693話 クズ達の財宝探し その1
戻って来たリオにヤーべが文句を言う。
「リオ!なんでクズどもを葬って来なかったんですか!証拠を残さず一掃するチャンスだったじゃないですか!私もサラも大いに不満です!!」
「おいこら!私を巻き込むな!」
「何を言ってるんですか!私はサラの代弁をしてあげたんですよ!感謝されこそすれ怒られる筋合いは……むぐっ!?」
「よしよし。もう黙ろうな」
副団長がヤーべの口を手で塞ぐと女傭兵達に命令してヤーべを引き離す。
「離してくださいお姉様方!私は……」
「まあまあ。まだチャンスはあるでしょ」
「そうそう。ブラッディクラッケンを引き上げて来たところで仕留めた方があいつら悔しがるよ」
その言葉を聞いたヤーべが「はっ!?」とした顔をし、暴れるのをやめる。
「流石サラですね!そこまでとは!」
「いい加減にしなさい」
サラがヤーべをどつきに行こうとするのを副団長が慌てて止める。
「お、落ち着けってサラ!なっ?」
「……」
サラはブラッディクラッケンの元へ向かったクズ達のこの後の行動が気になった。
「リオ、このまましばらく様子を見ましょう」
「クズ達を抹殺するためですよね!?」
と背後から聞こえたがサラは無視した。
リオは反対しなかった。
サラは傭兵団に付き合う必要はないと言ったが彼ら、ではなくヤーべが残ると言ったのでなし崩しに傭兵団も残る事になった。
サラはすごく残念そうな顔をした。
しばらくして兵士達が様子を見に来た。
辺りの様子を見て驚く。
想像以上の数のサーギンが倒れていたからだ。
更に近海に浮かぶブラッディクラッケンの姿を発見し、それをリオが倒したと知りもう言葉が出なかった。
その後少しして住人達も姿を現した。
それを見てサラが首を傾げる。
彼らは避難のためフェランへ向かっていたと思っており、戦いが終わったのを知って引き返して来たにしては早過ぎるからだ。
その様子を見て兵士達の隊長が済まなそうな顔をして説明する。
「フェランに避難するように言ったのだが、街と運命を共にすると言って首を縦に振らなくてな。ほとんどの者が街に残っていたんだ」
「そうですか」
もしサラ達が早々に撤退を決意していたならば街は甚大な被害を受けていたことであろう。
長年、近海を支配し港街を衰退させたブラッディクラッケンが倒されたと知り皆驚くと共にリオ達に感謝の言葉を述べる。
漁師達は自分達の舟をクズ達が勝手に使ったことに激怒したが、取り戻しに行こうする者はいなかった。
彼らは長年、この海で魔物を避けながら漁をしていた。
どこにどのような魔物が棲んでいるかも熟知していた。
今、ブラッディクラッケンが浮いている辺りも彼らなら絶対に近づかない場所であった。
リオとブラッディクラッケンの戦いの巻き添いであの辺りの魔物の多くが死んだのは確かだが流石に全滅したとは思えない。
ブラッディクラッケンの脅威が去った今、逃げ延びたもの達がいつ戻って来てもおかしくないのだ。
街の長がサラ達のもとにやって来た。
「あの……」
何を求めているのか後ろについて来ている者達の視線でサラはすぐに気づいた。
「後片付けをお願いできますか?報酬はそうですね、半々でどうでしょう?」
「半々!?」
「不満ですか?」
「い、いえ!全然不満ではありません!任せてください!」
「死亡確認は一通りしましたが見ての通りあの数です。見落としてまだ息のあるものがいるかもしれませんので十分注意してください」
「はい!」
話を聞いていた住人達から歓声が上がり早速サーギンの解体を始めた。
幸いサーギン達はすべて息絶えており、クズ達のように犠牲者を出すことなかった。
サラの大盤振る舞いに副団長は思うところがあったが、大雑把に倒した割合で傭兵団の取り分を計算すると損することはないとの結論に達したので何も言わなかった。
クズ達には海育ちが多かったが全員ではない。
舟を漕げるわけでも泳げるわけでもない者達もいた。
それにも拘らず全員が舟に乗ったのは報酬をもらえない恐れがあることもあるがサラ達と一緒にいたくなかったからだ。
先程のサラのひと睨みは効果覿面で財宝に目が眩みすっかり忘れていたリサヴィへの恐怖を思い出させたのである。
当初、クズ達はロープをブラッディクラッケンの体に巻き付けて浜辺まで舟で引っ張っていくつもりであった。
だが、実物があまりに大きく自分達だけでは無理だとわかり断念せざるを得なかった。
もちろん、それで諦めるクズ達ではない。
その場でブラッディクラッケンの腹を裂いてお宝を回収することにしたのだ。
ブラッディクラッケンの体に飛び移ったのは皆泳げる者達で舟が流されないよう見張りに残ったのは泳げない者達であった。
彼らは海に落ちたら終わりである。
当初の予定と異なり、得た財宝を舟に載せる必要ができた。
彼らが海に落ちたとしても助けるどころか、財宝を載せるスペースが増えたと喜ぶことだろう。
なんとも素晴らしい関係性である。




