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644話 神の気まぐれ

今回で連続投稿は終わりです。(たぶん……)


 サラが呆れた顔でアリスに向けて言った。


「……あなたは何を言っているんですか?」

「えへへっ」


 サラは「アリスに相談したら」と言った自分を殴ってやりたいと思った。

 冒険者達もアリスが惚気ているのだと呆れると同時に「仲間が真剣に悩んでいるのに不謹慎だ」「やっぱり劇で観た通り頭が弱いんだな」と思った。

 しかし、その神官だけは違った。

 それだけ切実だったのだろう。

 アリスの言葉を信じて藁にもすがる思いでリオに頭を下げた。


「リオ!俺はハイヒールが欲しい!」


 リオはなんの感情もこもっていないいつもの目で神官を見た。

 その行動を見て彼の仲間達が慌てる。


「おい、落ち着けって!」

「リオに願ってどうする!?」

「本気にするなって!」

「アリスはちょっと頭が弱……いやっともかく落ち着け!」


 アリスが失言した冒険者をジト目で見た。

 

「あなたはわたしの治療対象から外れましたっ。何があっても治療しませんっ」


 そう呟くのが聞こえ失言した者が慌ててアリスに謝罪する。

 それ以外の仲間達が神官を落ち着かせようとするが、神官は考えを変えなかった。


「例え無駄だと思われようが馬鹿な奴と思われようが構わない!俺はできること全てをやっておきたいんだ!アリスがそれで授かったというなら俺も試したいんだ!!」


 彼の仲間達は彼が真剣に考えて行動していると悟り、止めるのをやめた。

 重傷を負った仲間達を治せず苦しんでいたことを知っていたからだ。

 少し間をおいてリオが「そうなんだ」と呟いて続けた。


「ジュアス教って多神教だよね。誰も授けてくれないんだ」


 今の言葉でリオがジュアス教徒ではないとわかる。

 多神教と言ったところから下手したら六柱であることすら知らないのではないかと冒険者達は思った。

 今の言葉で神官は冷静さを取り戻した。


「リオ、回復魔法を授けてくれるのは女神の二柱のみだ」


 この二柱とは水の女神アクウィータと大地の女神ガイイーノのことだ。

 神官は自分で口にしながら、「みんなの言う通りリオに願うなんて俺はどうかしてたな」と思った。


「そうなんだ」


 ここでリオの雰囲気が微かに変わった。

 それに気づいたのは長年一緒に旅してきたリサヴィのメンバーだけだった。


「本当か?」

「なに?」


 リオにそう尋ねられて神官は言葉に詰まった。

「本当だ」と即答出来なかった。

 ついさっきまで疑うことなく信じていたことがリオの一言で揺らいだ。

 本当に正しいのか不安になった。

 困惑している神官にリオは言った。


「神は気まぐれだ。他の神がお前の願いを叶えてくれるかもしれない」

「い、いやしかし……」


 神官が反論しようとするがリオが遮る。


「そもそもお前の話はおかしい」

「な、何?」

「この世界にはその二柱以外を信仰する一神教も存在する。その神官達は回復魔法が使えないのか?そんなわけないだろう」

「!!」


 神官はリオに指摘され、そのことがすっかり頭から抜け落ちていたことに気づく。

 信仰深いがゆえに他の宗教についてまったく考えなくなっていた。

 思い込みで視野が狭くなっていたのだ。

 神官はもう反論することは出来なかった。


「……お前の言う通りだリオ。私が間違っていた。他の神にも願ってみようと思う」


 神官とリオの話を聞いていた者達は複雑な表情をしていた。

 まさか神官がリオに説教されるとは思わなかったのだ。

 あるパーティのリーダーがその話はもう終わりだというように強引に話を変えた。



 翌朝。

 リオ達は彼らと別れた。

 彼らは中間地点のキャンプスペースまで様子を見に行くとの事だった。

 サラはてっきり少なくとも一組は一緒にフェランに向かうものと思っていたので意外に思っているとあるパーティのリーダーがそれを察して笑いながら言った。


「お前達と一緒に行ったらお前達のおこぼれを貰おうとしていると考える奴がいるかもしれないだろ」

「クズ達は間違いなく言うな」


 サラはその言葉になるほどと思った。

 もしここにいたのがクズ達だったら間違いなく行動を共にし、皆にまるで自分達が活躍したかのような妄想話をするだろう。

 サラは理解したものの少し卑屈過ぎるのでは思った。


「しかし、これまで街道を魔物から守ってきたのは間違いないのでしょう」

「ですねっ」

「だが、ザブワックには完敗したからな。奴が出現した理由はどうあれ」

「まあ俺らのことは心配するな。一通り確認したら俺らもフェランに戻るからさ」

「そのときは一杯やろうぜ」

「わかりました」


 彼らに見送られ、リサヴィと魔術士ギルドの男Aはフェランに向かった。



 後日談。

 神官は有言実行し二柱以外の神にも回復魔法を授けてくれるよう願うようになった。

 リオ達が去って二日後の朝、彼は魔法を授かった。

 念願のハイヒールである。

 神官からそのことを聞いた仲間達は心から喜んだ。

 しかし、すぐに疑問が浮かぶ。

 その魔法を授けたのは二柱なのかそれ以外の神なのか、である。

 その真相を知るのは正しく神のみぞ知る、であった。

 ただ、どの神が魔法を授けたとしてもリオの発言と無関係とは思えなかった。

 神がリオを特別扱いしているのだとしたら思い浮ぶ理由はただ一つ。

 リオが将来勇者になるからだろう。

 強力な力を持った神官であるサラとアリスが従っているのがその証拠ともいえる。

 その結論に至り、勇者に憧れる戦士達は神に「お前達は勇者の器ではない」と言われたようで深くプライドを傷つけられたがそこで腐って終わらないのが彼らとクズの違うところである。


「今の俺達が力不足だってんならもっと努力して強くなってやるさ!そして神に俺達も勇者に相応しい力を持っていると証明してやろうぜ!!」


 彼の叫びに「おう!」と戦士達が声を上げた。



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