658話 三剣博物館での再会
三剣博物館の見学は有料だった。
ちょっといいお店で腹いっぱい食事できるくらいの値段であった。
リサヴィの面々は高いとは思ったものの金には困っていないし、強力な剣が手に入るかもしれないので入ることにした。
中には盗難を警戒してであろう大勢の警備員がおり、作品一つ毎に一人配置されているようだった。
時間が早かったためか見学者よりも警備員の方が多い。
「なんですっこれっ?」
展示物を見てアリスがそう呟いたのも無理はない。
三剣歴代の親方が鍛えた武具は確かに展示されていた。
しかし、その半分近くが売却済みとの張り紙が貼ってあり、あるのはその姿を描いた絵であった。
展示されている武具の出来は確かに今まで見た中で群を抜いていることがわかるが表示されている参考価格も群を抜いていた。
「リオさんっ、欲しいものがあったら買いますっ?」
「どうだろう」
リオは買えるかどうかはともかく購買欲はわかなかったようだ。
リオがそれらの前で足を止めてじっくり観察することはなかった。
展示物が最近のものになると展示方法が明らかに変化した。
「ぐふ、本人達も実力を自覚しているのだろう」
ヴィヴィの言ったことがすべてであった。
展示物の内容は大して変わらないが刀剣は鞘に収められた状態で展示されていたのだ。
本人達も自分達の未熟さを自覚しており、先代と比較されるのを嫌がっているのだと容易に察することができる。
本心では展示したくなかったのだろう。
その代わりというべきか、鞘の装飾は偉大な先代の質素なものとは異なり派手なものに変わっていた。
もはや刀剣には見る価値がないとその展示エリアを素通りする。
そんな中で珍しいものが展示されており、皆足を止めた。
「ん?これヴィヴィのリムーバルバインダーに似てるな」
リオの言った通りそこにはカルハン製の魔装士が装備するリムーバルバインダーが展示されていた。
アリスが説明文を読んで言った。
「リオさんっ、これっほんとにカルハンで使われているものですよっ」
「そうなんだ」
「ぐふ、これは第一世代、飛ばないタイプだな」
「カルハンの魔装具ってっ、フェランで作られていたんですかっ?」
「ぐふ、確か初期だけだ。今は内製に替わっているはずだ」
「その通りです」
リオ達の会話に背後から参加する者がいた。
リオ達が振り返ると一人の青年が立っていた。
高級な服に身を包んだその男をサラはどこかで見た気がした。
それは間違いではなかった。
「お久しぶりですね。リサヴィの皆さん。ヴィヴィさんは相変わらずカルハンの魔装具を装備しているのですね」
「ぐふ?」
ヴィヴィが首を傾げる。
ヴィヴィもサラと同じく相手が誰か覚えていなかった。
「私を覚えていないですか。それはちょっと残念ですが、」
彼が自己紹介を始める。
「私はサイゼン商会のロックです。以前にフルモロの街でお会いしました」
サラはそこで彼を思い出した。
「ヴィヴィさんにはフェラン製魔装具のテストをして頂き貴重なご意見を沢山頂きました」
ロックは笑顔でそう言ったものの、その時はヴィヴィの容赦ない言葉でのダメ出しで顔を強張らせていた。
「ぐふ、そういうこともあったな」
「しかし、皆さんがこれほど有名になるとは思っていませんでした。こんなことでしたらあの時もっとヴィヴィさんにフェラン製魔装具を勧めるべきでした。フェラン製の宣伝になったでしょうからね」
「ぐふ、どんなに勧められても断ったがな。劣る装備を使う理由は何もない」
「これはまた手厳しい」
ロックはヴィヴィにあっさり断れ苦笑する。
「ところでこのあとご予定がなければ少しお時間をいただけませんか?ご相談したいことがあるのです。特にヴィヴィさんになのですが」
「ぐふ?」
ヴィヴィがリオに顔を向けたのでロックがリオに改めて尋ねる。
「いかがでしょうかリオさん。美味しいレストランをご紹介しますのでそこで食事をしながら私の話を聞いていただけないでしょうか?」
「いいよ。もう見るとこないし」
「ありがとうございます。それではご案内します」




