663話 抗議する魔装士達
リオ達の泊まっている宿に魔術士ギルドから迎えがやって来た。
「リサヴィの皆さん、私がフェラン魔工所までご案内します」
「フェラン魔工所?魔術士ギルドではないのですか?」
「はい。魔装具の開発試験は魔工所で行われているのです」
「そうですか。ではよろしくお願いします」
フェラン魔工所は街の外れ、東側の門のそばにあるとのことだった。
道中にアリスが案内人に尋ねる。
「そのっフェラン魔工所って魔装具の開発だけしてるんですかっ?」
「いえ。魔装具の開発がメインですが他の魔道具の開発も行っていますよ」
珍しくリオは話を聞いていたらしく案内人に質問する。
「東側に門があるっていうことはその先にも何かあるのか?」
「はい。東側の門の先には港街があります。かつては貿易港として栄えていたのですが近海に強力な魔物が住み着くようになって今は廃れてしまいました。冒険者ギルドもあったのですが今は閉鎖されています」
「それはどうでもいい」
「そ、そうですか。今は数はだいぶ減りましたが漁師達が漁をして細々と暮らしています」
「そうなんだ」
「ああ、あと治安は良くありません。ならず者達が住み着いているという話も聞いたことがありますので立ち寄るのはお勧めしませんよ。とは言っても皆さんならなんの心配もないでしょうけど」
「そうなんだ」
フェラン魔工所が見えて来た。
その門の前には多くの人が集まりなにやら騒いでいた。
その中にはあらゆる機能をオミットした廉価版魔装具を装備した魔装士が多く含まれていた。
「あの人達はっ何を騒いでいるんですっ?」
アリスの質問に案内人は困った顔をしながら答えた。
「彼らは冒険者らしいのですが、自分達が他のクラスの冒険者達に酷い扱いを受けるのは廉価版魔装具を開発した我々が悪いとして責任を取れと言っているのです」
「は?」
「えっ?」
「そうなんだ」
「ぐふ、とんでもない言いがかりだな」
「はい、その通りです」
案内人は腹を立てながら昨日ロックが説明したことを繰り返した。
「あの魔装具は運搬用に特化していて冒険者の装備ではないと開発した当初から言っていたんです。責めるべきは冒険者の装備と認めた冒険者ギルドにあります!」
「そうなんですね」
サラが案内人に知らなかったように振る舞って同意したのは興奮気味の彼を落ち着かせる意味もあった。
魔装士の姿をしていない者達も抗議しているのを見てアリスが首を傾げる。
「あの一緒に騒いでいる人達はっ魔装士達と同じパーティの人なんですかねっ?」
「いえ、彼らも魔装士だと思いますよ」
「えっ?でもっ魔装具装備してませんよっ。あっ、抗議には必要ないからですかねっ?」
「いえ、お金に困って売り払ったのでしょう」
「は?」
「はっ?」
「ぐふ?」
「そうなんだ」
魔装士は冒険者のクラスの中で特別だ。
他のクラスには決まった装備はないが、魔装士だけは決まった装備が必要なことである。
例えば、神官や魔術士が戦士の装備をしても魔法は使える。
サラは神官だが戦士の姿をしている。
しかし、魔装士だけは固定の装備、魔装具が必須なのだ。
魔装具がなければ魔装士としての力を発揮できない。
サラが困惑した顔で尋ねる。
「勘違いがないように念の為確認しますが、彼らは冒険者として魔装士として必須の魔装具を売り払ったと?」
「はい、サラさんの認識で合っています」
「それはよかったのですが、それではもう彼らは冒険者じゃない……いえ、冒険者ではあるけど」
「クラスの役割を果たせないですよねっ」
「皆さんが混乱する気持ちはわかります。私も同じ気持ちです」
ヴィヴィが不満声で言った。
「ぐふ、私はあの装備で冒険者になった者を冒険者とは認めていない」
「ヴィヴィさんに激しく同意です。彼らは冒険者の才能がないと知りながらギルドの規則の隙を突いて冒険者になったのです。そんな彼らが“本当の”冒険者から酷い扱いを受けるのは当然です!自業自得です!」
再びヒートアップし始める案内人であった。
「あのっ彼らはっ文句言うためにわざわざフェランにまでやって来たのですかっ?」
「そういう人達もいると思います」
「他にすることがある気がしますが」
「ぐふ、奴らにあんな無駄なことをしている暇はあるのか?パーティに入っていた頃も分前は少なかったはずだが」
「ですねっ。彼らは生活できるんですかねっ」
「もちろん出来ません。彼らは冒険者としてやっていけないので普段はハイト山脈で鉱夫として働いているようです」
「ぐふ、あの魔装具本来の使い方だな」
「はい、その通りです。彼らは鉱山が休みの日にああやって集まってきて騒ぎたてるわけです。本当に迷惑な人達です」
アリスがぽん、と手を叩く。
「それでっ今まで見かけていなかったんですねっ」
「それもありますが騒ぎが収まるまで行動を控えていたのでしょう」
「アズズ街道の件ですね。一応常識はあったようですね」
サラの言葉に案内人は首を振って否定する。
「今目立った行動をするとリサヴィ派にクズと間違えられると思ったんですよ。別に間違いじゃないですけど」
その発言から案内人は彼らに相当迷惑をかけられていたとわかる。
「ここにいるんですかっ?リサヴィ派っ」
「いると思います。既に何組かのクズパーティが姿を消しててリサヴィ派に処分されたとみんな噂してます」
「「「……」」」
「そうなんだ」
リオはどうでもいいように言った。




