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638話 ライトニングプラズマは未完成?

 朝、出発の準備をしているところでカレンの女魔術士がリオに声をかけて来た。

 

「ねえ、リオ」

「ん?」

「最後にもう一度リムーバルダガーを試させて」


 リオはそれには答えず、


「そんなことより君はライトニングプラズマを完成させるべきじゃない?」


 と言った。

 想定外の言葉を受けて女魔術士は一瞬ぽかん、とした顔をする。


「え?完成?それってどういう……」

「させませんっ」


 アリスが女魔術士の前に立ち塞がる。

 女魔術士はため息をついてサラを見た。

 

「ちょっとサラ、それ退けて」

「それとはなんですっ」

「アリス、いいからちょっとこっち来なさい」

「でっ、でもっ」

「いいから」


 サラが強引にアリスを退かせた。


「それで完成ってどういうこと?」

「言葉通りだけど」

「リオ、あなた言葉足りないから!」

「そうなんだ」

「そ、れ、で!?」

「呪文の長さ、魔法陣の複雑さ、そして消費する魔力。どれも上級魔法に相応しい。でもそれに見合った威力じゃない」

「……」

「完成していれば最初の一撃でザブワックを倒せたかもしれない」

「……それ、本気で言っている?」

「そのつもりだけど」


 二人の話を聞いていた女盗賊がたまらず突っ込む。


「いやいや、ちょっと待ってよリオ。なんであなたにそんなことわかるのよ?ライトニングプラズマは初めて見た魔法なんでしょ?てか、あなたやけに魔法に詳しそうだけど実は魔術士だったの?だったらリムーバルダガーを使いこなせるのも頷けるけど」

「違うよ」

「じゃあなんでわかるのよ?」

「なんとなく」

「またそれ?あのねえ……」

「待って」


 まだ何か言おうとしていた女盗賊の言葉を女魔術士が止めた。

 

「リオの言うとおりかもしれない」

「え!?」


 女魔術士はリュックを下ろして中から呪文書を取り出すとページをパラパラめくりあるページを開いた。

 そこにはライトニングプラズマの呪文と魔法陣が描かれていた。

 そこへヴィヴィがやって来た。


「ぐふ、見てもいいか?」

「ヴィヴィ、あなた魔法に詳しいの?」

「ぐふ、そこそこにな」

「そう、いいわ。その代わり何か気づいたら教えて」

「ぐふ」


 本来、呪文書は魔術士にとって命の次の大事なものである。

 人によっては命よりも大事であることもある。

 そのようなわけで安易に他人に見せるものではないが女魔術士はライトニングプラズマを強化することを優先した。

 魔術士ギルドの者達も魔法のことなので非常に興味を持ったようだ。


「あの、俺もいいですか?」

「ええ」

「じゃあオレも!」

「えー……じゃ、じゃあ、私も」


 皆が見るから仕方なくという者もいたが、まあそれは置いておいて皆がライトニングプラズマのページをじっと見つめる。

 しばらくしてヴィヴィが言った。

 

「……ぐふ、確かにリオの言う通りかもしれん」

「……そうですね。俺もそう思います」

「オレはさっぱりわからん」

「わ、私はわかるわ!どこかは絶対言わないけど!」


 女魔術士は明らかに嘘だとわかる魔術士ギルドの女を無視してヴィヴィと魔術士ギルドの男Aに尋ねる。

 

「どこ?」

「じゃあ、俺から」


 魔術士ギルドの男Aが魔法陣のある箇所を指差す。

 

「ここ。ここがなんか違和感がある。ごめん、そうとしか言えないんだけど」

「ぐふ、私も同じだ。ここは無理矢理まとめた感じがする」

「やっぱりそうなのね。私も最初見た時ちょっと変だなって思ったんだけどちゃんと発動したからこれでいいんだって自分を納得させてしまったわ」

「ぐふ、ライトニングプラズマを生み出した者も面倒臭くなって妥協したのかもしれんな」

「え?そんなことあるの?」


 女リーダーが信じられないと言う顔で尋ねると魔術士ギルドの男Aが苦笑いしながら頷いた。

 

「実はあるんです。発動するからと中途半端なまま使用されている魔法は意外と多いんです」

「ライトニングプラズマって比較的新しい魔法だよな。確か百年前かそこらに生まれたんじゃなかったか」

「ええ。だから改善の余地があってもおかしくない」

「そ、そうなんだ」

「ぐふ、あとはお前が買った呪文がもとから間違えて写されていた可能性だな」

「これは魔術士ギルドで買ったからその可能性は低いわね」

「リオも同じ意見?」


 女魔術士が尋ねるとリオは呪文書を見ることなく言った。


「さあ」


 それに女盗賊が素早く突っ込む。


「いや、『さあ』はないでしょう。あなたが言ったのよ」

「そうなんだ」

「いや、そこは『そうなんだ』じゃあないでしょ……」

「いいわよ。リオのお陰でライトニングプラズマを強化出来る可能性に気づいたんだから。ありがとうリオ」

「俺は完成したものを見たいと言っただけだ」


 その言葉を照れ隠しだと思った者もいたが、リオは本気でそう思っていた。

 リオのそばにやって来たアリスは珍しく空気を読んだのかリオにだけ聞こえる大きさの声でこっそり尋ねる。

 

「あのリオさんっ、魔法陣の調整とは違うんですかっ?」


 アリスはリオが新米女パーティの新米女魔術士にしたアドバイスのことを言っているのだ。


「調整以前の問題だ」

「なるほどっ」



 ライトニングプラズマの論議は早く出発したい魔術士ギルドの女によって中断された。

 続きはオッフルの魔術士ギルドで行うことになった。



 いざ出発するとなって魔術士ギルドの男Bが不安を口にした。

  

「もしもだけど、ザブワックがあの一体だけじゃなくてフェラン側にもいたらどうするんだ?」

「バカ!余計なこと言わないでよ!!やっぱりフェランまで一緒に行こうなんてことになったらどうするのよ!?」

 

 魔術士ギルドの男Bを魔術士ギルドの女が怒鳴りつける。


「ぐふ、ほんといい性格しているな」


 ヴィヴィが魔術士ギルドの女の性格の良さに感心する。

 そのあとリオが何でもないように言った。

 

「いても倒せばいいだけだ」


 その言葉を誰も強がりとは思わなかった。

 カレンは何度もリオの戦いをその目で見ているのでわかるとして、魔術士ギルドの者達も不思議とリオなら簡単に倒してしまうだろうと思った。

 魔術士ギルドの女すら一瞬「やっぱり一緒に行動したほうが安全かも」と思わせたのだった。



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