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683話 きっかけはまたもクズ

 きっかけはまたしてもクズであった。

 朝、早起きしたクズが海岸を暇つぶしに散歩していると砂浜に体が半分沈んだ状態の魚タイプの魔物を発見した。

 まだ生きている可能性を考慮して安易に近づかず、石ころを拾って魔物に投げた。

 三投目で魔物の体に命中してその体が微かに動いた。

 それだけだった。

 クズはその魔物は波に流されてうっかり砂浜に打ち上げられて身動きがとれなくなったのだと結論づける。


(プリミティブを含め素材を独り占めできるぜ!!だが落ち着け。死にかけだろうが近づいて反撃をくらったらマヌケだぞ)


 クズは遠距離からその魔物の止めを刺すことにする。

 背負っていた弓を構えながら確実に命中させる自信があるところまで近づく。

 もうちょっと、もうちょっと、と距離を縮め、気づけば数メートル前まで近づいていた。


「それ、もう弓使う意味なくね?」


 と突っ込む者はいなかった。

 彼は一人で散歩していたからだ。

 彼は笑みを浮かべながらその魔物に矢を放った。

 流石にその距離で外すことはなく命中した。

 だが、その魔物の鱗は硬く、大した腕力もなく更になんの変哲もない矢ではダメージを与えることは出来なかった。


「ちっ」


 クズが舌打ちをし、もう一本矢をつがえた時だ。

 死にかけと思われた魔物の体が浮いた。

 いや、立ったのだ。

 その魔物には魚には似つかわしくない手足がついていた。

 先ほどまでは砂に埋もれていて気づかなかったのである。

 更に言うとその手には人から奪ったか、海底で拾ったのだろうボロい槍を持っていた。


「へっ?」


 魔物の姿に驚いてクズの思考が停止したがその魔物、サーギンは止まらない。

 サーギンが口を大きく開けて何か叫んだ。

 叫び終えるとサーギンはあっという間にクズとの距離を詰める。

 我に返ったクズが叫ぶ。


「ちょ、ちょ待てよ!!」


 それがクズの最期の言葉になった。



 しばらくして漁師が浜辺にやってくると多数のサーギンがいるのを発見した。

 何かに群がっているように見え、誰かが襲われているのだと気づく。

 あの数に襲われてはまだ生きていたとしてももう助からないだろう。


「た、大変だ!!」


 漁師はUターンして街へ戻った。



 サーギンを目撃した漁師が大声で叫びながら街に戻って来た。


「大変だ!浜辺にサーギンがいた!どんどん上陸して来てる!!」


 その声を聞いた住人達は慌てて家に閉じ籠り、店を閉める。

 その叫びを聞いた兵士達が彼の元に集まって来た。


「おい!今の話は本当なのか!?」

「何が起こったと言うんだ!?」


 兵士達に詰め寄られた漁師は興奮気味に見たことを話す。


「俺が浜辺に行ったらサーギンが集まっていたんだ!誰かが襲われていたようだった!恐らくサーギンの習性を知らない奴、きっと最近来たクズが攻撃したんだと思う!それで怒ったサーギンが仲間を呼び寄せたに違いない!!」


 サーギンは仲間意識が強く、攻撃されると集団でやり返す。

 受けたダメージの大きさに関係なくだ。

 そのため、サーギンを見つけても手を出さず去るのを待つのがセオリーであった。

 それを知らずにクズは攻撃を仕掛けてしまったのである。


「ど、どうする!?サーギンにちょっかいかけて全滅した村があるって聞いたことがあるぞ!」


 一度怒ったサーギンはなかなか怒りが収まらない。

 八つ当たりで手当たり次第に攻撃することも珍しくないのだ。

 この港街は貿易港として役に立たなくなったことで重要性が薄れ常駐する兵士の数は少なかった。

 それに加えてクズ冒険者達の愚行でアズズ街道に魔物が溢れて封鎖されたことでフェランに応援に向かった者達もおり、更に数を減らしていた。

 その者達はまだ帰って来ていなかった。

 兵士達の隊長が漁師に問う。


「街まで攻めて来そうか!?」

「わからないが、たぶん、来る!そうじゃなければ数を増やすはずがない!」

「どうする隊長!?今聞いた話じゃとても俺達だけじゃ手に負えないぞ!」

「住人達を家に避難させて帰っていくのを待つか!?」

「いや、フェランへ逃げたほうがいいんじゃないか!?」


 隊長が決断を下す。

 

「俺もフェランへ避難させるほうがいいと思う!街にまで攻めてきたらとてもじゃないが俺達だけでは追い払えないだろう!」

「だが、住人達は素直に指示に従って逃げてくれるか?」


 この港街の住人は最近やって来たクズ達を除けば寂れていく一方でも生まれ故郷だからと残り続けた者達だ。

 フェランへの避難を拒否する可能性が高かった。

 隊長は兵士の一人にフェランへ救援要請に向かうよう指示した。

 その者はすぐに行動を起こした。

 

「くそっ!冒険者ギルドがまだあったらすぐにフェランへ知らせることが出来るのに……」


 どの冒険者ギルドにも魔道具“連絡くん”が設置されており、ギルド本部との連絡が可能だ。

 ギルド本部を間に挟むとはいえフェランへ馬を走らせるのとでは比べるまでもないだろう。

 そこで一瞬、気の迷いでクズ集団の姿が彼らの頭に浮かんでしまった。

 腕を組んで仁王立ちするクズ達の姿が。

 兵士の一人が叫んだ。


「そうだ!」

「クズ達の力を借りるのは問題外だぞ!!」


 クズ達は街で悪事を働いていたが捕まることはなかった。

 他のクズ達が目撃者を装い罪を犯したクズの無実を訴えたからだ。

 被害者や本当の目撃者は彼らの報復を恐れて沈黙してしまい、兵士達は犯罪者とわかっていても彼らを捕まえられずにいた。


「更に調子に乗って今より堂々と犯罪を犯すようになるだろうからな!」

「わかってる!そんなバカなことするか!そもそもあいつらは自分達より弱い相手としか戦わない!」

「じゃあなんだ!?」

「確か昨日有名なパーティが来たはずだ!」

「!!リサヴィか!!」

 

 彼らの心に希望の火が灯るが、すぐに不安げな表情に変わる。


「だが、たった一組のパーティでなんとかできる数とは思えないぞ」

「それに冒険者なら当然報酬を要求してくるぞ!」

「待て待て!相手はあのリサヴィだぞ!貧しい村では無償でリッキー退治をしていると聞く。要求して来ても無茶なことは言って来ないだろう!」

「リッキーとサーギンじゃ強さが違い過ぎる!」

「ここで話してても始まらん!とにかく相談してみよう!」

「お、おう!」



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