669話 今後の対応で揉める
ウィング・フォーを調べると劇的な変化が起きていることがわかった。
外部からの魔力供給が不要になっていたのだ。
つまり、マナサプライヤーが起動したのだ。
マナサプライヤーは本当にあったのである。
魔力がなくても“本当の”魔装士になれる、“本当の”冒険者になれる唯一無二の魔装具が完成したのであった。
フェラン魔工所の者達は大喜びだったがサラは彼らのように喜べない。
今は全く感じないが先程一瞬とはいえ確かに魔族の気配がしたからだ。
そしてリオに忠誠を誓うような姿をとったことも偶然ではない気がしていた。
「喜んでいるところ申し訳ないですがそれを使用するのは非常に危険です」
責任者が首を傾げる。
「それはどういうことですか?」
「私は先程、その魔装具から魔族の気配を感じました。マナサプライヤーは魔族のプリミティブを使用しているのかもしれません」
責任者をはじめ魔工所の者達は皆不満顔をした。
「そ、そんなこと言われましても困ります」
「ヴィヴィ、あなたも何か感じたのでしょう?」
「ああ。それが魔族かどうかは私にはわからないが何者かの意思を感じた気がする」
責任者が不安顔で尋ねる。
「サラさん、まさか教団が押収するとか言いませんよね?」
「一度調べてもらった方がいいとは思います」
魔工所の者達は皆渋い顔をしてサラの提案に否定的であった。
それは当然だったかもしれない。
ウィング・フォーの開発には膨大な開発費を投じているのだ。
クレッジ博士が勝手に使ったのだが。
それにこれとは別にフェラン魔工所でも並行して魔装具開発を行っていたのだがこちらは思うような結果が出せていなかった。
量産がほぼ不可能とはいえカルハンの魔装具を遥かに超える物が出来た、結果が出た唯一の魔装具なのだ。
教団に調査を依頼して万が一にも危険ありと判断されて返却されなければサイゼン商会に「結果を出せないならこれ以上投資する価値なし」と判断されて資金援助を打ち切られるかもしれない。
そうなればフェラン魔工所自体の消滅も十分あり魔工所で雇われている者達は職を失う。
魔術士ギルドから出向して来た者達は戻り先があるとはいえ、なんの結果も残せず戻ったとなれば無能とまでは言われなくても能力に疑問を持たれるのは間違いなく、今後の出世にも響くだろう。
皆からの期待を一身に受けて責任者はサラに試験継続を提案する。
「取り敢えずもう少し試してみませんか?」
「しかし……」
「仮にマナサプライヤーに魔族のプリミティブが使用されていたとしてそれで他の魔道具が問題を起こしたことがありましたか?私の知る限りなかったと思いますが」
彼の言う通りであった。
魔族のプリミティブは魔力量がずば抜けていること以外、魔物のものと変わらない。
少なくともこれまでそういう認識であった。
「それはそうですが……」
「それにこれが危険なら同じマナサプライヤーを使用しているナンバーズだって危険ってことになりますよ」
「ウィング・フォーに使われているものが本当にナンバーズから取り出したものかもはっきりしていないんですよ」
話を聞いていたアリスがあっと呟く。
「あのっ、マナサプライヤーってっ、フラインヘイダイも持ってるんじゃないんですかっ?」
「あるかもしれません。ただ、ナンバーズのものに比べると能力は劣るでしょう。魔力切れを起こしてリアクティブバリアが使えなくなりましたから」
「確かにっ。ナンバーズが一時的にでも能力が落ちたって聞いた事ないですもんねっ」
サラ達からフラインヘイダイの話が出て責任者が驚いた表情で尋ねる。
「皆さんはフラインヘイダイと戦ったことがあるのですか!?」
「ええ。まあ」
「それで倒したのですか!?でしたら……」
「いえ、倒していません」
「逃げて行きましたっ」
「そ、そうですか……」
責任者は非常に残念そうな顔をしたが気を取り直して言った。
「皆さんの言う通り、フラインヘイダイにもマナサプライヤーが使われているという説が有力です。しかし、これまでフラインヘイダイからそれらしいものが発見されたという話はありません。まあ、今まで回収されたものはどれも派手に壊れているので見分けがつかないと言うのが正しいのでしょうけど」
ヴィヴィが頷いて言った。
「当然だな。フラインヘイダイは強力なオートマタだ。手加減して倒せる相手ではない」
「そうですね。特にリアクティブバリアは非常に厄介です」
「そうなんですがそれでもなんとか原形をとどめていれば……そうだ!皆さんなら……」
サラ達は責任者の言葉を最後まで聞かず返事した。
「お断りします」
「いやですっ」
「断る」
「そ、そうですか。それは残念です……」
責任者の後に元責任者がうんうん、となんか頷きながら偉そうな態度で前に出て来た。
「ほんと残念だな。サラ達なら負けたとしてもそん時は全裸だろうから目の保養になるしな!」
元責任者はこの場にいる女性陣から白い目を向けられ失言したと気づく。
「は、ははは!冗談だ冗談!なっ?」
「わ、私を巻き込まないで下さい!」
同意を求められた責任者が彼の同類と思われては敵わないと大声で叫ぶ。
アリスが元責任者に軽蔑した目を向けながら言った。
「あのっ、さっきから気になってたんですけどっ、へんな人が一人混じってますよねっ」
「だ、誰が変な人だ!?誰が!」
「本当にいい加減にして下さい。これ以上邪魔するのでしたら今度こそ本当に出て行ってもらいますよ」
「な、なんだと!?生意気だぞ!俺は元責任者でお前の先輩だぞ!」
「ええ。元、です。そして今は私が責任者です」
「コネで昇格したくせに威張んな!」
「なんですって!?それはあなたでしょうが!!」
二人が言い合いを始めたのでヴィヴィが不機嫌そうな顔で言った。
「もう帰っていいか」
「ちょ、ちょっと待って下さい!……とにかく、静かにしていて下さい、“先輩”」
「ちっ……」
元責任者は他の者達にも冷たい目で見られ渋々黙った。




