672話 魔装具テスト依頼終了
拍手で迎えられたヴィヴィが発した言葉は自慢ではなく不満だった。
「くれっじ、ダメだ」
ヴィヴィの言葉に責任者を始め試験魔装士達が驚いた顔をする。
「どこがダメなんですか!?これまでで一番素晴らしい操作でしたよ!」
「くれっじ、ウィング・フォーの力を全て出し切る事が出来なかった。限界性能を引き出せなかった」
「あれでですか!?」
ヴィヴィが責任者に頷く。
「くれっじ、飛行性能は単純にこの試験場が狭くて確かめられなかっただけだが、リムーバルバインダーは本来もっと速く動かせるはずだが私の反応が追いつかない」
「そ、そうですか。ヴィヴィさんでも限界を引き出せないのですか……」
「くれっじ、こいつは化け物だな。私がテストする前にもあれだけ使用していたのに全く魔力切れを起こす気配がない。ナンバーズのマナサプライヤーを使用しているという話は本当なのだろう」
ヴィヴィの言葉を聞き技術者達が喜ぶ中でアリスが何か思いついたらしく「あっ」と呟いた。
「それってっ、このっウィング・フォーはっナンバーズってことになるんですかねっ?」
「くれっじ、そう言えなくもない」
「いえ、違います!」
責任者が力強く否定した。
「えっ?」
「くれっじ?」
「ナンバーズはサイファ・ヘイダインが作った魔道具のことです。対してこのウィング・フォーはサイファ・ヘイダインが作ったのではありません。言うなればサイファ・ヘイダインと我々フェラン魔工所の合作なのです。ですから断じてナンバーズではありません!」
責任者の言葉に技術者達が大きく頷いた。
ナンバーズだと認めてしまうと魔工所の成果だと認められない可能性があるので責任者を始め技術者達はどうしても認めるわけにはいかなかったのだ。
しかし、空気が読めないことでは最早リオ以上に定評があるアリスがそんな彼らの心情を気づくことなく更に余計な事を言う。
「あのっ、でもっこのウィング・フォーはっクレッジ……」
「委託し!開発費を出した我々との合作です!」
アリスが話している途中に割って入ってきた責任者の目は据わっていた。
サラはこんなどうでもいいことでこれ以上揉めたくないと話を切り上げる。
「そういうことでいいでしょう。私達には関係ないことです」
流石のアリスも目の据わった責任者を見てまずい事を言ったことに気づく。
「でっ、ですねっ」
「納得されてよかったです」
笑顔でそう言った責任者だが目は笑っていなかった。
サラが一番気になっていた事をヴィヴィに尋ねる。
「ところであなたが感じたという何者かの意思のようなものは感じませんでしたか?」
「くれっじ」
ヴィヴィが首を横に振り、試験魔装士達を見ると彼らも全員首を横に振った。
「そうですか」
「もしかしたらマナサプライヤーを最初に起動した時だけ感じるものなのかもしれないですね」
責任者の言葉に技術者達が同意する。
「確かにそれならナンバーズを使ってる者達が何も言わない説明がつく!」
「よしっ!それで決まりだー!!」
「いえ、それはあまりにも短絡的過ぎです。もう少し、って聞いてますか!?」
サラの声は彼らには聞こえなかったようだ。
振りかもしれないが。
興奮状態の彼らに「わたしの空気の読めなさはこんなもんじゃないですよっ」とアリスがまた余計なことを言った。
「でもっ、量産は無理なんですよねっ」
その声は彼らにしっかり聞こえたらしく、騒ぎがピタリと収まりアリスに恨みがましい目が向けられる。
「すっ、すみませんっ」
ヴィヴィがアリスのフォローをする。
「ぐふ、事実だ。現状、マナサプライヤーの量産はできない」
技術者の一人がボソリと呟く。
「確かにそうだけどもうちょっと喜ばせてくれよ……」
「すっ、すみませんっ」
その後、休憩を挟んで三巡目のテストが行われたが、ウィング・フォーが暴走することはなかった。
それでヴィヴィへの依頼は終了ということになりリオ達は魔工所を去ることになった。
サラは彼らに「おかしな挙動をしたら迷わず教団に相談してください」と念を押した。
出口へ向かう途中で背後で騒めきが起こった。
「おい大丈夫か!?」
そんな声が背後から聞こえたのでサラが振り返るとウィング・フォーを装備した者がサラ達のほうを向いて跪いていた。
「くれっじ、大丈夫だ。ちょっと立ち眩みしただけだ」
その言葉を聞き、声をかけた者をはじめ魔工所の者達はほっとする。
だが、サラはその姿を見て不安を覚えた。
まるでウィング・フォーがリオに別れの挨拶をしているように見えたからだ。
そのリオはと言えば騒ぎを気にすることなく、歩みを止めず試験場の出口へ向かっていく。
その後にアリスとヴィヴィが続く。
サラは魔工所の者達にもう一度念を押してからリオ達の後を追った。




