660話 ロックの相談 その2
リオが口を開いた。
「当初と言ったよな。今は違うんだ?」
「「「「……」」」」
今まで沈黙していたリオが突然発言したので皆が驚いた。
サラ達リサヴィのメンバーは当然「え?あなた話聞いてたの?」である。
ロックがリオを見ながら言った。
「はい。今は大きく状況が変わって来ています。魔装士はただ荷物を運ぶだけの存在ではないと皆が理解して“本当の”魔装士と入れ替えを行うパーティが増えているのです。そうでなくとも活ダンジョンが減り、単に不要だとしてパーティから外すところも増えています。彼らは単独で依頼をこなす力はありませんから放っておけば降格してやがては冒険者を続ける意思なしと判断されて退会処分となるでしょう」
「そうなんだ」
「ぐふ、奴らは自分達が冒険者の素質がないと知りつつ抜け穴を使って冒険者になったのだ。自業自得だ」
「ですねっ」
「はい、ヴィヴィさんの言う通りです。カルハンの魔装士達は彼ら廉価版の魔装具で冒険者になった者達のことを“偽魔装士”と呼んでいるようですね」
「ぐふ、そのようだな」
ロックの投げかけにヴィヴィは他人事のように答えた。
話が逸れて廉価版の魔装士になっていたのをヴィヴィが戻す。
「ぐふ、ともかくだ。私はカルハン製が気に入っているので無理だ」
「……そうですか。残念ですが諦めるとしましょう」
ロックはこれ以上交渉してもヴィヴィの機嫌を損ねるだけだと察して渋々ではあるが引き下がった。
アリスがずっと疑問に思っていたことをロックに尋ねる。
「あのっ、とっても聞きにくいんですけどっフェラン製の魔装具ってっ採算取れてるんですかっ?」
「これはまた痛いところを突きますね」
ロックは苦笑いをしながら言った。
「正直申しまして通常の魔装具は赤字です」
「通常の、と言うともしかして……」
「はい。先ほどから話に出ています廉価版が売れております。もちろん冒険者用ではなく、運搬用途でですよ。流石に損失すべての穴埋めにはなりませんが魔装具開発の継続は出来る状態です」
「確かに荷物を運ぶだけでしたらあの魔装具は便利ですね」
「ただ、私が目指しているのはカルハン製に匹敵する、いえ、超える魔装具なのです」
商人であるロックの魔装具への執着を異常に感じたヴィヴィが尋ねる。
「ぐふ、何故そこまで魔装具に拘る?魔装具も魔道具だ。開発には相当金がかかるだろう」
「確かにっ。売れるものだけ売ればいいと思いますねっ」
「それは……私が欲しいからとしか申し上げられません」
ロックは寂しい笑顔でそう言って言葉を濁した。
ロックの相談はここで終了し、雑談に移った。
別れ際にロックがヴィヴィに言った。
「ヴィヴィさん。今回は諦めました。あくまでも今回は、です」
「ぐふ」
「フェランだってこのまま負けてはいません。これから話すことは内密でお願いしたいのですが、実は新型の試作が完成しているのです。その魔装具の性能はカルハン製を遥かに超えるという話です」
「ぐふ、また騙されていなければいいがな」
「ははは。流石にそれはないでしょう……次は許しませんから」
そう言ったロックは笑顔だったが目は笑っていなかった。
新型と聞いてアリスが「あっ」と呟く。
「それってっヴィヴィさんが魔術士ギルドから受けた依頼のものですかねっ?」
その言葉にロックが食いついてきた。
「え!?もしかして新型のテストをされるのですか!?ヴィヴィさんが!?いつですか!?是非私も見学させてください!!」
実はロックは内心焦っていた。
先ほど魔装具開発は継続中と言ったが、商会内で廉価版以外儲けが出ていない魔装具開発はやめるべきだとの声が何度も上がっていたのだ。
その声を抑えてくれていたのが次期会長となるであろう現会長の息子だった。
だが、彼は先のクズ達の愚行で親友の傭兵団を失い、更にはその団長の婚約者だった妹に責められて非常に危うい精神状態となっていてクズ抹殺のために商会の金を湯水のように使っているという。
彼が正気に戻らなければ次期会長は別の者になり、魔装具開発が中止に追い込まれることは明らかだった。
だからなんとしてでも誰もが納得する結果を出さなければならなかったのだ。
そんなこととは知らないサラは突然興奮し出したロックにそっとリラックスを発動する。
「落ち着いてください。私達に言われても困ります」
魔法の効果でロックは落ち着きを取り戻した。
「あ、ああ、そうですよね。その通りでした。私としたことがつい興奮してしまって申し訳ありません。魔術士ギルドへは私の方から伝えます。それでいつでしょうか?」
「ぐふ、明日だな」
「明日ですか……わかりました。明日は予定がありましたがすべてキャンセルして見学させていただきます」




