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686話 クズ達の戦い その1

 サーギンの接近に気づきクズ達が行動を開始した。

 サーギン達に道を譲るかのように移動したのだ。

 クズの数は三十人を超え、対するサーギンはたった五体だというのにである!

 クズ達の動きを見て副団長が怒りを露わにする。


「あの程度も倒せねえってか!?何しに来たんだあのクズどもは!?」

「副団長!私に任せな!」


 女傭兵の一人が武器を弓に持ち替えると街へ向かうサーギン達に狙いを定める。


「サーギンの鱗は硬いぞ!」

「わかってる」


 これまでの戦いで傭兵達はサーギンをその硬い鱗ごと斬り裂いていたが、それができたのは副団長が持つ魔法剣を除けばサラとアリスの強化魔法を武器にかけてもらったからだ。

 だが今、彼女が構えている弓矢にはその効果がかかっていないので鱗を貫けるとは思えなかった。

 彼女が放った矢はサーギンに命中したものの予想通り硬い鱗に弾かれて大したダメージを与えることはできなかった。

 しかし、ヘイト値を上げるのに成功した。

 攻撃を受けたものを含め一緒に行動していたサーギン達が矢を放った女傭兵を敵と認めて向かってきた。


「ばーか。腹がむき出しだよ」


 女傭兵の放った矢がサーギンの鱗で覆われていない弱点である柔らかい腹を貫いた。

 サーギンが悲鳴を上げて転ぶ。

 もう一人の女傭兵も弓に武器を変えて矢を放つ。

 二人の女傭兵が次々とサーギンの腹を撃ち抜いていった。

 

 

 女傭兵達の攻撃により包囲網を突破したすべてのサーギンが地に臥した時だった。

 離れて様子見をしていたクズ達が奇声を上げてその倒れたサーギンに向かって突撃を開始した。


「……あのクズどもは俺達のヘイト値を上げるのが上手いな」


 女傭兵達の矢を受けてもまだ息のあったサーギンにクズ達が駆け寄り弱点の腹に剣を突き刺し止めを刺す。


「とったどー!!」


 剣を天に掲げクズスキル?“ごっつあんです”を発動したクズは元冒険者なのだろう。

 サーギン達も一方的にやられたわけではない。

 不用意に近づいたクズ一人を巻き添いにしたのだった。

 クズ達は死んだクズ仲間を悲しむ素振りを全く見せず、元気いっぱいに勝利の雄叫びを上げた。


「あいつら……」


 クズ達の行動に怒り心頭の女傭兵がクズ達に向けて弓を構えようとしたが副団長がその肩を掴んで止める。


「クズはほっとけ!矢が勿体無い!」

「……わかったよ」



 そこに悲鳴に近い声で副団長の名を叫ぶ者がいた。

 男傭兵だ。

 サーギンのランクはEと大して高くない。

 だが、砂浜という足場が悪いことに加えて連戦だ。

 蓄積した疲労が加わり、彼の集中力は散漫になっていた。

 仕留め損なったサーギンが致命傷を負いながらも生き絶える前に最後の一撃を放った。

 その槍が男傭兵の脇腹を深々と突き刺したのだ。

 そこへ別のサーギンが彼に襲いかかった。 

 彼に一番近かったヤーべが救援に駆けつけた。


「死ねー!!」


 そう叫びながら斬りつけサーギンの排除にかかる。

 疲れが溜まり動きが鈍くなっていた彼女だが、男傭兵への攻撃を防ぐことに成功した。

 しかし、男傭兵の受けた傷は深くこのままでは死ぬだろう。

 その時だ。

 男傭兵の窮地を知ったのか、たまたまなのかはわからないがタイミングよくアリスがエリアヒールを発動し範囲内にいた傭兵達もその恩恵を受けた。

 男傭兵は傷が回復し、そこへ副団長達もかけつけ九死に一生を得た。

 女傭兵達が男傭兵を怒鳴りつける。


「情けないね!何護衛対象に助けられてんだよ!」

「全くだよ。あんたこの戦いが終わったら鍛え直してやるよ!」


 二人の女傭兵の言葉を聞いて男傭兵が震え上がる。


「ま、待ってくれよ!お前ら二人相手じゃ死んじまう!」

「安心しな。そん時はあんたの”一物“だけでも嫁んとこへ送り届けてやるよ」

「そりゃいい!飽きる前に新しい相手を見つけるよ!」

「酷え!副団長!助けてくれよ!」


 副団長が女傭兵達を宥める。


「今回は大目に見てやれ。傷が癒えたばっかりなんだからな」

「ちっ、わかったよ」

「次はないからね!」


 女傭兵達は渋々引き下がった。

 男傭兵はうるうるした目で副団長に感謝を述べた。



 副団長が団員達に新たな指示を出す。


「突破した奴らは向かって来ない限り放っておけ!大した数じゃないだろうし、それぐらいなら街にいる兵士達が何とかするだろう!」


 その言葉からクズ達を全く当てにしていないことがわかる。


「「わかったよ!」」

「わかったぜ副団長……」


 女傭兵達の返事とは異なり、男傭兵の返事は弱々しかった。

 傷はアリスのお陰で治ったが疲労までは回復しない。

 副団長は彼の戦闘継続は無理と判断した。


「お前は休んでろ」

「す、すまない副団長……!!」


 女傭兵達の冷めた目を見て男傭兵は慌てて付け加える。

 

「で、でも、すぐ復帰するぜ!」

「ああ。だが俺が指示するまでは休んでろ」

「わかったぜ」


 副団長がヤーべに顔を向ける。


「お嬢ちゃんもだ。もう限界だろ。しばらく大人しくしてろ」

「私はまだ戦えます!」

「あんたはよくやった。上出来だ」


 副団長はお世辞抜きでそう思っていた。

 

「それに部下を助けてくれて感謝してる」


 だが、ヤーべは納得しない。


「ですからまだ戦えます!」

「この後クズどもとも戦うんだろう?」


 その言葉はヤーべに効果覿面であった。


「やっとわかって頂けたようですね!」


 副団長は、はははっ、笑って誤魔化し心の中で叫んだ。


(わかってねーよ!)


 ともかく、この一言でヤーべは大人しくなった。



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