632話 ザブワック その5
女戦士は背後から足跡が聞こえたので振り返るとサラとヴィヴィがやって来るのが見えた。
正確にはサラとヴィヴィのリムーバルバインダーでヴィヴィ本人は更に後方を歩いていた。
そのリムーバルバインダーから悲鳴のようなものが聞こえたが気のせいだと思った。
しかし、それは気のせいではなかった。
蓋が開き、ふらふらしながら魔術士ギルドの男Aが出てきたのだ。
女魔術士は魔法発動準備中で言葉を話せないので女戦士が尋ねる。
「どうしたの!?」
「キリがないので結界装置を起動させることにしました」
「戦闘中に!?って、でもそうね。それでその装置は?」
「あ、あそこです」
魔術士ギルドの男Aがふらふらしながら指差す。
そこは女戦士達がいる場所の近くだった。
「リオ!結界装置を起動させますのでザブワックをこちらに近づけさせないで下さい!」
「わかった」
リオはなんでもないように返事するとザブワックに向かって走り出す。
それに遅れて女リーダー、女盗賊、そしてアリスが続いた。
ザブワックが咆哮する。
ただの威嚇ではなく、魔の波動で金縛りの効果があった。
女リーダーと女盗賊が身動き取れなくなって転倒したが、リオは影響を受けずザブワックに斬りかかった。
リオと同じく魔の波動の影響を受けなかったアリスが二人の金縛りを解く。
「た、助かったわ!」
「ありがと!」
「それよりっリオさんの援護ですよっ」
「「ええ!」」
魔の波動はサラ達のところにまで届いていた。
女戦士と魔術士ギルドの男Aが動けなくなったが、サラと女魔術士はレジストした。
サラは神官であることから元々状態異常耐性が強いのに加えて金色のガルザヘッサのときと違い、ザブワックが魔族だと最初から気づいていたので魔の波動を放つことに備えていたこともありレジストするのは難しくなかった。
女魔術士は魔術士であることからサラと同じく元々状態異常耐性は強いが、それに加えてなんとしてでもザブワックにライトニングボルトを当ててやるという執念がレジストさせた。
ヴィヴィは魔の波動を受けて足を止めたが、それは金縛りにあったからではなかった。
後ろを振り返り残りの魔術士ギルドの者達の様子を確認するためだ。
彼らは魔の波動で金縛りにあったようで騒がしかった魔術士ギルドの女の声がぴたりと止まっていた。
ヴィヴィは静かになっていいと一人頷くと歩みを再開した。
サラが女戦士と魔術士ギルドの男Aの金縛りを魔法で解除する。
「あ、ありがと!」
「た、助かりましたっ」
「しかし、あのザブワックってなんなのよ!?」
サラは女戦士、いや、彼女達がザブワックが魔族であることに気づいていないと知ったがそのことは言わない。
下手にザブワックの正体を明かして萎縮されては敵わないからだ。
そのことを考えるとリオが内緒にしたのは正しい選択だったのかもしれないと思った。
「ともかく今は結界復旧です。行けますか?」
「は、はい!行きましょう!」
魔術士ギルドの男Aを先頭にサラ、そして彼を運んだヴィヴィのリムーバルバインダーが続く。
しばらくしてヴィヴィが女魔術士と女戦士がいるところへやってきた。




