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691話 クズ達の交渉 その1

 サラ達は誰かが背後から近づいて来るのに気づいた。

 それも大勢だ。

 誰かは見なくてもわかっていたが振り返る。

 その者達は腕を組みキメ顔をしながら近づいて来ていた。

 言うまでもなくクズ達であった。

 彼らはサーギンの死体には目もくれず……もとい、指をくわえて見ていた。

 お預けを食らった飼い犬のようであった。

 彼らが手を出さなかった理由は自分達が倒したものではないから、などという当たり前の理由ではなく、クズリーダーに止められていたからだ。

 ではクズリーダーがクズらしくなく一般常識をもっていたかといえば当然違う。

 目の前のサーギンよりももっと大きな獲物が目の前、いや、視線の遥か先にあったからだ。

 そう、ブラッディクラッケンである。

 ブラッディクラッケンはSランクにカテゴライズされている魔物であり、冒険者ギルドだけでなく他からも高額な賞金がかかっていた。

 更に大型の生物に共通して言えることだが、その胃袋の中には食らったものの消化できず排泄もされずそのまま残っている場合が多々ある。

 その中には財宝も含まれ、言ってみれば生きた宝物庫であった。

 ブラッディクラッケンもその例に漏れず、これまでに数えきれないほどの船を沈めて来たことからその腹の中には大量の金銀財宝が眠っている可能性が高かった。

 楽して金儲けすることしか考えないクズ達がそのことに気付かぬはずがなく、掠め取る気満々でクズリーダーにはその勝算があった。


(リサヴィ、お前らは確かに強い。それは認めてやる。まともに戦えば勝てないとわかっている。だが、それは万全な状態であればだ!)


 ブラッディクラッケンを倒した化け物のリオはまだ海上におり、サーギン戦を終えたばかりで疲労困憊状態のサラ達ならば自分達の戦力の方が上回ると彼の“ク頭脳”が叩き出していた。

 いや、その結論に達したのはクズリーダーだけではなかった。

 時間の差はあれクズ全員がその結論に達したのだ。

 全員と言ったように以前にリサヴィと出会ったことのある、恐怖していた者達も含まれていた。

 莫大な財宝を手に入れるという欲望がリサヴィに対する恐怖を消し去り“ク頭脳”の計算すらも狂わしてしまったのである!

 ……あっ、もとから狂ってるか。

 クズリーダーはリオは話が通じないが(お前が言うな)サラならば交渉に応じ、そして約束をすれば必ず守ると確信していた。

 約束を違えればナナルの名に傷がつく。

 それを避けたいと考えると思ったのだ。

 クズリーダーが偉そうな態度のままサラに話しかける。


「サーギン及びブラッディクラッケン退治ご苦労だったな。だがな、ブラッディクラッケンは俺らが倒そうとずっとチャンスを窺っていたんだ。それをお前らが横取りした」


 クズリーダーは呼吸をするように平然と嘘をつく。

 もちろん、そんな嘘が通じるわけがないのだが、クズリーダーはそのまま話を続ける。


「とはいえだ。お前らがブラッディクラッケンを倒したのは事実でもある。そこでだ、報酬は仲良く山分けと行こうぜ」


 そう言うとサラ達の返事を聞かずに山分けの具体的な内容を話し始める。


「賞金は取り敢えず置いておくとしてだ、ブラッディクラッケンの引き上げから解体、財宝の回収まで俺らに任せておけ。俺らの仕事だから手出すんじゃねえぞ!」


 そこでクズリーダーがニヤリと笑った。


「まあ、お前らの中に舟を扱える者がいるとは思えんから引き上げるのは無理だろうがな!なあにネコババなんかしねえよ。俺が保証する!!」


 そう言ったクズリーダーの顔はとっても偉そうだった。

 ちなみにクズの保証など銅貨一枚の価値もない。

 サラ達の沈黙を了承したと判断して話を続ける。


「そんでよ、肝心の取り分だがな、九、いや、八、ニで行こうぜ」


 その言葉に副団長が冷めた目をして突っ込む。


「それが山分けか?一応聞いておくが八はどっちだ?」


 クズリーダーは顔を副団長に向けると笑いながら言った。


「ははは。そんなことわざわざ言うまでもねえだろう」


 クズリーダーが明言を避けたことで皆確信する。

 クズ達が八であると。

 更に言えばサラ達の取り分であろう二も怪しい。

 彼らが回収するのでいくらでもちょろまかすことができるからだ。

 副団長はクズリーダーが何故リサヴィ相手にこれほど強気に出られるのか不思議で仕方がなかった。


(確かにリサヴィも俺達も疲労しているし、リオはこの場にいない。だが、だからと言って戦って勝てると判断して強気に出ているのだとしたら頭が腐ってんじゃないか?って、ああ、クズだから腐っててもおかしくはないか)


 サラ達が沈黙しているので副団長が再び口を開く。


「お前らが取り分を“二”要求しているのはわかった。だがな……」


 副団長の言葉をクズリーダーは遮って叫んだ。


「ざけんなっー!!お前らが二に決まってんだろうが!」


 クズリーダーは本当はブラッディクラッケンを引き上げた後で「俺らが八だぜ、へへへっ」と言うつもりだったがはっきり確認して来た以上は流石に有耶無耶に出来ないと自分達の取り分が八であることを口にしたのだ。

 その理由を偉そうな態度で話し始める。


「こっちはな!五人も犠牲者を出してんだ!どっちが熾烈を極めた戦いだったかは言うまでもないだろうが!!あんっ!?」


 副団長を含め傭兵達はぽかん、とした。

 そもそも彼のいう熾烈を極めた戦いとやらはブラッディクラッケンとの戦いではなくサーギンとの戦いである。

 この時点で彼の言うことは破綻しているのだ。

 ちなみにその熾烈を極めたという戦いで彼らが倒したサーギンは十体程度。

 それも女傭兵達が重傷を負わせたものを含めてである。

 一方、リサヴィや傭兵達が倒した数は三百を軽く超えるだろう。

 彼らが強調した戦死したクズ達の死因だが、重傷のサーギンに不用意に近づいて殺されたのが四人、もう一人に至っては囮に使ってだ。

 囮の体にはサーギンによる傷の他にクズリーダーがつけた傷とクズ達の放った矢がいくつも刺さっており、魔物に殺されたのかクズ達が殺したのかわからない状態であった。

 自分達の情けなさっぷりを自慢げに語るクズリーダー、そして同じく自慢げな表情をしているクズ達。

 彼らの心情は一般人には到底理解不能であった。

 理解でき納得できたならその者はもう立派なクズと言えるだろう。


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