645話 親友達の出迎え その1
フェランには自称リサヴィ派の三組のクズパーティ以外にもクズ冒険者はいた。
彼らもまた先のクズパーティと同じく今回の事件を引き起こす原因を作った西側のアズズ街道警備をしていたクズ冒険者達のクズ行為を聞きつけ、東側のアズズ街道警備依頼を受けて美味しい思いをしようとフェランにやって来たのであった。
そのクズ冒険者達は自称リサヴィ派に加わることなくその成り行きを見守っていた。
リサヴィ派を宣言して数日後に彼ら全員が姿を現さなくなったことでクズ冒険者達は彼らが“本物”のリサヴィ派に消されたのだと察した。
これまでその三大クズパーティが皆の冷たい視線を一身浴びていたが、彼らがいなくなったことでそのクズ冒険者達に冷たい目が向けられるようになった。
クズ冒険者達はリサヴィ派にクズと“勘違い”されて殺されるのを恐れ、標的にされぬよう時が来るのを大人しく待つことにした。
更に数日経ち、フェランギルドにオッフルギルドから連絡が入った。
新たにザブワックを討伐するために二組のパーティがアズズ街道に入ったというのだ。
それだけであれば別段驚きはしなかったであろうが、うち一組があのリサヴィだとわかり、フェランギルドは大騒ぎになった。
クズ冒険者達は「時が来た」と察し、“ク頭脳”を全力で働かせてこれからとるべき最善の策を練りあげた。
その策とはアズズ街道から出てきたリサヴィと接触し、さも昔からの友人であるかのように振る舞い、自分達がクズではないことをリサヴィに証明させようというものであった。
もちろん、クズがそれだけで終わらせるはずがない。
「討伐依頼の報酬は当然友人である俺らももらう権利がある!」と常人には全く理解できぬロジックにより何もしていないのに討伐報酬を貰う気満々であった!
彼らはその策を他の者達に気づかれぬようにそっと冒険者ギルドを出て行った。
リオ達がアズズ街道を抜けた先には広大なキャンプスペースがあった。
普段は街道へ入る商隊の順番待ちなどに利用されるのであるが、非常事態ということで商隊はおらずその代わりに緊急事態に備えてフェランの兵達や冒険者達が待機していた。
彼らはアズズ街道からやってくる冒険者達の姿に気づいた。
最初、街道警備をしている冒険者達が戻ってきたのかと思った。
だが、その者達の中に街道警備をしていた冒険者に含まれていなかったクラス、魔装士がいたのでそうではないとわかった。
それはつまり、オッフル側からアズズ街道を徘徊するザブワックをはじめとする魔物達を退けてやって来たという意味でもあった。
冒険者達の多くは自分の武勇を自慢したがるものである。
彼らは無駄話をやめ、その冒険者達が説明(自慢)するのを今か今かと待っていた。
皆の注目を浴びてもその冒険者のパーティ、リサヴィは気にした様子もなく無言でスタスタと歩いていく。
辺りを嫌な沈黙が包み込む。
リオ達が一言も発せず去って行きそうだったので沈黙に耐えきれなくなったフェランの兵士達がリオ達の前に集まって来た。
「おい待て!お前達はオッフルから来たのか!?」
「はい」
サラが問いに答えると集まっていた者達から「おお!!」と声が上がる。
「じゃあ、お前らがザブワックを倒したのか!?」
「アズズ街道は解放されたのか!?」
立て続けに質問が飛ぶ。
サラが先に打ち合わせした通りに話を進める。
「ザブワックは倒されました」
その言葉に辺りから割れんばかりの歓声が飛んだ。
「お前達だけでか!?」
「ザブワックを倒したパーティはオッフルへ報告に戻りました」
「な、なに!?」
「じゃあお前達が倒したんじゃないのか?」
「私達は手を貸しただけです」
サラの言っていることは間違っていない。
メインで戦ったのはカレンであり、トドメもカレンが刺しているのだ。
そこまでのやり取りを聞いて周囲の動きが活発になった。
フェランの兵士達や何組かの冒険者パーティがアズズ街道に入っていった。
フェランへ報告へ向かう者達もいた。
リオ達は歩みを再開するがすぐに行手を冒険者達に塞がれた。
彼らは皆、腕を組んで仁王立ちし、キメ顔をしていた。
いうまでもなく、フェランギルドにいたクズ冒険者達である。
彼らはフェランの兵士達がリオ達から離れるのを待って行動を起こしたのである。
これだけ大勢の目があればリサヴィ派も行動を起こすことはないと高を括って大胆な行動に出たのだ。
リオ達は道を塞がれ仕方なく足を止める。
サラがリオの隣に来て様子を窺う。
幸いにも怒ってはいないようだが、最近のリオはいつ感情を爆発させるかわからないので油断はできない。
サラがリオより前に出ると目の前に立つグズ冒険者達に向かって言った。
「邪魔です。退いてください」
「そう言ってやるなって」
クズ冒険者の一人が他人事のように言って続ける。
「お前達はリサヴィだろ?」
「それが何か」
サラの返事を聞きクズ冒険者達から歓声が上がる。
質問したクズ冒険者がおかしなことを言い出した。
「何かじゃねえだろ。俺らだ俺ら」
リサヴィが驚くことはなかった。
クズがおかしなことを言うのはいつものことだからだ。
「は?あなた達とは初対面でしょう」
「おいおい、親友の俺らを忘れちまったのかよぉ。ひでえなあ」
相手が誰か確認してからの親友発言である。
それは彼だけでなかった。
クズ冒険者達が次々と名乗り始めたのだ。
ヴィヴィが呆れた顔で言った。
と言ってもその顔は仮面で見えないが。
「ぐふ、何が親友だ。最初にリサヴィかと確認した時点で初対面だと丸わかりだろうクズ」
「誰がクズだ!?棺桶持ちが!!」
クズ冒険者達がヴィヴィを怒鳴りつけた。




