641話 東側アズズ街道警備の冒険者達 その1
カレン達と別れたリサヴィと魔術士ギルドの男Aはフェランに向かっていた。
今の所、街道に設置された結界は正常に起動しており魔物にも遭遇していない。
新たな結界装置を見つけ、念の為プリミティブが粗悪品と交換されていないか確認する。
結界装置を確認していた魔術士ギルドの男Aが安心した顔をする。
「この結界装置のプリミティブも大丈夫です。粗悪品ではありません」
「やはりっ、こちら側を警備していた冒険者達はっ真面目に依頼をこなしていたみたいですねっ」
「そうですね」
「ぐふ、それが当たり前なのだがな」
しばらく進んだところでヴィヴィのリムーバルバインダーの目が人影を発見した。
「ぐふ、この先のキャンプスペースに誰かいるな」
「冒険者ですかねっ?」
「ぐふ、おそらくな」
更に進むとリオ達にもその人影が見えてきた。
「ぐふ、向こうも気づいたようだな」
「では街道のことを聞かれたら打ち合わせ通りにしましょう」
「わかった」
「ぐふ」
「はいっ」
「はい」
キャンプスペースにいた何人かがリサヴィのもとへ走ってやって来た。
冒険者らしい彼らは十メートルほど前で一度立ち止まり、警戒しながら近づいてくると厳しい表情をしたまま尋ねる。
「お前達はオッフルから来たのか!?」
「はい、そうです」
サラの言葉を聞いて彼らの警戒心がやや緩む。
「そうか!じゃあザブワックは倒されたのか!?」
「はい、倒されました」
サラの言葉を聞き彼らの顔に安堵が広がると同時に他人事のように答えたサラに疑問を持った。
「確認だが、お前達が倒したのではないのか?」
サラが首を横に振る。
「違います。ザブワックを倒した冒険者達はオッフルの街へ報告に戻りました」
「そうなのか?じゃあ、お前達はなんなんだ?」
「フェランに用事があってやって来たのですが」
「そ、そうか」
「まあ、そうだよな」
「それでは私達はこれで」
サラは話を切り上げて歩きだす。
「あ、ああ……」
リオ達がサラに続く。
彼らはサラ達を呆然と見送っていたが我に返り慌てて追いかけてきた。
「待ってくれ!俺らもキャンプスペースに戻るから一緒に行こう」
「それでキャンプスペースについたら待ってる奴らを含めてもう少し詳しく教えてくれないか?」
「わかりました」
彼らの何人かはサラ達のパーティ構成を見て何か言いたそうにしていたがそれをリーダーが止めた。
サラ達への質問は皆が揃ったところでと考えたのだ。
サラはそのことに気づいていたが知らないふりをした。
キャンプスペースへ向かう間、彼らが自分達の素性を話し始めた。
彼らは皆フェランギルドで東側のアズズ街道警備の依頼を受けた冒険者者達だった。
彼らは西側を警備しているクズ冒険者達の不審な動きにいち早く気づき、フェランギルドに報告していた。
フェランギルドも彼らの報告を受けてオッフルギルドに問い合わせていたが問題ないとの回答が返って来るだけだった。
同じ冒険者ギルドとはいえ互いに干渉しないという暗黙の了解もあり、相手が問題ないと言う以上、何も出来なかった。
東側の警備をしていた彼らに落ち度は全くないのだが、事件が起こりもっと強く言えばよかったと後悔していたところに彼らをこの事件を起こしたクズ冒険者達の共犯かのように責め立てる者達が現れた。
彼らを責めたのは西側のアズズ街道警備をしているクズ冒険者達のクズ行為をどこかで知り、同じ甘い汁を吸おうと彼らに警備依頼を代われと迫っていたクズ冒険者達である。
クズ冒険者達に文句を言われるのが我慢出来なくなった彼ら四組のうち一組のパーティが単独でザブワック退治に出かけた。
この四組は長年この街道警備を請け負っていた親友同士であり、そのことを知った残りのパーティは急いで彼らの後を追った。
三組は中間地点のキャンプスペースを過ぎたところでそのパーティに追いついたが、そのパーティは既にザブワックと戦闘中だった。
戦いは劣勢で何人も重傷を負っていた。
三組が戦闘に介入し、うまく連携しながらこのパーティの救出に成功した。
ただ、それは彼らがうまく動いたというよりはザブワックの気まぐれに助けられたのだ。
ザブワックは戦いを優位に進めていたにも拘らず突然、樹海へ姿を消したのだったのだ。
彼らは追い縋るガルザヘッサを撃退しながらこのキャンプスペースまで撤退するのに成功し、以降は守りに徹していたのだった。
このキャンプスペースまでガルザヘッサがやって来ることはあったが幸いにもザブワックがここまでやって来ることはなかった。
ここ数日、ガルザヘッサの襲撃がないことを不審に思っているところにリサヴィ(+魔術士ギルドの男A)がやって来たのである。




