655話 クズは護衛依頼を受けたい その3
冒険者ギルドが騒がしくなる中で受付嬢が少し大きめの声でクズ冒険者達に言った。
「話を戻しますが、そういうことですので皆さんは護衛依頼を受けることができません。どうしても護衛依頼をご希望でしたら共同依頼ではなく、単独依頼を達成して信用を取り戻すところから始めることをお勧めします」
「ざけんな!大体なんだその言い方はよ!?俺らが共同依頼しか出来ねえって言ってんのか!?」
「最近の依頼実績を見る限りそうなのですが違うのですか?」
クズ冒険者達は「うっ」と一瞬言葉に詰まる。
「さ、最近で決めつけんじゃねえ!昔は単独依頼を何度も達成してんだろうが!」
「おう!その通りだ!まったく問題ない!」
「だな!」
クズリーダーの言葉にメンバーだけが賛同する。
しかし、受付嬢の言葉はそっけないものだった。
「最近の実績はそれ以上に大事です」
「「「ざけんな!」」」
そこへ彼らに護衛依頼の奪い合いに負けたクズ冒険者達が「がはは」笑いをしながら割り込んできた。
「もういいだろ!さっさと退け!クズどもが!!」
「「「ざけんな!誰がクズだ!?誰が!」
クズ冒険者同士の言い争いが起きるがギルド警備員達が近づいてくるのに気づき、最初のクズパーティは文句を言いながらもギルドを出ていった。
さて、新たなクズパーティだが結果は同じだった。
何故、先のクズパーティを笑い飛ばせる自信があったのか非常に謎だが相手はクズである。
考えるだけ無駄である。
彼らが拒否されるのを見てまたもギルド中に笑いが起きる。
クズ冒険者達は納得がいかずカウンターに居座り続けて受付嬢に文句を言っていると再びギルド警備員達がやって来た。
「お前達いい加減にしろ!!」
「「「ざけんな!!」」」
そう叫んだ後で彼らは周囲の状況に気づいた。
ギルド警備員だけでなく、先ほどまで笑っていた冒険者達も彼らを睨んでいた。
流石のクズ冒険者達も不利を悟った。
「お、俺らに護衛依頼を受けさせなかったこと絶対後悔すっからな!!」
クズ冒険者達は捨てゼリフを吐いて冒険者ギルドを出て行った。
もちろん、これで諦めたわけではなかった。
腕を組み仁王立ちしてキメ顔したクズ冒険者達に見送られて商隊が続々とアズズ街道へ向かって出発していく。
いうまでもないことだが、クズ冒険者達は商隊を見送りに来たわけではない。
冒険者ギルドで護衛依頼を受けることが出来なかったので直接商隊から護衛依頼を受けるためにやって来たのだ。
格好つけて立っていれば向こうから声をかけて来ると何故か信じて疑っていなかったクズ冒険者達だが、流石にそれではダメだと気づき、アピールを始める。
「ここにすっげー腕の立つ護衛にぴったりの冒険者達がいっぞお!!」
「今なら特別価格で雇われてやるぞ!」
「この通り!俺らはC!ラーーーーンク!冒険者だぞ!!」
自慢げに冒険者カードを見せつける者もいた。
しかし、どの商隊からも声はかからなかった。
クズ冒険者達があちこちでやらかしたせいで冒険者というだけでは信用されなくなっていたのだ。
「腕が立つ」といくら口で言おうとそれが事実かわからないし、例え事実でも性格に難があれば別の問題が発生する可能性が高い。
冒険者ギルドに依頼して雇った冒険者達が悪さしたらギルドに責任を取らせることができるが、直接雇った場合は冒険者だからと言っても契約に絡んでいないので自己責任となる場合がほとんどなのだ。
実際、アピールしている者達は行動一つとってもマトモではない冒険者だとすぐにわかる者達ばかりであった。
護衛の数に不安がある商人もいたが、彼らを雇う方が危険だと判断し雇うことをしなかった。




