699話 冷淡なリオ
リオ達は報酬の受け取りに街の長の屋敷に向かった。
そこにはフェランの領主から派遣された騎士も同席していた。
街の長から報酬を受け取った後で騎士が声をかけてきた。
「お前達がブラッディクラッケンを倒したというのは本当か?」
リオがブラッディクラッケンを倒したのを見たのはリサヴィのメンバー、ヤーべ、傭兵団、そしてクズ達だけだ。
その内、クズ達の多くはブラッディクラッケンの体に乗ってあの世へ旅立ち、他の者達はその前に戦死していた。
街を守る兵士や住人達が浜辺にやって来たときには戦闘は既に終了しており遠くでぷかぷか浮かぶブラッディクラッケンの姿を見ただけだ。
ブラッディクラッケンの死体は沖へ流されてしまい、確実に死んだと判断できない。
リオが返事しないのでサラが答える。
「はい。リオとヴィヴィが倒しました」
「ぐふ、私はサポートしただけだがな」
「そのときの状況を詳しく話してくれないか」
「わかりました」
サラがそのときの状況を説明するがそれは実際のものと異なっていた。
リムーバルバインダーでブラッディクラッケンの元へ向かって倒したのは事実だが、ヴィヴィのリムーバルバインダーに収納されていた魔法が付与された武器でリオが倒したとしたのだ。
本当のことを言わなかったのはリオが魔法を使えることを公に知られると後々面倒になりそうだったからだ。
そのことは傭兵団とヤーべに前もって口止めをお願いしていた。
ヤーべは「クズ達に余計な情報を与えないためですね!」と快諾した。
傭兵団も自分達が損することはないし、リサヴィと秘密を共有することは今後のことを考え悪くないと快諾したのだった。
サラの説明を受けた騎士は実質リオたった一人でブラッディクラッケンを倒したと知り驚いた表情をした。
半信半疑の様子ではあったが、最後には自分を納得させたようだった。
「なるほど。それで証拠になるものは持っているか?それがあれば我が領主様を始め、賞金をかけていた者達も信用してそれらの賞金を手にすることができるだろう。だが、状況証拠だけであれば認められない可能性が高い」
サラがリオが抜き取ったプリミティブのことを話そうか迷いリオに顔を向けるとその口が開いた。
「別に認めてもらう必要はない」
「何?」
「別に賞金が欲しいから倒したんじゃない。向こうがやる気だったから相手してやっただけだ」
その言葉を聞いてサラはプリミティブのことを話すのをやめた。
リオの言葉を聞いてサラ達リサヴィのメンバー以外は驚いた顔をする。
ブラッディクラッケンにかけられていた賞金の総額はとんでもない額だ。
小国であれば貴族の地位を買うことも可能であろう。
それをリオはいらないと言うのだ。
「本気なのか?」
「金には困っていない」
「そ、そうか。だが桁が違うぞ。小国なら貴族になることもできるだろう額だぞ?」
「そうか」
リオはそう言っただけで前言を撤回しなかった。
サラは念の為ヴィヴィにも尋ねる。
「ヴィヴィもそれでいいですか?」
「ぐふ、さっきも言ったが私はサポートしただけだ。リオがそれでいいのなら私に異論はない」
サラが唖然としている騎士に言った。
「ということです。倒した二人がそう言っているので特に認めてもらう必要はありません」
「そ、そうか。わかった」
これで話は終わりだと思ったが、騎士はまだ何か言いたそうだった。
「他にも何かあるのですか?」
「ああ。話は変わるがしばらくここに滞在してくれないか?」
「え?それはどういうことですか?」
「ぐふ、私達はブラッディクラッケンの討伐報酬を放棄した。これ以上、ここに留まる理由などないはずだが?」
「実はブラッディクラッケンがため込んでいたと思われる財宝の一部が浜辺に流れ着くようになったのだ」
「そうらしいですね」
「ああ。それを目当てにいろんな者達がこの街へやって来始めている。中でも素行の悪い冒険者が厄介だ。冒険者カードを見せられては街に入れない訳には行かないからな。今後、奴らのような者達がどんどんやって来ることになるだろう」
サラ達は騎士の言いたいことがわかった。
「それで私達に抑止力になれと?」
「そうだ。ブラッディクラッケンを倒した者達が近くにいればそうそう悪さをしようとは思わないだろう」
「そんなことはありません!」
騎士の言葉に異議を唱えたのはヤーべだった。
「何?」
「おいよせってっ!」
副団長の制止を振り切り叫んだ。
「クズを舐めてはいけません!……むぐ!?」
副団長はヤーべの口を塞ぐと騎士に頭を下げる。
「すまない!こいつの言うことは気にしないでくれ!」
「いや、構わない」
その言葉を聞いてヤーべは副団長の手を振り払い叫ぶ。
「ほらっ!」
「『ほらっ』じゃねえ!」
騎士は別段腹を立てた様子もなく話を続ける。
「それともう一つ理由があるのだ。サラとその……」
騎士はアリスの顔を見て言葉に詰まる。
「アリスですっ」
「そう、アリス。二人には怪我の手当てをしてもらいたい。財宝探しに海に入って魔物に襲われた者達がいるのだ」
「それは自業自得でしょう」
「ですねっ」
「そうなのだが、財宝探しをしている者達すべてが先ほど言った素行が悪い奴らではない。誰だって多かれ少なかれ楽して金儲けしたいと考えるだろう?怪我をした者の中には幼い子供もいるのだ。その子供の家は貧乏で病気の母親の薬を買うために無理したようなのだ」
「それは……」
リオがサラの言葉に割り込んだ。
「自業自得だ」
騎士は一瞬怒りを露わに薄情なリオを睨みつけたが、その冷たい表情を見て恐怖で発しようとしていた言葉が引っ込んだ。
その様子を見てサラが騎士を擁護する。
「リオ、確かにその通りですが幼い子供です。これを教訓に二度とそのような無茶はしなくなるでしょう」
「馬鹿な奴に年など関係ない。何度でも同じことを繰り返す」
リオは考えを変えなかった。




