648話 鉄の街フェラン
マトモな冒険者達によってアズズ街道を出たところでのリサヴィとの接触を邪魔されたクズ冒険者達だが、それで諦めるわけはなかった。
彼らは次なる行動へ移っていた。
冒険者が街に入って最初に向かう先は大抵が冒険者ギルドか宿屋である。
それは一般常識のないクズ冒険者も例外ではなかった。
リサヴィより早くフェランの街に戻ったクズ冒険者達の多くが冒険者ギルドに向かった。
依頼完了処理は依頼を受けたギルドで行うのが基本であるが稀に指定されたギルドで行うこともある。
可能性は低いが討伐依頼の完了処理先にフェランを指定しているかもしれないし、そうでなくとも魔物の素材を売りに来るかもしれない。
自称大親友の彼らはリサヴィから報酬のおこぼれをもらうために待ち構えるのであった!
クズ冒険者達は冒険者ギルドのドアが開く度に一斉に椅子から立ち上がると腕を組んで仁王立ちし、入って来た者にキメ顔を向けた。
誰が入って来たか確認する前に行動するのは他のクズに出遅れるからとそろそろリサヴィがやって来る頃と思っていたからだ。
だが、いくら待ってもリサヴィがやって来ることはなかった。
冒険者ギルドにやって来た者達はクズ冒険者達の奇行に最初こそ驚き気味悪がっていたが、そのうち彼らの行動が滑稽で見てて楽しくなってきた。
そのため、マトモな冒険者達は誰かがやって来る度に彼らが行う奇行を見て楽しむのだった。
その頃、確かにリサヴィは街に着いていたが今日泊まる宿屋を探していた。
フェランに詳しい魔術士ギルドの男Aのお勧めの宿である。
途中で冒険者ギルドの前を通りかかったが見向きもせずに素通りする。
それを見て不思議に思った魔術士ギルドの男Aが尋ねる。
「あの、依頼は受けていないと言っていましたがザブワックを退治したことをギルドに報告しないのですか?」
「ぐふ、もう誰かが報告しているだろう」
「まあ、そうでしょうけど手柄を横取りしようと『俺達も協力したぜ』とか嘘の報告をギルドにしている者がいるかも知れませんよ」
「クズ冒険者とか」と小声で魔術士ギルドの男Aは呟く。
「ぐふ、それそこ私達は依頼を受けていないので関係ない」
「そうですね。それにもしそういう者達がいたとしてもなんの証拠もないのです。ギルド職員に仲間がいない限り言葉だけで信じることはないでしょう」
「ですねっ」
ヴィヴィとサラの言葉にアリスが同意する。
リオは特に何も言わなかった。
「なるほど。確かに」
魔術士ギルドの男Aが納得顔で頷いた。
そうこうするうちに魔術士ギルドの前にやってきた。
「では俺はここで」
「あれっ?あなたはっ宿に泊まらないんですかっ?」
「ええ。俺はゲストルームに泊めてもらおうと思います。あっ、俺が勧めた宿が満室で他も空きがないようなら魔術士ギルドに来てください。部屋が借りられないか交渉してみますので」
「ありがとうございます。そのときは相談に乗ってください」
「はい。いろいろありがとうございました」
「いえ、こちらも助かりました」
こうして魔術士ギルドの男Aと別れた。




