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687話 クズ達の戦い その2

 五回目の襲撃準備を始めるサーギンだが今回は今までと違い集結場所が少し離れていた。


「リオ、あの正面に移動しましょう」


 サラが向かって前方斜め右の浅瀬に集結しているサーギンを指差す。

 その群れはリサヴィを避けて港街へ向かう可能性があるし、今いる場所には多数のサーギンの死体が散らばっていて邪魔だった。

 ただでさえ砂浜という足場の悪いところに障害物まであってはつまずいて不覚をとる恐れがある。

 それにまだ息があるものが紛れていて先のヤーべの時のように不意打ちを食らうことを危惧したのだ。

 リオは特に不満を口にすることなくサラの指示に従い移動し、それに皆が従った。



 クズリーダーに対する信頼は揺らいでいた。

 理由は言うまでもなくリオにあっさり負けたからだ。

 それも公衆の面前でだ。

 クズ集団の面目丸潰れである。

 あほ面晒して気絶した彼を運んだ者達は彼がまだ冒険者だった頃にリーダーをしていたクズパーティのメンバーである。

 その彼らがクズリーダーを迎えに行ったのは彼のためではなかった。

 クズリーダーがリーダーの座を追われると今までおいしい思いをしていた彼らもその巻き沿いになることを恐れてのことであった。

 その彼が今もリーダーの座でいられたのは負けた相手がリサヴィの冷笑する狂気、リオだったからだ。

 リオに戦いを挑んで無様に負けたことを彼は強者に挑んだ勇気ある行動だったと自画自賛した。

 リオの強さを知っている者達の賛同を得てなんとかリーダーの座を守ることに成功したが不満を示す者も少なくなかった。

 クズリーダーにはもう後がなかった。

 次に失態を晒せば間違いなく不満を持った者達が下剋上を起こし良くて追放、最悪は消されるだろう。

 だがら彼はなんとしても結果を出し自分がこの集団のリーダーにふさわしい存在だと皆に示さなければならなかったのである。



 リオ達が移動するのを見てクズ達が腕を組んだまま前後へ行ったり来たりする奇妙な運動を始めた。

 ちなみに後ろへ移動する時は向きを変えずに後ろ歩きである。

 クズリーダーは迷っていた。

 リオ達が倒した大量のサーギンから素材漁りをするか今まで通り待機するかでだ。

 その迷いに体が無意識に反応したのである。

 他のクズ達も同じ思いでクズリーダーに指示されることなく勝手に体が動いたのであった!

 もしここにマルコでクズダンスを生み出したあの旅芸人達がいたならば、彼らのその姿を見て新たなクズダンスを生み出したことだろう。



 クズリーダーは悩んだ挙句、目先の利益を取ることを選んだ。

 サラ達が負ける、そうでなくても撤退する可能性を考慮して今のうちに少しでも素材を確保しておこうと思ったのだ。

 クズリーダーの号令とともにクズ達が奇声を上げて放置されたサーギンの死体に向かって突撃した。

 我先にと素材漁りを開始するクズ達だったが、彼らの中から悲鳴が上がった。

 まだ息のあったサーギンの死に際の一撃を食らったのだ。

 何度も同じことを繰り返す学習能力のないクズ達であった!

 三人目の犠牲者が出たところでクズリーダーは素材漁りの中止を決断し、後方へと下がるよう指示する。

 もちろん、きちんとトドメを刺さなかったリオ達に罵声を浴びせるのを忘れない。

 クズっぷりを遺憾無く発揮するクズの見本のようなクズ達であった。



 ここで疑問に思うかもしれない。

 何故このクズ達はこうも簡単にEランクの、しかも死にかけの弱ったサーギンに殺されるのか、疲労して集中力が途切れているわけでもないのに、と。

 それはこのクズ集団が弱い住人や冒険者を脅して金銭などを奪い取ることを目的に、対人用に結成された集団だったからだ。

 元冒険者や元傭兵もいたがその数は半数にも満たず、多くはただのごろつきや野盗崩れで魔物退治に慣れていなかったのである。

 その彼らはこのクズ集団に入って調子に乗った。

 住人達が怯える姿を見て自分達は強いと思い込み自らにバフをかけた。

 しかし、そのバフが現実に影響を与えることはなく、死にかけのサーギンにあっさり殺されてしまったという訳である。

 本来、クズは仲間が減ると「分前が増えるぜ!」と喜ぶところであるがこのときのクズリーダーはそう思わなかった。

 部下思いだった、なんてことはもちろんない。

 圧倒的に実力が足りなくても数は脅威である。

 戦いの後、サラ達が本来の力を発揮できぬほど疲労したところで数による脅しで交渉を有利に進めて自分達の取り分を増やす気でいたのだ。

 ……増やすも何も彼らの取り分など一欠片もないはずなのだが。

 


 再びサーギン数体がリサヴィと傭兵団の包囲を突破したが団員達は副団長の指示に従いスルーすることにした。

 クズ達はサーギンの接近を見て先ほどと同じように道を開ける。

 今度は先ほどのように接近戦を挑まず傭兵達が重傷を負わせた後、彼らも弓で遠距離からトドメを刺す気でいた。

 クズ達は傭兵達と共同戦線を張っている気になっていたが、そんな考えなど傭兵達には全くない。

 傭兵達が攻撃しないのを見てクズ達が怒りだすが傭兵達は気にしない。

 頭に来た元野盗のクズがクズリーダーの命令を待たずにサーギンに向かって矢を放った。

 この場合、運悪くと言うべきなのだろうか、その矢がサーギンに命中した。

 その硬い鱗に弾かれ無傷だったがサーギンは怒り、一緒に行動していたサーギンすべてがそのクズ、つまりクズ集団に向かっていく。

 向かってくるサーギン達を見てクズリーダーが激怒する。


「馬鹿野郎!何勝手なことしやがるんだてめえは!?」

「す、すまねえ!」


 向かって来るサーギン達は無傷とはいえその数は少ないので彼らだけで戦っても勝つことはできるだろうが、これまでのことを考えるとまた死者を何人か出すだろう。

 だからクズリーダーは傭兵達が攻撃しなかった時点でサーギン達をスルーすることに決めていた。

 それで街が被害を受けようが知ったことではなかった。

 だが、もう直接対決は避けられないと判断したクズリーダーは非情な決断を迷うことなく下す。


「てめえ、責任取りやがれ!!」


 クズリーダーは矢を放ったクズの足を斬りその場から動けなくする。

 悲鳴を上げて転がるクズをその場に残し、他の者達とともにその場を離れた。


「い、いでえよ!……う、うわっ!来るな!助けてくれーっ!リーダー!!」


 そのクズがサーギンを足止めしている間に距離をとり、元傭兵と元冒険者のクズ達が弓を構えてサーギンに狙いをつける。

 攻撃している時は足が止まり弱点の腹が露わになり狙いやすい。

 クズリーダーの号令でクズ達が負傷したクズに群がっているサーギン達に向かって矢を放った。

 その場所から“いろんな”悲鳴が上がった。

 クズ達の攻撃が止むとサーギン達とクズ一人の死体が出来上がっていた。

 どちらにもクズ達が放った矢が無数に突き刺さっていた。

 クズリーダーがニヤリと笑って叫んだ。


「俺らの快勝だ!」


 その言葉にクズ達が「おうーっ!!」と腕を高く上げて応えた。 

 仲間を犠牲にして得た勝利とはとても思えないほどその顔は誇らしげだった。

 その後、サーギンが本当に死んでいるのを確認してから素材回収し、生贄になったクズからも金目のものをちゃっかり回収した。



 六度目の襲撃はなかった。

 その理由は当然、クズ達とは全く関係ない。

 近海に大きな魔物が出現しそれどころではなくなったのだ。

 その魔物を見てアリスが叫んだ。


「ブラッディクラッケンですっ!」


 副団長がその存在を認めて思わず叫ぶ。


「まさか嘘だろ!?」


 ブラッディクラッケンこそ近海に棲む魔物のボスであった。

 この魔物のせいで船が寄港できなくなりこの港街は衰退したと言っても過言ではない。

 その姿はイカに似ている。

 足は九本あり、本体とは別にそれぞれの足の先端にも口があり普段はこの口で獲物を捕食する。

 ブラッディクラッケンが九本の足を伸ばしサーギンを捕食し始めた。

 サーギン達はブラッディクラッケンには勝てないと思ったらしく戦いを挑むことなく逃げていく。

 ブラッディクラッケンの乱入により港街攻防戦は終わった。



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