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678話 カモはどっちだ?

 客達から拍手を送られたヴィヴィが手を上げてそれに応える。

 拍手が収まったところでヤーべが自分を助けてくれたヴィヴィに礼を述べる。


「ありがとうございますヴィヴィ!」

「ぐふ、気にするな。いい加減ウザかった」

「ですねっ。ヴィヴィさんがやらなかったらっわたしがやってましたよっ」

「あなた達ね……」


 最初にクズ盗賊をぶっ飛ばしたサラが呆れ顔をするのはとても違和感があったが誰も指摘しなかった。

 ヤーべがにっこり笑顔で言った。


「これで私も晴れてリサヴィの一員ですね!」

「違います」

「ですねっ」

「ぐふ」

「ええっ!?そんなっ!!」


 ヤーべの悲しみの声が酒場に響いた。



 もちろん、ヤーべが諦める気配は全くない。

 相手がクズなら店外に吹っ飛ばして終わりなのだが、彼女はクズではないし、事情も知ってしまいやりにくかった。

 彼女の話が嘘である可能性もあったがそれは極めて低い。

 サラはずっと無言で我関せずを貫くリオに話を振る。


「リオ、リーダーであるあなたからも何か言ってください」


 リオはその言葉に反応してサラの顔を見て言った。


「海を見に行く」

「は?あなたは一体何を……」


 そこへアリスが言葉を挟む。

 

「海ってっもしかしてっ、フェランの先にある港街に行くってことですかっ?」

「そう、それ」

「ぐふ」


 ヤーべが興奮気味に言った。


「そこにクズが集結してるんですね!?」

「あなたはちょっと黙っててください」

「……」


 ヤーべは不満顔をしながらも口を閉じた。

 

「リオ、何故海を見たいのですか?」


 リオは首を傾げて言った。

 

「そこに海があるから?」

「私に聞かれても困ります。聞いているのは私の方です」

「そうだった」

「それで……」


 そこでサラはリオが記憶喪失であることを思い出す。


(もしかして記憶が戻った!?何か思い出した!?だとすると流石に他の人達には聞かせたくないわね)


 リオが昔の記憶を失っていると知ればそれを利用しようとする者達が現れるかもしれない。

 厄介なことに記憶を失っているのでやって来た者が真実を話しているのかわからないのだ。

 この酒場には先ほど退場したクズ盗賊以外にもクズ臭を放つ者が何人か残っており、彼らに知られるのはマズイ。

 知られればクズ連絡網によって全国のクズに知れ渡ることになるだろう。


「……まあ、別に急ぎの予定はありませんから私は構いませんが」


 そこでアリスが「あっ」と何かを思い出したかのように声を上げた。

 リオの性格が変化し始めてから空気が読めない者ナンバーワンの座についたアリスが何を言うのかとサラは内心ヒヤヒヤし、いざとなったら実力行使で口を塞ぐ気でいたが、幸いにもリオの記憶喪失とは関係なかった。


「そう言えばっ、魔術士ギルドの方がっ港街は治安が悪くなってるってっ言ってましたねっ」


 その言葉にヤーべが素早く反応した。

 

「やはりクズ退治に向かうのですね!!」

「違います」


 サラは即否定したがヤーべの耳には届かなかったようでその場で小躍りを始めた。

 その踊りはどこか上品さを持ち合わせており、ヤーべがいいことのお嬢さんあることを感じさせた。



 翌朝。

 宿屋を出るとヤーべが待っていた。


「お待ちしていました!」


 笑顔でそう話しかけて来たヤーべにサラがため息をついて答えた。

 

「私達について来てもクズ退治などしませんよ」

「わかっています」

「なら……」

「建前ですよね!」

「……違います」


 サラとヤーべが話をしている間もリオは足を止めずスタスタ先を歩いていく。

 サラは説得を諦め、「自己責任ですよ」と念を押す。

 ヤーべは元気いっぱいに「はい!」と答えた。

 


 サラは違和感に気づき、そのことを隣を歩くヤーべに尋ねる。

 

「そういえば私達について来ようとしたのはあなただけでしたか?」

 

 昨夜の様子からサラ達について来ようとする者達がもっといると思ったのだ。

 特にリサヴィ入りを狙う者達である。

 だが、実際にいたのはヤーべただ一人だった。

 サラの問いにヤーべはなんでもないように答えた。

 

「私が来た時は二人ほどいました。もちろん、二人ともクズで昨日酒場にいたようです」


 何がもちろんなのか、と突っ込みそうになったがサラは堪えた。

 ヤーべはサラの気持ちに気づかず先を続ける。


「私の美しい姿を見るなり鼻の下を地面まで伸ばして馴れ馴れしく話しかけて来ました。“私達の”抹殺対象ですし、とても鬱陶しかったので皆さんが来る前に処分して私の実力を証明しようかと思ったのですが」

「やめなさい」


 サラが思わず突っ込む。


「残念ながらそのチャンスは消えました」

「それはどういうことです?」

「クズの一人が気の弱そうな冒険者が前を通りかかるのを見て『出発前に小遣い稼ぎするか』と呟いたかと思うとその冒険者に近づいて無理矢理肩を組んで路地に引き摺り込んだのです。そして戻って来ませんでした」


 その後、ヤーべは「ああ」と呟いて付け足す。

 

「しばらくしてその気の弱そうな冒険者は路地から出て来ました。何事もなかったかのような顔で去って行きました」

「……そうですか。それでもう一人はどうなったのですか?」

「はい、クズ仲間が戻ってこなかったので『ライバルが減ったぜ』と最初は喜んでいましたが、やがてクズ仲間はリサヴィ派に消されたのではと思い始めたみたいです」

「なるほど。それで危険を感じて去っていったのですね」

「いえ」


 サラの言葉をヤーべはあっさり否定する。


「冒険者に絡むのをやめたみたいです」

「……」

「それでそのクズですが、気の弱そうに見える女性の通行人に『てめえ!今、俺にガンつけやがったな!』とか難癖つけて先ほどのクズとは別の路地にその通行人を引きずって行きました」

「……」

「流石に絡まれた相手が女性なので今度こそ私の出番だと思ったのですが、すぐさま冒険者らしい一団が現れました。彼らは私に向かって『任せろ』というようにジェスチャーしてその路地に突入して行ったので様子を見ることにしました」

「……」

「それでその後しばらくして連れ込まれた通行人が一人で路地から出て来ました。何かをやり遂げたような清々しい表情をしていました」

「……」


 サラが沈黙しているとその話を聞いていたらしいヴィヴィが感心した表情で言った。

 と言ってもその顔は仮面で見えないが。

 

「ぐふ、カモが来たと思っていたら自分がカモだったというわけか」

「はい。皆さんの教育がしっかり行き届いていますね!」


 ヤーべがにっこり笑顔で答えた。

 すかさずサラが叫んだ。

 

「そんなことはしていません!」


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