しくは生きて辿り着く者はいなかった。

 やがてすべての海賊船が海の底へと沈んだ。

 バルバール海賊団全滅、であった。

 世間を騒がしていた海賊バルバールのあっけない最期であった。

 こうしてバルバール海賊団の海賊船が積んでいた財宝がこの海域のお宝に加わった。



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