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676話 ヤベえ奴が来た

 クズはどこにでもいる。

 フェランにいたクズ達はアズズ街道が解放されるとフェランに潜んでいると思われるリサヴィ派を恐れてフェランを出て行った。

 補足すると彼らは自分達をクズだと全く思っていない。

 ただ、クズと“勘違い”されるのを恐れたのだ。

 では、フェランから全てのクズがいなくなったかといえばそんなわけはない。

 先のリオ達に絡んできた廉価版の魔装具で冒険者になった魔装士達はほとんどが残っていたし(自分の意志というよりはどこもパーティに入れてくれないので移動したくても出来ないと言った方が正しいが)、出ていくクズがいればやって来るクズもいるのだ。



 そんなわけで宿屋の一階の酒場でリオ達が夕食をとっているとソロ活動をしているというフェランにやって来たばかりのクズ盗賊がやって来てパーティに入れろと猛アピールを始めた。

 ちなみにリサヴィ入りを狙っていたのは彼だけではない。

 他にも何人かおり、リサヴィにアピールするチャンスを狙っていたのである。

 リーダーのリオが無反応なので仕方なくサラがクズ盗賊の対応をしていた。

 いつもならヴィヴィもクズ排除に加勢するのだが今日は無言だった。

 アリスはといえばのほほんとした顔でリオを見ておりクズ盗賊の存在を気にも留めてもいなかった。

 サラがため息をつきながらもう何度目かという断りを入れる。

 

「何度も言ってますが私達はメンバー募集をしていません」


 しかし、相手はクズである。

 相手の都合など知ったことではない。

 クズ盗賊は望む回答が得られるまで同じ話を繰り返すクズスキル?クズループを発動し話を元に戻した。

 

「まあそう言ってやるなって。俺の腕はホンモンだ!俺が保証する!!」


 そう言ったクズ盗賊の顔はなんか自信満々だった。

 このクズループに絶対の自信があるようだった。

 実際、彼はこのクズループで宿代をタダにしたこともある。

 だが、このクズループには大きな欠点があった。

 クズループは言葉で相手を丸め込もうとしているように見えて実際は冒険者の力を盾にした脅しである。

 そのため、相手が弱者の場合にしか効果がない。

 そのことにクズ盗賊は気づかなかった。

 サラは話の通じないクズ盗賊の相手をするのに疲れたので最終手段を取ることにした。

 

「これが最後です。私達はメンバー募集をしていません。これ以上絡んでくるなら精神攻撃として反撃します」


 サラの言葉にクズ盗賊はキレてサラに向かって暴言を吐き始める。

 サラは有言実行した。

 サラの鉄拳を喰らったクズ盗賊は「ぐへっ!?」と声を上げて宙を舞う。

 気絶しながらも体をくるくる回転させて自慢のあほ面を惜しげもなく他の客達に披露しながら宿屋の入口へ向かっていく。

 偶然ではなくサラは狙ったのだ。

 何度もクズをぶっ飛ばして経験を積んでいたのでコントロールは抜群であった。

 最初、宿屋のドアは閉まっていたが、サラの最終宣告を耳にした冒険者の一人が気を利かせてドアを開けていたのでクズ盗賊はドアに激突することなく、店の外へと消えた。

 直後、店内で拍手が起こる。

 酒場にいた客のほとんどが自分達の話をそっちのけでサラとクズ盗賊とのやり取りを聞いていたのだ。



 クズ盗賊が退場するのを見てリサヴィ入りを考えていた者達が「次は俺の番だ!」と立ち上がった、

 りはしなかった。

 今のを見て流石に躊躇したのだ。

 そんな時である。

 店の外で「ぐえっ!?」と悲鳴が聞こえた。

 皆が入口に注目すると冒険者らしい女性が店に入って来た。

 見た目は確かに冒険者だが線が細くどことなくお嬢様ぽい雰囲気が漂っていた。

 ちなみに先程の悲鳴はこの女冒険者があほ面晒して気絶して地面に転がっていたクズ盗賊を踏んづけたのだ。

 彼女は一度立ち止まると店内を見渡し、再び歩みを再開した。

 そしてリサヴィのいるテーブルへやって来ると口を開いた。


「リサヴィの皆さんですね?」

「そうですがあなたは?」

「私はヤーべと言います」

「私達に何か用ですか?」

「単刀直入にいいます。私をリサヴィに入れてください」


 その言葉に様子を見ていた客達がざわめく。

 今まで沈黙していたヴィヴィが口を開いた。


「ぐふ、見たところお前は新米冒険者のようだが」

「ええ。私は先日、冒険者になったばかりです」


 アリスも会話に参加する。


「ということはっFランクなんですかっ?」

「そうです」

「腕に自信があるのですか?」


 サラはひと目見ただけで彼女が言葉通り新米冒険者であり実戦経験もほとんどないと見抜いていたが念の為尋ねる。


「Cランク程度の力はあると自負しています。でもだからと言って皆さんと互角などと自惚れてはいません。もしそうならそもそも皆さんの前に現れたりしません」

「ぐふ、確かにな」

「しかし、すぐに腕を上げて皆さんのように立派な冒険者になってみせます!」

「自分達で言うのもなんですが私達はそれほど誇れるようなことをしていませんよ」

「ぐふ、お前はな」

「あなたのことも含んで言っています」


 ヤーべはサラとヴィヴィの言い合いに割って入るように叫んだ。


「望むところです!」

「はい?」

「ぐふ?」


 二人は言い合いを中断し、「この人何言ってるの?」という顔をヤーべに向ける。

 と言ってもヴィヴィは仮面で隠れてその表情はわからなかったが。


「実は立派な冒険者になりたいというのは建前なのです」

「というと?」

「本当はクズをこの世から葬り去りたいのです!皆さんが陰で行っているように!私もこの世に存在する全てのクズを抹殺したいのです!」


 そう言ったヤーべの目には暗い憎しみの炎が宿っていた。

 彼女はサイゼン商会の次期会長と噂される息子の妹であった。

 そしてアズズ街道で最初の犠牲者となった傭兵団団長の婚約者でもあった。

 その元凶であるクズ冒険者達は既に彼女の兄の手によって処分されたことを知っていたが、彼女は憎しみを抑えきれずその矛先をクズ全てに向けたのだ。

 彼女はクズを抹殺するために旅していると噂のリサヴィと行動するのが一番だと思いフェランにやって来たのだった。


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