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692話 クズ達の交渉 その2

 傭兵達はしばらく開いた口が塞がらなかったが、サラ達はクズ達のクズロジックに慣れていたので特にリアクションはなかった。

 いや、そもそも彼らの戯言を聞いていなかった。

 サラとアリスはマナポーションを取り出して飲み魔力の回復を図っていた。

 ヴィヴィはリオをいつでも迎えに行けるようにクズ達が来る前に飲み終えている。

 気分よく話をしていたクズリーダーはサラ達がマナポーションを飲んでいるのに気づき怒り出す。


「て、てめえら卑怯だぞ!人が話してる途中で回復なんかしやがって!!恥を知れ!恥を!!」


 他のクズ達もクズリーダーに倣ってサラとアリスを非難する。

 副団長が呆れた顔で呟いた。


「こいつらの卑怯ってのは一体どういう基準なんだ?」


 副団長の呟きに女傭兵の一人が答える。


「自分達に都合の悪い行動は全て卑怯になるのよ、きっと」

「なるほど。クズらしい思考だな」


 会話が聞こえていたクズ達が本当の事を言われて「ざけんな!」と激怒する。

 そんなクズ達を無視して副団長はヴィヴィに声をかける。

 

「ヴィヴィ、俺達傭兵団はクズじゃないってわかっただろ。今後、俺達をこいつらと同じ扱いするのは冗談でもやめてくれ」


 副団長はクズ呼ばわりされたことをずっと根に持っていたのだ。


「ぐふぐふ」


 ヴィヴィはどうでも良いような返事をした。



 クズリーダーの最初の計画ではサラと交渉するはずだった。

 だが、副団長が割り込んできたためサラと話が出来ず、サラ達にマナポーションを飲む隙を与えてしまった。

 これだけで彼の“ク頭脳”が出した作戦は成功率がゼロになった。

 ……いや、まあ、サラ達がマナポーションを飲まなくても成功率はゼロだったのだが。



 クズ達が非難の声をサラとアリスに浴びせ続ける。

 クズは人を貶すのが大の得意である。

 頭を使わなくても勝手に口が動く強者もいる。

 しかし、残念なことに全く効果はなかった。

 サラがすっと目を細めてクズ達を睨むとそれだけでクズ達は自分達が圧倒的弱者であるという事実を思い出す。

 皆口を閉じ今までの騒ぎが嘘のように静かになった。

 アリスがクズリーダーを見た。

 いや、ロックオンし、その手が一度収めたメイスを再び掴んだ。

 クズリーダーは自分に死の危険が迫っていることを察した。

 クズリーダーはアリスが戦う姿をじっと観察していた。

 下心もあったがそれだけが理由ではない。

 リーダーともなるとあらゆる状況を考慮する必要がある。

 その一つとして交渉がうまく行かなかった場合、リサヴィ最弱であるアリスを人質に取る案があったのだ。

 だが、アリスは強かった。

 アリスの戦闘力はクズリーダーの想像をはるかに超えたていた。

 彼の率いるクズ集団の誰よりも強かった。

 アリスと対等に渡り合えるのは自分だけであった。(超あま補正あり)

 そのため、人質に取る作戦はあっさりと選択肢から消えた。

 そのアリスの標的にされて死が迫っている。


「あれ?対等に渡り合えるんじゃなかったのか?」


 と彼の心に突っ込む者は当然いない。



 神官の最も恐ろしいところは神聖魔法を無詠唱で発動できるところだ。

 サラとアリスはその場を動かずにすぐさま攻撃魔法を放つことができる。

 密集している今なら最初の一撃で四、五人は地に伏すだろう。

 その中に間違いなくクズリーダーは含まれる。

 クズリーダーは自分が死んだ後のことなど全く興味ない。

「疲労して弱っているところでこちらの条件を飲ませるぜ!」作戦が失敗に終わり作戦変更を余儀なくされた。

 彼は“ク頭脳”を高速でフル回転させる。

 彼のク頭脳が出した作戦はたった一つ。


 勢いに任せて押し切る!


 であった。

 クズリーダーはサラに反論を許さぬ勢いで自分の考えを捲し立てる。


「と、ともかくだ!お前らにはブラッディクラッケンを回収する術はねえが俺らにはある!これが全てだ!わかったな!?よしっ、決まったな!!」


 クズリーダーは言いたい事を言い終えるとサラ達が反論する隙を与えず、したとしても聞こえないぞと「うおおお!」と大声で叫びながら舟が置かれた場所へ全力疾走する。

 それにクズ達が倣い、「うおおお!!」と叫びながらクズリーダーの後を追った。

 ちなみに彼らが向かった先にある舟は彼らのものではない。

 すべて港街に住む漁師達の所有物であった。



 クズ達が乗り込んだ舟が次々とブラッディクラッケンへ向かっていく。

 クズ達の愚行に呆気に取られていた副団長が我に返りサラに尋ねる。


「いいのか?」

「放っておきましょう」


 その言葉を聞きヤーべがサラに猛抗議する。


「納得いきません!!私はてっきり油断させて背後から闇討ちするものとばかりと思って今か今かとスタンバッていたんですよ!」


 サラが頬を膨らませたヤーべを疲れた目で見ながら言った。


「あなたは私をなんだと思っているのですか?」

「ぐふ、それほど間違ってはいない」

「おいこらっ!」

「サラ!ヴィヴィ!私は真面目な話をしているんです!」

「私“は”真面目に話をしています」

「ヤル気がないならなんでクズ達の前で魔力を回復したんですか!?あの場でクズを抹殺するためでしょう!?」

「違います。もしものときのためです」

「それはいつですか!?今でしょう!!」

「ですから違います」

「まさか……クズ退治専門家のリサヴィがクズ如きに屈するんですか!?略してクッズるんですか!?」

「何を言ってるんですかあなたは。とにかく落ち着きなさい」

「でも……!!」


 ヤーべは更に何か言おうとしたところではっ、とした顔をしたかと思うと笑顔になった。


「……なるほど。サラはナナル様の弟子です。人目のあるところで自分の手を汚すのはナナル様の名誉に傷をつけるかもしれないからマズイと思ったわけですね!そういう時のためにリオがいるというわけなんですね!!」

「違います」

「海上で始末すれば死体は魔物が処理してくれるので一石二鳥というわけですね!」

「全く違います」

「流石サラ!一歩間違えればクズと同類とも思われるそのずる賢さも正義のためならばオッケーなんですね!参考になります!」

「わたしもっよく参考にしてますっ」

「おいこらっ!」

「ぐふ、私もな」

「あなたはもともと備わっているでしょう!というか私はそんなこと考えていません!」

「でも私にも少しは残して欲しかったです」

「違うと言っているでしょう」


 サラは疲れた顔で否定した。



 クズ達は最初、魔物を警戒して慎重に舟を進めていたが魔物が全く姿を現さないのを見て速度を上げる。

 

「魔物達が戻って来る前にさっさと作業終わせるぞ!」


 クズリーダーの叫びに「へい!」とクズ達が返事した。

 クズ達の乗る舟がぷかぷか浮かぶ魔物や魚の死体のそばを通り過ぎる。

 クズリーダーはその魔物達を物欲しそうな顔で見つめるクズ達に気づき喝を入れる。


「目先の獲物にとらわれるんじゃねーぞ!こいつらも当然引き上げるが、まずはブラッディクラッケンが先だ!それを忘れるな!!」


 クズ達が「へい!」と返事した。



 リオはクズ達が舟で近づいてくるのに気づいた。

 ゆっくり立ち上がると浜辺に向かって片手を上げた。

 しばらくするとリムーバルバインダーが移動限界まで迎えに来た。

 リオは来た時と同じようにリムーバルダガーを足場にしながらリムーバルバインダーに近づきその上に飛び乗った。

 こうしてリオは帰還した。

 途中、海上からクズリーダーの叫び声が聞こえた。


「サラとは話をつけた!後は俺らに任しとけ!」


 リオが彼らに返事することはなかった。



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