677話 一度あることは二度ある
サラがヤーべの思い込みを否定する。
「落ち着いてください。私達はそんなことをしていません」
しかし、残念ながらサラの言葉はヤーべには届かなかった。
「何故っクズを憎んでいるんですかっ?」
アリスの問いにヤーべは首を傾げる。
「何故?……逆に聞きますがクズを好きな人がいるのですか?」
「すみませんっ、その通りでしたっ」
「もしかして誰か大切な人がクズに殺されたのですか?」
サラの問いにヤーべが小さく頷く。
「……婚約者がクズ達の愚行の犠牲になりました」
「「「……」」」
サラ達は彼女の気持ちが痛いほどわかり同情もしたが、リサヴィはクズ抹殺の旅などしていない。
クズが勝手に寄って来て勝手に死んでるだけなのだ。
ただ、その数が非常に多いことも確かであり、なかなか信じてもらえないのだ。
だからと言ってサラは誤解を誤解のままで終わらせる気はない。
「先程も言いましたが私達は進んでクズ抹殺などしていません」
サラは否定したが今度も彼女は信じなかった。
なので正論で断ることにした。
「あなたはFランク、それに対して私達はCランクです。これだけランクが離れた者をパーティに入れたら依頼を受ける際に支障が出ます」
仮に彼女をパーティに入れるとEランクまでしか受けることができなくなる。
ギルドには自分のランク以上の依頼を受けないとランクに見合った力なしと判断されて降格する規則があるのだ。
とはいえ、既にリサヴィは何件もCランク以上の依頼を達成しているのでその心配は当分ないのだがサラは余計なことは言わなかった。
「……わかりました」
「そうですか。それはよか……」
「パーティ入りは諦めますが皆さんの後をついて学ばせてもらいます」
ヤーべは全くわかっていなかった。
サラはリオが冒険者ギルドに行く気がない事を思い出し、それを利用することにする。
「それにですね、私達はしばらく冒険者ギルドの依頼を受けるつもりはありません。ですから私達について来てもあなたのランクは上がらないですよ。流石にFランクでずっといる気はないでしょう?」
「なるほど。わかりました」
「わかってもらえましたか」
「はい、しばらくはクズ抹殺に専念すると言う事ですね!望むところです!」
「……全然わかってませんよ」
「是非勉強させてください!」
「……私の言葉届いてませんね」
サラが更に何か言おうとしたが、その前に割って入る者がいた。
「いい加減にしろよお前!リサヴィが迷惑してんだろうが!」
それは先ほどリサヴィに絡み、サラにぶっ飛ばされて退場したはずのクズ盗賊であった。
おまいう発言をしたクズ盗賊をサラ達が呆れた顔で見ていると何をどう勘違いしたのかクズ盗賊がニヤリと笑った。
「ここは俺に任せとけって」
そう言うと更にサラに向かってキメ顔をした。
だが、その顔にはサラに殴られた痕に加えてヤーべに踏まれた足跡が残っておりとても滑稽であった。
彼はその事に全く気づく事なくヤーべに向かって偉そうに話し始めようとしたところで初めてヤーべが整った顔、つまり美女であることに気づいた。
その顔が下品な笑みにシフトする。
「お前、新米冒険者だってな。よしっ、わかった!この俺が冒険者についてじっくり“胸揉み腰振り”教えてやるぜ!」
クズ盗賊は“手取り足取り”と言うべきところを本能のままに言葉を発した。
本人はそのことに全く気づいておらずヤーべにキメ顔をして言った。
「安心しろ!俺はCラーーーーーンクだ!それによ、冒険者経験はリサヴィより上だ!」
ヤーべはクズ盗賊が体に触れようと伸ばして来た手をハエでも叩き落とすかのように乱暴に弾いた後で迷惑そうな顔で言った。
「抹殺対象のクズから学ぶことなど何もありません」
「ざけんな!誰が抹殺対象のクズだ!?誰が!?」
「あなたですよ、あなた」
「ざけんなっー!!」
ヤーべはため息をついた後すぐに何かいいアイデアが浮かんだらしく笑みを浮かべてクズ盗賊に言った。
「ではこうしましょう!」
「あん!?」
「街の外で待っててください」
「はあ?何言ってんだてめえは?」
「あなたを私のクズ抹殺の練習台にしてあげると言っているのです。最期くらい人の役に立ちなさいクズ」
「ざけんな!ちょっと顔と体がいいからっていい気になんなよ!Fラーーーーーーーンク!の雑魚が!!」
「失礼ですね。ちょっとではありません」
ヤーべは再びため息をついて言った。
「では決闘でかたをつけましょうか。もちろんデッドオアライブです」
流石にそれは無謀だとサラは思った。
相手はクズだがCランクに相応しい力を持っている可能性もある。
彼女は自身でCランク相当の力があると言い、実際にその力があるとしても実戦経験が少ない彼女がその力を発揮出来るか非常に怪しい。
更に言えば彼女はこれまでに人を殺したこともないだろう。
ならば例えクズ盗賊との戦いを有利に進めたとしても最後で、命を奪うときに躊躇する可能性がある。
人を殺すことに躊躇しない点だけは間違いなくクズ盗賊の方が上だろう。
「待ちなさい。あなたは……」
サラは決闘を止めしようとしたがヤーべが言葉を重ねて妨げた。
「大丈夫ですサラ。この程度のクズを殺せないようではこの先もクズ達を殺すことは出来ないでしょう。その程度の、口だけの女ということです」
「誰がクズだ!?誰が!?」
「それはもういいです。さあクズ!私と決闘しなさい!そして私の糧となりなさい!」
「ざけんなっー!」
ヤーべの言葉にクズ盗賊がキレた。
ここが酒場だというのを忘れ腰の短剣を抜くとヤーべに斬りかかった。
いろんな経験が足りないヤーべは咄嗟に対応できない。
だが、その短剣がヤーべに届くことはなかった。
「ぐへっ!?」
クズ盗賊は今度はヴィヴィのリムーバルバインダーにぶん殴られて再び宙を舞う。
先程に負けず劣らずのあほ面を酒場の客達に披露しながらくるくる回転して店外へ消えた。
一度あることは二度ある、である。




