642話 東側アズズ街道警備の冒険者達 その2
キャンプスペースに着くと話に聞いていたザブワックとの戦闘で怪我を負った者達がいた。
中にはもはや冒険者を引退するしかないであろうほどの重傷者もいた。
仲間は街へ戻るように勧めたのだが、彼らは見張りくらいは出来ると言い張り残っていたのだ。
彼らの責任感の強さにサラ達は心を打たれた。
同じ冒険者でも責任感皆無のクズ冒険者達とは大違いであった。
「クズ達に爪の垢を飲ませてやりたいですね」
「ですねっ」
サラとアリスが怪我した者達に治療魔法をかけた。
彼らの傷は重傷者も含め綺麗に跡形もなく消えただけでなく、しばらくすると普段通りに動けるようになった。
サラとアリスは怪我した当人達だけでなく全員に感謝された。
治療が終わった後でサラがザブワックを倒した時のことを説明する。
カレンがザブワックを倒し、自分達も戦いには参加したがサポートしただけだと説明した。
そして同行していた魔術士ギルドの男Aが全ての結界が正常に動作していると伝えた。
冒険者達はサラの話を信じた。
ザブワックが倒れたことはサラ達がリサヴィと名乗った時点で確信していた。
リサヴィ(と魔術士ギルドの男A)はこのキャンプスペースで一泊してからフェランに向けて出発することにした。
その夜、魔物が街道に侵入して来た。
結界装置が正常に動作していても隣接する結界同士の間に隙間があり、そこから魔物が侵入してくることがあるのだ。
その魔物の存在に最初に気づいたのはヴィヴィだった。
「ぐふ、魔物が侵入したな」
「何!?どこだ!?」
ヴィヴィの声に最初に反応したのはリサヴィのメンバーではなく、ザブワックに重傷を負わされ冒険者引退を覚悟していた者達だった。
サラ達の治療を受けて完全復活した彼らは早く魔物と戦い、また冒険者を続けられることを確認したかったのだ。
ヴィヴィがオッフル側の街道を指差すが彼らにはまだその姿は見えない。
「ぐふ、ウォルー……リバース体もいるな」
「ウォルーかよ。でもまあリハビリ相手にちょうどいいか!リサヴィは手を出さないでくれよ。これは街道警備依頼を受けている俺らの仕事だ!」
そのパーティのリーダーが復帰戦にはやるメンバーを抑える。
「落ち着け!ウォルーとはいえ、リバース体は油断出来ん!」
「わかってるって」
他のパーティがサポートを担当し、そのパーティだけでウォルーを撃退して完全復活したことを証明した。
稀にだが、重傷を負った者は傷が癒えてもいざ戦う時になるとそのときの恐怖が甦り戦えなくなる者もいるが彼らには関係なかったようだ。
ウォルーの素材回収している冒険者達を見ながらアリスが呟く。
「アズズ街道に入って初めて見ましたねっ、ウォルー」
その呟きは魔術士ギルドの男Aに聞こえた。
「確かにガルザヘッサしかいませんでしたね」
それに答えたのは街道警備依頼を受けた冒険者達だ。
「これが普通だ」
「ああ。結界が正常に動作していれば魔物は結界同士の隙間からしか入れないから大きさも限られる」
「これまでもガルザヘッサが侵入することはあったが小型のものばかりで数も大したことなかった」
「なるほどっ」
「街道に侵入出来なくなったガルザヘッサは元の棲家に戻り、ウォルーもそれに合わせて移動して来たのかもしれませんね」
「ぐふ、あるいは狩り過ぎたかだな」
「それもありますねっ」
冒険者の一人が興味本意で尋ねる。
「ちなみにお前達はここに来るまでにどのくらい狩ったんだ?」
「そうですね。一緒に行動していたカレンと合わせてですが六十体くらいですか」
サラの言葉を聞いて彼ら一瞬「嘘だろ!?」と思ったものの西側は無法地帯になっていたし、ザブワックを倒したことをサポートしただけと控えめに言うくらいだから(彼らはリサヴィがザブワックを倒したと思っていた)ここで見栄を張るとも思えなかったのでその言葉を素直に信じた。
冒険者の一人がため息をついて言った。
「やっぱ、お前達はすごいな」
 




