667話 ナンバーズのブラックボックス
ヴィヴィの言葉に技術者達は歓声を上げるがヴィヴィの話はそれで終わりではなかった。
「くれっじ、だが、魔力消費が激し過ぎる。全力で動かせるのはせいぜい十分と言ったところか」
その言葉に試験魔装士達は驚きの声を上げる。
時間が短いという意味ではなく逆だ。
彼らはその半分くらいしか動かせなかったのだ。
それはヴィヴィの魔力量が突出しているという意味でもあった。
責任者が残念そうな表情で言った。
「本来であればそれも解決されているはずだったのです」
「くれっじ、プリミティブで補うのか?相当金を食うぞ」
「クレッジ博士なら気にしなさそうですが」
サラの言葉に責任者は苦笑しながら首を横に振る。
「クレッジ博士が言うには本来魔力は全てバックパックに内蔵しているブラックボックスから供給されるそうなのです」
「くれっじ?ブラックボックスだと?」
責任者がヴィヴィに頷いてから驚くべきことを口にする。
「そのブラックボックスはサイファ・ヘイダインが作った魔道具、ナンバーズから取り出されたもので魔力を無限に生成するマナサプライヤーだと言っていました」
「くれっじ!?マナサプライヤーだと!?」
サイファ・ヘイダインは誰もが認める天才だ。
性格に難があるとは言え、魔術士として、そして魔道具開発者としては疑いようのない天才であった。
彼が生み出したといわれる魔法、そして魔道具はどれも素晴らしく、魔道具においては未だに超えるものは作られていない。
その理由の一つは彼が作り出した魔道具、いわゆるナンバーズに関する資料を全く残していないためだ。
中でも再現困難といわれているのが魔力を無限生成するマナサプライヤーだ。
これはすべてのナンバーズに共通して組み込まれているものでこれがあるためナンバーズはいつまでも能力が劣化することがないのだ。
当然、ナンバーズを分解して解析しようと考える者もいたが実際に実行したという話は聞いたことがなかった。
分解して元に戻せなかった場合の損失が大きいからである。
アリスがあちゃーという表情で言った。
「あの博士っ、ついにナンバーズまで壊しちゃったんですかっ!?」
「彼ならやりかねないですが、よく壊せましたね」
「あっ、確かにっ。ナンバーズを壊したって初めて聞きましたっ」
アリス達の勘違いを責任者が訂正する。
「あ、いえ、博士が壊したのではなく、壊れたナンバーズを手に入れたと言っていました。入手先は教えてくれませんでしたが」
「案外、本人も知らないのかもしれませんね」
「くれっじ、本物かどうかも怪しいがな」
「ですねっ」
そこで今まで沈黙していたリオが突然口を開いた。
「何番だ?」
「え?」
突然声をかけられた責任者がちょっと驚いた顔でリオを見た。
「ナンバーズなら番号が振られていたんじゃないのか?それとも“番なし”だったのか?」
「あ、いえ、確かブラックボックスにはNO.3と刻まれていたそうです」
「3か」
サラはリオが何故そんなことを気にするのか気になった。
「それがどうかしたのですか?」
「名前に“フォー”ってあるからナンバーズの番号とも関係あるのかと思ったんだ」
「そうですか」
サラは違和感を覚えたもののそれ以上、聞かなかった。
「くれっじ、それでどうやったらマナサプライヤーは起動するのだ?」
「クレッジ博士はマナサプライヤーに魔力を供給することで起動するはずだと」
「くれっじ。そういうことは最初に言え」
「も、申し訳ありません」
ヴィヴィが再びウィング・フォーのテストを開始した。
言われた通りバックパックに魔力を供給してみるがいつまで経っても起動する気配がないのでテストを止めて責任者を怒りつける。
「くれっじ!私の魔力を吸い取るだけで一向に起動する気配はないぞ!まるでクレッジ博士が人の金を湯水のように使うようにな!」
うまい例えだと思わずみんな拍手したくなったがヴィヴィは冗談を言っているのではなく怒っているのだ。
そんなことをすれば神経を逆撫でしかねないと思い止まった。
しかし、約一名空気が読めない者がいた。
「ふふっ!ヴィヴィさんっ、うまいこと言いますねっ」
ヴィヴィがのほほんとした顔のアリスをちらりと見たがその動きは仮面をつけているためわからない。
今の発言で雰囲気が和らいだとでも思ったのかあの元責任者が前に出て来ると自分の体験談を偉そうに語り出した。
「わかるぜ。俺も一度テストしてやったが酷い目にあったぜ。例えるなら一日中休まず腰を振り続けた後のような疲労感が……いや、なんでもない」
皆の冷めた目に気づき、元責任者は話を途中でやめてコソコソと後ろに下がった。
ヴィヴィが責任者を睨みつける。
「くれっじ、マナサプライヤーは壊れているのではないのか!?」
サラがもう一つの可能性を口にする。
「あるいその話自体が嘘かですね」
責任者が慌てて言い訳を始める。
「は、博士が言うにはですね、そ、その送り込む魔力はトータルではなく、一度に大量に送り込む必要があるのではないかという話でしたっ」
「くれっじ!何故さっきそう言わなかった!?」
「す、すみません。その、情報を与えずにテストした方が新たな発見があるかもしれないと思いまして……」
「くれっじ!ふざけるな!わかっていることはすべて教えろ!他に隠していることがあるならさっさと言え!!」
「あ、ありませんっ!」
ヴィヴィは責任者の言葉は信用できないとでも言うように周りの者達に目を向ける。
ヴィヴィに睨まれた(流石にこの状況となれば仮面で顔が見えなくてもわかる)技術者、そして試験魔装士達はブンブンと首を横に振った。
「……くれっじ、もう一度だけ試してやる」
「よ、よろしくお願いしますっ」
責任者が引き攣った顔で言った。




