636話 リムーバルダガーを使いたい
女盗賊がおねだりするような表情でリオを見つめる。
「リオ、そのリムーバルダガーだけどさ、ちょっと私に貸してくれない?」
「させませんっ」
素早くアリスが動きリオの壁となって立ち塞がる。
「……なんかムカつくわね」
「そんなことないですよっ」
それを見て魔術士ギルドの女が叫ぶ。
「やっぱりあなた!みんなからムカつかれているじゃない!」
「そんなことないですよっ」
「全然説得力ないわよ!!」
魔術士ギルドの女とアリスの口論が喧嘩にエスカレートしそうになったのでカレンの女リーダーが仲裁に入る。
が、それはついでであった。
「まあまあ、二人とも落ち着きなさいよ。……で、リオ、それ私に貸してくれない?」
「あっ、何抜け駆けしようとしてるのよっ!?」
「私だってあれ欲しい!今度魔族と遭遇しても今回と同じ戦法が使えるし」
「それこそ私でしょ!短剣は私の得意武器なんだし!相手の意表を突くのも私向きじゃない!」
女盗賊の正論に女リーダーは一瞬うっ、と唸るが諦めない。
「せ、戦士のリオが使ってるんだから私が使ってもいいでしょ!」
「わたしも!」
女戦士が加わり更に女魔術士も参戦する。
「冷静になりなさいよ。リムーバルダガーを操るには魔力が必要なんだから私しか使いこなせないわよ!」
カレン内でリムーバルダガーを巡って争いが始まった。
「みんな元気だね」
リオはどうでもいいように呟いた。
誰も止める様子がないのでサラが仲裁に入る。
「落ち着いて下さい!あまり騒ぐと魔物が寄って来ますよ!」
サラの言葉を聞き、静かになった。
「そもそもリオは貸すと言ってませんし、使いこなせたとしても譲るとも言ってません」
「わ、わかってるわよ。使えるようならマルコに行ってクレッ……なんだっけ?」
「ぐふ、クレイジーだ」
「そう、クレイジー……って、ホント?そんな名だった気はするけどなんか違わない?」
「クレッジです。クレッジ博士。ヴィヴィも話が脱線するので変なこと言わないでください」
「ぐふ」
「ともかく、使えるようならマルコの魔術士ギルドに寄って買うわ!」
「ええ!」
「そうね!」
「そうしましょ!」
「なら争う必要ないでしょう」
「た、確かに……」
カレンのメンバーは不毛な争いをしていたことを反省する。
サラがリオに尋ねる。
「リオ、彼女らがリムーバルダガーを貸してほしいそうですけどどうします?」
「いいよ」
リオはどうでもいいように言った。
カレンのメンバーはじゃんけんで試す順番を決めた。
リムーバルダガーはリムーバルバインダー以上に空間認識能力が必要であり、魔力もそこそこ必要だ。
そのため、使えたのは女盗賊と女魔術士だけだった。
と言っても女盗賊は空間認識能力はあったが魔力が足りなく、女魔術士は操作は出来ても空間認識能力が足りず思うように動かすことは出来なかった。
女魔術士がリムーバルダガーをリオに返しながら文句を言う。
「なによこれ!全然ダメじゃない!」
「そうなんだ」
「万人向けの武器じゃないわ」
「ホントよ!私なんかまったく動かなかったし」
「わたしもよ!」
カレンの文句を聞いた魔術士ギルドの者達は納得顔で何度も頷く。
その様子を見てサラが彼らに尋ねる。
「あなた達はクレッジ博士の事を知っているのでしたね。彼はいつもこんな扱い難いものを作るのですか?」
「はい。あ、いえ、いつもではないですよ」
魔術士ギルドの男Aの後に魔術士ギルドの男Bが続ける。
「そうだよな。改良した物はいい出来だって聞いてる。だけど一から開発すると失敗するらしい」
「それ私も聞いたことあるわ。『理論上動くはずだ!まともに扱えないお前らが悪い!』とか言って誰も動かせないガラクタが倉庫にたくさん眠ってるって話を聞いたことがあるわ。ほんと自分勝手よね!」
魔術士ギルドの女の発言の後、妙な沈黙が訪れた。
「な、何よ今の間は!?私が自分勝手って言いたいの!?」
「そ、それはともかく、そのリムーバルダガーとかもリオさんが使えなければガラクタ倉庫行きだったかもしれない」
「なんでともかくよ!」
魔術士ギルドの女が魔術士ギルドの男Aに食ってかかる。
魔術士ギルドの男Aが助けを求めて周りを見渡すが彼のピンチを救おうとする者はいなかった。




