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696話 クズ達の旅立ち

 浜辺へ子供達に手を引かれて老婆がやって来た。


「ばばさまっ、うみにね、あかいしまがあるよっ」

「なんじゃと!?童達よ、目の見えぬわしに詳しく教えてくれぬか」

「いいよっ」


 子供達が代わる代わる状況をばばさまに説明する。


「……おお!!」

「どうしたのばばさま?」


 ばばさまは子供達の質問には答えず、突然語り出す。


「……かのもの黒き頭巾を被りて赤き大地に降り立つべし。嫌われものどうし絆を結びついに青き彼方へ旅立たんーー言い伝えは本当じゃった!」

「どこがだよ」


 その話が聞こえた副団長が思わず突っ込んだ。


「いえ、待ってください」


 そう言って話を聞いていたヤーべが考えながら言った。


「黒き頭巾……頭文字をとるとクズ、となります」

「……」

「赤き大地とはブラッディクラッケン、ともに嫌われ者同士であり、最後の青き彼方とは海の向こう、確かに言い伝え通りです!」


 ヤーべの解説を聞き、ばばさまが満足そうな笑みを浮かべる。


「ほんとかよ」

「信じないのですか?」

「というかその言い伝えが本当だとしてだ、それがどうした?なんか起きるのか?」


 ばばさまは子供達を置いてけぼりにして副団長のそばへやって来た。

 目が見えないとは思えないほどの正確さでだ。

 そして手にした杖で副団長を突いた。


「いってえなババア!何しやがる!?」

「……」


 更にばばさまが副団長を突く。


「痛えって言ってんだろうが!てかババア!お前、ほんとは目が見えてんだろうが!」


 その姿を見て女傭兵の一人が笑いながら言った。

 

「副団長が年上好きなのは知ってたけどそこまでとは思わなかったわ!」

「バカ言ってんじゃねえ!てかっ、ババア!何顔赤くしてんだ!?まさか本当にもう一花咲かせるなんて思ってねえだろうな!って、痛えだろうが!!」



 副団長がばばさまと戯れている間もブラッディクラッケンは浜辺から遠ざかっていた。

 更にブラッディクラッケンの周囲に集まった魔物達がその体を食いつばみ始める。

 クズ達はそれに気づき慌てる。


「ちょ、ちょ待てよー!!」


 ブラッディクラッケンの体は魔物達に食われている影響か、あるいはクズ達がお宝探しのためにあちこち裂いた影響からかゆっくりと沈み始めてもいた。

 クズ達が助けを求めて浜辺に向かって手をぶんぶん振る。

 全力で振る。

 それがわかるのはヴィヴィだけであるが、そのことを報告することはなかった。

 

「ぐふぐふ」



 一向に助けに来ないことに焦った一人のクズが砂浜に向かって叫んだ。


「なあ!棺桶持ち!聞いてくれよ!俺の帰りを嫁や腹を空かしたガキが待ってんだ!だからよ!俺だけでいいから助けてくれよ!」

「てめえ!何勝手なこと言ってんだ!?」


 クズリーダーがそのクズを怒鳴りつけるが効果はなかった。

 

「うるせえクズ!こうなったのは無能なお前のせいだ!!」

「ざけんな!!」


 彼の行動を見て他のクズ達が我先にと同情を誘う身の上話を始める。

 それらが事実か嘘か、はたまた妄想かは関係ない。

 相手が信じれば勝ちである。

 言葉だけでなく身振り手振りを交えて熱弁する者も現れ、後に続く者達がそれを真似し更に芝居がかる。

 彼らは悲劇を演じる自分に酔っていた。

 今やブラッディクラッケンの体は彼らの下手くそな演技を披露する舞台と化していた。

 遅れをとってなるものかとクズリーダーも下手くそな演技を始めた。


「棺桶持ち!俺だけでいいから助けてくれ!俺が死んだら世界の損失だぞ!!なあ、わかんだろ!?」


 彼らの行為はまったくの無駄であった。

 話を信じる信じない以前にその声が遠く離れた砂浜まで届くはずがないのだ。

 だが、無意味ではなかった。

 彼らの言葉に反応するもの達が現れたのだ。

 海の中から。

 彼らのわめき声(熱演)で更に魔物達が引き寄せられたのだ。


「ちょ、ちょ待てよ!?」


 もちろん、魔物は待たなかった。

 その魔物達もブラッディクラッケンの体を食い始め沈む速度が加速した。

 こうして港街に巣食っていたクズ達は街の人々に見送られ……いや、もう誰も見ていないか……ともかく、ブラッディクラッケンと共に姿を消したのだった。



 ブラッディクラッケンの姿が完全に見えなくなったのを確認してからサラが言った。


「では私達は戻りましょうか」

「ああ」


 リサヴィと傭兵団(副団長にちょっかいかけていたばばさまは住人に押さえられた)は街へ向かった。



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