673話 遠投げ大会
リオ達は帰りも行きと同じく裏口を使用することにした。
裏口から出るとそこには行きに出会った廉価版魔装具を装備した魔装士達がまだいたような気がした。
気がした、と言うのは気配だけするとかそういう意味ではなく、そこにいたのは三人ではなかったからだ。
おそらく入口にいた者達がリサヴィが来ているのを知りパーティに入ろうと裏口に集まってきたのだろう。
とはいえ、もう夕方である。
いつ出て来るかわからないリサヴィをここでずっと待っていたとすると彼らは相当な暇人……いや、執念と言えた。
彼らはリサヴィの姿を認めると誰かが号令をかけるでもなく横一列に並び仁王立ちすると腕を組みキメ顔を向けてきた。
その顔は皆なんかよくわからない自信で満ちており、
「俺をパーティに入れろ!」
と語っているようだ。
その姿を見てサラ達が呆れていると一人の魔装士が一歩前に出た。
「サラ!もう一度チャンスをくれ!」
“もう一度”と言ったことから彼は恐らく最初サラ達が出会った魔装士の一人なのだろう。
よく見ると仮面で覆われていない口元が少し腫れているのがわかる。
サラ達が去った後三人で殴り合いでもしたのだろう。
それはともかく、彼はリサヴィのリーダーはサラだと思っているようだった。
いや、他の者達もそう思っているようだった。
名指しされたこともありサラが仕方なく対応する。
「私達はメンバーの追加も変更もしません。わかったらさっさと解散しなさい。皆の迷惑です」
サラははっきり、きっぱり誰にでもわかるように簡潔に述べた。
しかし、彼らの誰一人としてわからなかった。
先の行動を見てわかる通り、ここに集まってきた魔装士は皆クズ、あるいはクズパーティと長いこと行動を共にしたことでクズの行動が身についてしまった者達であったのだ。
先ほど叫んだ魔装士がサラに言った。
「俺の本当の実力を見てくれ!」
サラ達は何を見せるつもりなのかと思っていると彼は右肩にマウントした荷物入れ、ではなく、リーバルバインバインダーとやらを外した。
「まさかまたぶん投げるわけないわよね」と思ったがそのまさかだった。
彼はリーバルバインバインダーを両手で持ち大きく振りかぶると助走をつけて「おりゃー!」との掛け声とともにぶん投げた。
それを合図に他の魔装士達も次々とリーバルバインバインダーをぶん投げ始める。
彼らの中には魔装具を売り払った者達もいた。
彼らはその様子をただ指を咥えて見ていたわけではない。
なんと彼らも投げ始めたのだ。
彼ら自身にしか見えない“エアー”リーバルバインバインダーを。
それもご丁寧に肩から外す動作から始めていた。
彼らの妄想では自分のものが一番遠くへ飛んだようで投げ終わった直後皆一様にガッツポーズを決めた。
サラ達はと言えば突然始まったリーバルバインバインダー遠投げ大会を呆れた顔で見ていた。
ただ一人、ヴィヴィを除いて。
彼らはリーバルバインバインダーを投げ終わると再び仁王立ちして腕を組んでキメ顔をサラ達に向けた。
一番遠くに飛ばしたものがキメ顔をするのはまあわかるとして明らかに飛距離が足りない者達もキメ顔をしていた。
その者達は上級クズで現実を妄想で上書きし自分が一番飛んだことになっていたのかもしれない。
全員が投げ終わりキメ顔をサラに向けると皆一斉に「俺を選べサラ!」と叫んだ。
集まって練習でもしていたのではないかと思えるほど見事にハモった。
直後、拍手、ではなく打撃音と共に悲鳴が響き渡った。
それはヴィヴィの放ったリムーバルバインダーが魔装士達の顔を打ち抜いた音と彼らの上げた悲鳴だ。
魔装士達は「ぐへっー!?」と叫びながら次々と仮面と共に宙を舞う。
あっという間に全員が吹っ飛ばされてあほ面晒して気絶した。
中にはあほ面晒して気絶しながらも腕を組んで仁王立ち(実際は倒れているが)の姿を維持している強者もいた。
……だからといって何か変わるわけではないが。
「……ぐふ、本当にいい加減にしろ。クズ共が」
ヴィヴィのこの行動にはメキドに操られた八当たりが含まれていた。
とはえ、死者は出なかったので手加減をするだけの冷静さは持ち合わせていたようだ。




