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698話 ブラッディクラッケンの置き土産

 リオ達は宿屋の一階で遅めの夕食をとっていた。

 この場にヤーべと傭兵団はいない。

 まだ寝ているのか既に夕食を済ませたのかもしれない。

 夕食を食べ終わろうとした頃、外が騒がしくなった。


「どうしたんですかねっ?」

「どうやらフェランからの援軍が到着したみたいです」


 そう答えたのは外に確認しに出ていた宿屋の主人だった。


「今頃ですかっ。もうとっくに終わっちゃってるのにっ」

「準備とかを考えるとそれほど遅い到着ではないでしょう」

「ぐふ、早くもないがな」


 その後、部屋に戻ってもしばらく外が騒がしかった。

 

 

 次の日の朝。

 リオ達が朝食を食べに下に降りるとヤーべと傭兵団の面々がいた。

 副団長がリオ達の姿に気づき声をかける。


「よう、昨日はお疲れ」


 誰も返事しないのでサラが答える。


「はい、お互いお疲れ様でした」



 副団長は機嫌がよかった。

 ヤーべ連れ戻しは嫌々受けた依頼であったが傭兵団にとって想定を遥かに超えるよい結果をもたらしたからだ。

 リサヴィと和解できただけでなく、サーギン討伐で共闘したことで仲の良さをアピール出来たのでリサヴィ派と揉めることはないだろう。

 そして今回の戦いは傭兵団のいい宣伝にもなったのであちこちからお呼びがかかるに違いない。

 ただ、問題がないわけではない。

 どうもヤーべが傭兵団をクズ抹殺のために利用しようとしている節があるのだ。

 本来ならそれを抑える役目のはずの女傭兵達はヤーべと気投合し全く機能していない。

 頭の治った男傭兵はヤーべに対してなんの感情も持っていないが、もうすぐ生まれる子供と嫁のことで頭がいっぱいで相談相手にならない。

 副団長は一刻も早くフェランに戻り、ヤーべを依頼主であるヤーべの兄の元に送り届けてバイバイしたかった。


「なあサラ、フェランには今日発つんだよな?」


 その言葉に答えたのはサラではなかった。


「何言ってんだよ副団長。私らまだ報酬を貰ってないだろ」

「そうだよ。帰るのはきちんと報酬を貰ってからだよ」


 女傭兵達だけでなく男傭兵も同意する。


「確かに。俺も早く帰りたいけど嫁と生まれてくる子供になんか買ってやりたい」

「くっ……ま、まあそうなんだけどよ。それは依頼を終えてからでもいいんじゃないか」


 副団長のその言葉を聞いてヤーべが言った。


「いえ、私のことはお構いなく」

「構うんだよ!」


(てか、さっさとお前と別れたいんだ!!)


 副団長は心の中で絶叫した。



 サラは副団長の心情を理解していた。

 サラも同様のことを思っていたからだ。

 サラがリオに確認する。

 

「リオ、海を見て満足しましたよね。あとは報酬を貰ってフェランに戻るでいいですか?」

「ああ」


 リオはどうでもいいように返事した。



 ヤーべと傭兵達が食事を終えて立ち上がろうとしたときだった。

 突然、外が騒がしくなった。


「あれっ?また応援が来たんですかねっ?」

「ぐふ、それはないだろう。やって来た者達が去ることはあっても増員する理由はない」

「ですよねっ」


 皆が首を傾げていると外の叫び声が酒場にまで聞こえてきた。



『浜辺を封鎖しろ!』

『無断で入ろうとする奴らは牢へぶち込め!』

『奴らはしぶといから手加減はいらんぞ!』


 それらの声を聞いて何が来たのか皆理解した。

 ヴィヴィがボソリと呟く。


「ぐふ、黒い悪魔か」


 黒い悪魔とは本当の悪魔ではなく、黒くてカサカサ動くしぶといアレのことだ。

 サラがため息をつく。


「……どうやらクズ達がやって来たみたいですね」


 アリスが首を傾げる。

 

「でもっ、サーギンの素材回収は昨日で終わってるはずですよねっ?今更っ浜辺に何の用があるんでしょうっ?」


 アリスの疑問に答えたのは話を聞いていた宿屋の主人だ。

 

「おそらくク……やって来た者達の狙いは浜辺に流れ着く財宝です」

「財宝ですか?」

「はい。実は昨日から砂浜に高価な装飾品がぽつぽつ流れつき始めたのです」

「それってっ……」

「ぐふ、十中八九ブラッディクラッケンの体内にあった財宝の一部だな」


 ヴィヴィの言葉に宿屋の主人が頷く。

 

「はい。それで住人も朝早くから、いえ、昨夜から浜辺に出かけて探している者もいるようです」

「そうですか」

「ぐふ、クズ達の情報網恐るべし、だな」


 ヤーべがぐっと拳を握る。


「サラの戦略で……こほん、リサヴィの戦略でせっかくクズを一掃したと言うのに!」


 ヤーべはサラに睨まれて言い直した。


「そんな戦略を立てた覚えはありません」


 サラの言葉はヤーべに届かなかった。


「でも、これで私の出番がやって来たと言うわけですね!」


 すかさず副団長が反論する。


「そんな出番はないぞ!」

「いえ!大丈夫です!」

「俺達が大丈夫じゃないんだ!」


 ヤーべはむっとした顔をした。

 が、それは一瞬のことでおねだりするような表情を二人の女傭兵に向ける。


「お姉様方!」

「ったく、困った妹だねえ」

「ほんとにあんたは昔から甘えん坊なんだから」


 副団長の絶叫が酒場に響いた。


「おいこら!いつまで姉妹ごっこ続ける気だ!?」


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