684話 サーギン討伐
リサヴィと傭兵団、そしてヤーべは宿屋の一階にある酒場で朝食をとっていた。
「何か外が騒がしいですね」
サラがそう言うとヤーべが突然立ち上がり声を上げる。
「クズです!クズがまたやらかしたに違いありません!私達の出番ですよ!」
「落ち着きなさい」
サラがヤーべを宥めていると酒場に兵士が飛び込んで来た。
「リサヴィはいるか!?」
駆け込んで来た兵士にサラが尋ねる。
「私達ですが慌ててどうしました?」
「クズですね!?」
「お嬢ちゃんはちょっと黙ってような」
副団長がヤーべを無理矢理座らせる。
「……」
「それで何が起きているのですか?」
「サーギンだ!サーギンが大量に上陸して来ているんだ!このままだと街まで攻めてくる恐れがある!!」
「サーギン……」
リオが呟いたのを見てアリスが説明を始める。
「両生類の魔物ですねっ。全長は一メートルくらいで魚の姿に手足がついているんですっ。ランクはEと低いですがっ背中の鱗が硬くて武器が通り難いそうですっ。それにっ集団で行動するので実際にはEランク以上の強さを感じると聞きますっ。あっ、あとっ武器を扱うことも出来るそうですっ」
「ふうん」
兵士達の隊長が真剣な表情で言った。
「頼む!力を貸してくれないか!?俺達だけじゃ無理なんだ!」
「リオ」
サラの呼びかけにリオが立ち上がった。
「ちょうど海を見るつもりだったしついでに退治するか」
リオが承諾したのを見て兵士達の顔に希望が宿る。
「ありがとう!」
「助かる!」
サラが兵士達に注意を伝える。
「実際どのくらいの数で攻めてくるのかわかりません。私達だけでは対処不能だと判断したら撤退します。その事も考慮して住人達の避難をお願いします」
「わかった!そちらは任せてくれ!よろしく頼む!」
リサヴィ、ヤーべ、それに傭兵団がサーギンが出現したという海辺に向かった。
傭兵団がリサヴィに付き合う理由はないのだがヤーべが、
「お兄様に雇われているということは私に雇われていると言っても過言ではありません!」
などと言って戦いに参加するよう命令して来たのだ。
そんな我儘を聞いてやる義理はないのだが、ヤーべは一人でも行こうとするし、無理に止めてまた自害しようとされては敵わない。
それにリサヴィには男傭兵の治療をしてもらった恩もある。
そういうわけで傭兵団も参戦することにしたのだった。
リオ達が海辺に到着するとまさにサーギン達が街へ向かおうとしているところだった。
その数を見て傭兵達が驚く。
「おいおい、こりゃ数が多過ぎないか!?」
副団長の言葉に男傭兵が言葉を続ける。
「流石に俺達だけじゃ無理だぜ!」
しかし、彼らの言葉はリオの心になんの影響も与えなかった。
「じゃあ、始めるか」
そう言うとリオが二本の剣を抜いて走り出す。
それにサラ、アリス、そしてヴィヴィのリムーバルバインダーが続く。
ヴィヴィ自身は歩いてその後を追う。
「マジかよお前ら……」
その後をヤーべが走って追いかける。
「って、待てよお嬢ちゃん!!」
もちろん、ヤーべは止まらない。
「俺達もいくぞ!だが、優先順位を間違えるな!サーギンの相手は二の次だ!お嬢ちゃんを守ることが第一だからな!」
「わかってるよ!」
「言われなくても!」
「わかったぜ副団長!」
傭兵達は急いでヤーべを追いかけた。
先陣を切ったリオがサーギンを瞬殺していく。
仲間を殺されその殺意がリオへと向けられ多くのサーギンがリオへ殺到した。
リオは怒り狂ったサーギンに集中攻撃されるがその全てをかわし、逆にサーギンを斬り倒す。
サラとアリスがリオへと向かおうとするサーギンに神聖魔法フォースを放つ。
一発で数体を巻き込み数を減らしていく。
ヴィヴィがリムーバルバインダーを操り回り込もうとしたサーギンをぶっ飛ばす。
その圧倒的な強さと連携に副団長は思わず見惚れる。
(こりゃ、俺達の出番はないんじゃねえか?)
副団長はヤーべが突撃していくのを見てはっと我に返ると慌てて後を追いその肩を掴む。
「待てお嬢ちゃん!リサヴィに近づくんじゃねえ!連携の邪魔になるだろうが!」
ヤーべが副団長の声にムッとして言い返す。
「私はリサヴィの一員です!」
「違うだろうが!」
副団長はリサヴィとは距離をとって戦うことにし、そのことを傭兵達に指示する。
「俺達はリサヴィの包囲を抜けた奴を仕留めるぞ!無理に前に出てリサヴィの連携の邪魔をするなよ!ヤーべ!お前に言ってんだ!」
「だから私はリサヴィの一員です!」
「だから違うだろうが!」
傭兵団は有名なだけあって皆腕が立つ。
サーギンの鱗は硬いがサラとアリスが彼らの武器にも強化魔法をかけたお陰で難なく斬り裂いていく。
彼らが相手にするサーギンはリサヴィの攻撃から逃れたものでその数は少なく同時に複数相手にすることもほとんどなかったので危なげなく仕留めていく。
副団長はリオにボコられ自信喪失した後遺症が団員達に残っていることを心配していたが杞憂に終わった。
それは彼自身もであった。
不思議なことに先ほどまで感じていたリオへの恐怖をも消えていたのだ。
(まさか共闘する日が来るとは夢にも思わなったが味方だとこれほど頼もしいとはな)
副団長は二度とリオに敵対しないと心に誓うのだった。




