702話 クズVSクズ
サラは嫌な視線を感じた。
その視線はサラ達のいる詰所から少し離れた岩場からだった。
そちらへ目を向けるとその岩場の陰からこちらの様子を窺っている者達がいた。
それは先ほどリサヴィの姿を見て逃げ出したクズ冒険者達であった。
一度は浜辺から姿を消したものの、また戻って来ていたのだ。
彼らはサラの視線に気づき慌てて岩場の後ろの隠れた。
その怪しい行動から誰かが財宝を発見したら突撃し、掠め取る事を諦めていないことがわかる。
ヤーべはがサラの動きでクズ達の存在に気づいた。
「流石サラ!」
「……何が流石、なのですか?」
ヤーべはサラが不機嫌であることに気づかず進言する。
「さあ!早速仕留めに行きましょう!……いたっ!」
ヤーべはサラにど突かれて頭を抱えた。
「あなたもしつこいですね」
ヤーべが頭を押さえながら言い返す。
「当たり前でしょう!クズは即、斬、滅です!」
「なんですかその言葉は」
「口論している場合じゃないでしょう!って、ほらっ!言ってるそばから見てください!向こうからも来ましたよ!」
ヤーべが示した方向にはこの港街にやって来たばかりらしい冒険者達の姿があった。
その者達はなんか偉そうな態度で歩いていたがリサヴィの姿を認めると表情があほ面に変化し、こそこそと逃げるようにリサヴィから離れていった。
リサヴィに危険を感じる、イコール、クズと言っていいだろう。
実際、彼らはこれまでクズ行為を散々していた。
だが、他のクズ同様に自分達をクズだと思っていない。
逃げ出したのは何故かよくクズと“勘違いされる”のでリサヴィにも勘違いされて葬られるのを恐れてのことだった。
その者達が向かった先は先ほどのクズ達が隠れた岩場だった。
その岩場はクズ行為を行うのにベストポジションだったのかもしれない。
そこでクズ達が出会った。
同類に出会えた喜びに熱い握手を交わす、
なんてことはなかった。
お互い一目見て相手がクズだとわかった。
彼らは自分達以外が楽して金儲けするのが許せず、互いの行為を貶し始める。
客観的に見ればそれは諸刃の剣であった。
ノーガードで相手の言葉の刃がブスブスと体に突き刺さる、
はずであったが実際にはどちらもノーダメージであった。
自分達のことを正しく評価出来ない彼らは事実を言われても、
効かぬ!通じぬ!
であった。
相手がノーダメージとわかり実力行使に出た。
つまり乱闘を始めたのである。
「……またか」
詰所にいた隊長がため息をつく。
クズ同士が持ち場の取り合いで揉めて乱闘を始めるのはこれが初めてではなかったのだ。
「そんなことしてる暇があるなら自分達で財宝探しすればいいんじゃないか」
と思うかもしれないがそれは彼らの(クズとしての)プライドが許せないのだろう。
「隊長、お願いできるか」
騎士の言葉に隊長が頷く。
隊長が部下に指示を出そうとしたところでリオが呟いた。
「ほっとけばいい」
その言葉は隊長の耳に届いた。
「なに?」
リオは隊長の視線を受けて言葉を続ける。
「どちらもクズだ。勝負が着いてからでも遅くない」
リオの後にヴィヴィが続ける。
「ぐふ、相打ちがベストだな」
その言葉にサラが反応する。
「そうですが他の者達が巻き込まれるかも知れません」
「というのは建前で本当は自分の手で仕留めた……いたい!」
ヤーべがサラにど突かれ頭を抱える。
副団長はもうサラを止めるのを諦めていた。
アリスはヤーべが涙目でサラを見る姿を見て小さく呟く。
「ヤーべさん……やるようになりましたね」
アリスの中に無用な対抗意識が芽生えていた。
「いや、アリス、お前は何張り合ってんだ?」
思わず男傭兵が突っ込んだ。
隊長はリオの意見に一部修正を加えて採用することにした。
サラの言う通り住人が巻き込まれないように部下に指示を出す。
クズ冒険者達の争いに決着がつき、勝利したクズ冒険者達が誇らしげな顔をしているところへ兵士達が突入する。
「ちょ、ちょ待てよ!?」
もちろん、兵士達が待つわけがない。
クズとはいえ冒険者である。
それなりの力を持っていたが、一戦終えた直後でほとんど体力が残っておらず、あっさり捕縛された。
兵士達が彼らと負けたクズ冒険者達を牢屋へ連行していった。
だが、これはクズの一角である。
ブラッディクラッケン倒れる!
の報が各地へ広まるにつれ、ブラッディクラッケンによって沈められた船の財宝を手に入れようと続々とこの港街へ集結しつつあった。
いつのまにか浜辺には見えない区切りが出来上がっていた。
詰所を中心にクズ達の姿が消えた。
浜辺からいなくなったのではない。
詰所から離れた浜辺の両端に散ったのだ。
クズ達の動きを見て住人達はリサヴィがいる詰所が視界に入る範囲で財宝探しをするようになった。
クズ達はカモる相手がリサヴィの保護下に入ってしまったのでついに(クズの)プライドを捨て嫌々ながらも自分達で財宝探しを始めるのだった。
財宝だが、そんな頻繁に流れつくわけもなく、徐々に財宝探しをする住人は減っていった。
本来の仕事に戻ったのである。
残った者達の多くは宝探しを生業にしているトレジャーハンターやクズ者達である。
街の住人ではない彼らを兵士達が守る義務はない。
兵士達はやっと本来の浜辺の警戒任務に専念出来るようになったのだった。
このまま何事もなく終わるかに見えたがそうはならなかった。
新たな脅威が近づいていたのである。




