639話 フェランのリサヴィ派?
フェランの街はアズズ街道が魔物の侵入により使用できなくなり陸の孤島と化していた。
実際にはハイト山脈越えや海を渡るという手段があるが、ハイト山脈越えには棲息する凶悪な魔物を撃退する力が必要であり、海路も海に棲むこれまた凶悪な魔物を撃退する必要があり船をだす者はいない。
幸い物資には余裕があり、品不足になる心配は今のところない。
もともとそのような状況になることを想定して蓄えていたことに加え、先日、ベルダが魔物に包囲されて品不足に陥ったこともあり、保存する量を増やしたばかりだったのだ。
とはいえ、足止めを食らった商人や旅人は予定外の出費に苦しんでいた。
その中でも一番窮地に立たされていたのは今回の事件を引き起こしたクズ冒険者達と同類と見られている者達であった。
実際、彼らの何組かは今回の事件を引き起こす原因を作ったクズ冒険者達がやっていたクズ行為を知り、自分達も美味しい思いをしようとフェランにやって来たのだ。
そして東側のアズズ街道警備をしているパーティから依頼を奪い取ろうと嫌がらせをしていた。
だが、東側のアズズ街道警備をしていたパーティは皆真面目で彼らがクズだとわかっていたので彼らの嫌がらせに屈することはなかった。
そんな時にこの事件が起こったのだ。
彼らクズ冒険者達はマトモな冒険者達から事件を起こしたクズ達と同類と見られて冷たい目が向けられた。
しかし、彼らは何故か自分達がクズである自覚はなく、それどころか、何度もクズと“勘違い”されたことがあったので“今回も勘違い”されていると思っていた。
彼らは皆の(勘違いによる)非難の目を避けるため、東側のアズズ街道警備をしていた冒険者達に皆の怒りの矛先を向けさせることを思いつく。
彼らクズは人を貶すのが大の得意だった。
街道警備依頼を自分達に譲らなかった腹いせもあった。
もし、彼らが依頼を受けていたら今以上にもっと酷い状況になっていただろうことは考えなくともわかるはずであるが、彼らはわからなかった。
考えることすらしなかった。
彼らの度重なる嫌がらせにアズズ街道警備をしていた冒険者達は限界に達して「俺らが街道からの魔物の侵入を防いでやる!」と言い放って出て行き街に戻ってこなくなった。
クズ冒険者達はギルドから彼らを追い出し、「会心の一撃だったぜ!」と自らの行動を自画自賛したものの、冷静になると彼らを責めていたのは彼らに皆の怒りの矛先を向けるためなので追い出してはダメだったのだと気づく。
更に彼らを責めていたのはクズ冒険者達だけであったことにも今更ながらに気づいた。
マトモな冒険者達は彼らに罪がない事をわかっていたのだ。
クズ冒険者達は街道警備をしていた冒険者達を責めるのが楽しくて自分達に非難の目が変わらず向けられていたことに気づいていなかったのだ。
クズ冒険者達は焦った。
このままではクズと“勘違い”されて自分達が街道警備の冒険者達にしたように八つ当たりされると。
そんな時、あるクズパーティのクズリーダーが秘策を思いつく。
そのクズリーダーが冒険者ギルドで堂々と宣言した。
「クズ達がアズズ街道でしたようなことがこのフェランで起きねえように俺らリサヴィ派がクズ狩りを行う!」
自分達がクズ狩りを行っている噂のリサヴィ派であると宣言することで責められる側から責める側に回ろうと考えたのだ。
その宣言をしたクズパーティのクズリーダーの顔はなんか誇らしげだった。
それにメンバーも続き、なんか誇らしげな顔をする。
マトモな冒険者達が「お前らがクズだろ」と呆れた顔で彼らを眺めていると二組のクズパーティがリサヴィ派への参加を表明した。
彼らもなんか誇らしげな顔をしていた。
そんなクズ達を見て一人の冒険者が呆れた顔を隠さず言った。
「ならさっさとお前らで殺し合え」
それはマトモな冒険者全員の言葉でもあった。
「ざけんな!」の大合唱が彼らから起こるが、ギルド中から起こった拍手によって打ち消された。




