671話 ヴィヴィ、再びテストする
ある試験魔装士が二巡目を迎えた。
彼はヴィヴィがやったように宙に浮くといきなり四つ同時にリムーバルバインダーをパージした。
試験魔装士の中にはカルハン出身の者が何人もおり彼もその一人であった。
彼はリムーバルバインダーの操作には絶対の自信を持っていた。
魔力量ではヴィヴィに負けたが操作技術では負けない自信があった。
使用者の魔力を必要としなくなった今のウィング・フォーならば彼も四つのリムーバルバインダーを同時に操作できる自信があったのだ。
自分が実際に見ているものを含め、一度に五つの景色が頭の中に入ってきた。
情報量の多さに脳の処理が追いつかず彼は混乱した。
結果、リムーバルバインダーの制御が乱れ、いろんな向きの景色が頭に流れ込み自分が今どういう体勢でいるのかわからなくなった。
程なくして彼は気分が悪くなり落下して倒れた。
サラがエリアシールドを解くや否や技術者達が彼に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「く、くれっじ……」
幸い彼は大した怪我をしていなかった。
ウィング・フォー本体とコントロールを失って落下したリムーバルバインダーも致命的な損傷はなかった。
しかし、
「ったく驚かせないで……うわっ!?吐きやがった!」
「魔装士酔いかよ!いきなり四つ同時に操作なんて無茶するからだ!」
「ちょっと待てよ!次俺なんだぞ!その汚れた仮面と魔装着、俺着けたくないぞ!」
「仮面と魔装着の予備はあったはずです!至急準備してください!」
責任者の声に何人かが倉庫へ走っていく。
だが、それで全て解決するわけではない。
「バックパックはどうするんだ!?代えはないぞ!」
「結局、清掃かぁ」
「時間がかかるなぁ……あ」
ある魔工所の者がサラとアリスに目を向ける。
彼の呟きを聞き、その視線の先を見て他の者達も彼の意図に気付いた。
皆の視線がサラとアリスに向けられる。
責任者が二人に申し訳なさそうな顔で相談する。
「あの、サラさん、アリスさん。どちらかリフレッシュをお願いできませんか?」
洗って綺麗になったとしても汚したのが自分ならいざ知らず他人となると流石にすぐつけるのは気分的にも抵抗がある。
だが、魔法で綺麗にしたとなれば話は別だ。
神聖魔法リフレッシュは強力で完全に汚れを消すことが出来るし、当然臭いも消えている。
ちょっと可哀想だと思ったアリスが手を挙げる。
「じゃあっ、わたしがっ」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
結局、試験魔装士の誰一人としてウィング・フォーを使いこなすことは出来なかった。
意気消沈する試験魔装士達の前で責任者がヴィヴィにもうこの日何度目かわからないが申し訳なさそうな顔をして言った。
「ヴィヴィさん、先ほどは私達だけでテストすると言いましたが見ての通り私達ではウィング・フォーの性能を引き出すことが出来ませんでした」
責任者の言葉に試験魔装士達は皆悔しそうな顔をするが実際その通りだったので反論はなかった。
「そこでご相談なのですが、もう一度お力をお貸し願えないでしょうか?」
「ぐふ……」
ヴィヴィは即答しなかった。
マナサプライヤーが起動した直後、魔王メキドに操作を奪われてヴィヴィ自身はほとんどウィング・フォーを操作していない。
本来の力を発揮したウィング・フォーがどれ程の力があるか興味はあった。
流石にサラとアリスが警戒している中ではメキドも再び何かしようとは思わないだろう。
それでもヴィヴィが躊躇したのはリオがとった先程の態度が気になったからだった。
「ぐふ、リオ、私はテストしてみようと思うのだが」
リオが許可を求めたヴィヴィを見た。
リオの顔はいつもと変わらぬ無表情で何を考えているのかわからない。
サラはヴィヴィの行動に違和感を覚えた。
いつものヴィヴィならリオに相談したりせず自分で判断すると思ったのだ。
そう思っているとリオが口を開いた。
「好きにすればいい」
「ぐふ」
ウィング・フォーを装備したヴィヴィに期待する者、嫉妬で内心失敗を望む者など様々な思いで皆が見守る中、ヴィヴィは四枚のリムーバルバインダーを広げて宙に舞う。
従来の魔装具は自身を飛ばす事を考慮しておらず肩のマウント部の強度は強くない。
そのため、両肩に装備したリムーバルバインダーに内臓された魔道具の力で飛ぼうとするとその負荷に耐えられずマウント部が壊れてしまう。
しかし、このウィング・フォーはもともと四枚のリムーバルバインダーを飛行に用いるよう設計されていた。
ヴィヴィが四枚のリムーバルバインダーを後方に向けて空中を滑走する。
この試験場はそれなりに広いのだが、四枚を飛行に用いると端から端まであっという間だった。
全力が出せなかったので今度は飛行に使用するリムーバルバインダーを二枚に減らすがそれでも全力は出せなかった。
本当は急加速、急反転なども試したかったのだが、全力を出せないなら無意味と判断して飛行テストを終了し、リムーバルバインダーの反応をテストすることにした。
空中で四枚のリムーバルバインダーを射出した。
リムーバルバインダーが全てなくなってもバックバックに重力制御の魔道具を内蔵しているため、ヴィヴィ自身は落下することなく空中に留まったままだ。
射出された四枚のリムーバルバインダーが試験場を高速で不規則に舞う。
操作が乱れているのではなく、ヴィヴィがコントロールしているのだ。
その証拠にどれも壁や床に激突しそうになってもギリギリで方向を変えて激突を回避した。
文句を言いようのない見事な操作技術であった。
ヴィヴィは約二十分ほど操作してからリムーバルバインダーを回収して着地した。
そのヴィヴィに見学者達から惜しみない拍手が送られた。
密かにヴィヴィの失敗を望んでいた者達もここまで圧倒的な差を見せつけられては流石にヴィヴィは別格だと認めるしかなく、彼らもその拍手に参加していた。




