631話 ザブワック その4
リオが戦いに加わり、前衛が女リーダーと二人になる。
女リーダーはちらりと後方へ目をやり女戦士が右手を上げて無事であることを合図するのを見てほっとした。
リオがザブワックに迫り剣を振るう。
リオの武器は女リーダーや女戦士と同じフォリオッド作でその出来はそれほど違いはなく、かかっている強化魔法も同じだ。
結果、リオも女リーダーや女戦士と変わらず大したダメージを与えることが出来なかった。
ザブワックはリオが強いことはわかっていたが女魔術士の魔法の方が脅威だと思っていた。
その魔法だが先ほどの攻撃をみて自分を倒す力はないと判断した。
神官のアリスだが、回復魔法や補助魔法しか使わないので攻撃魔法は使えないのだと判断した。
分断させた魔装士の装備のことはよくわからないが大した魔力は感じないし、物理攻撃しか出来ないようなので大した脅威にはならないと判断した。
もう一人の女戦士は魔力が高く魔法戦士である可能性があり油断できないがメインは戦士のようなので女魔術士より下だと判断した。
とはいえ、彼らが合流されては面倒なのでバトルアックスを回収し目の前の冒険達を本気で倒しにいくことにした。
しかし、うまくいかなかった。
受けるダメージが増えてバトルアックスを拾うどころではなくなったのだ。
理由は明白だ。
リオが参戦したからだ。
ザブワックは魔族であった。
魔族は対魔法対物理の両方を伴った不可視のシールドを発生させる事ができる。
特に物理に対しては絶対的な強度を誇り、魔法のかかっていない武器でこのシールドを破りダメージを与えることは限りなく不可能に近い。
ただ、このシールドは無限に発生させることができるわけではなく魔力を消費する。
魔族の魔力は人間とは比べ物にならないスピードで回復するが常にシールド強度を最大にしていればさすがに消費が回復量を上回り枯渇する。
そのため、魔力消費を抑えるためシールドの強度を変動させている。
攻撃が来るタイミングで強度を強めてそれ以外では強度を弱めているのだ。
ザブワックがこれまで受けたダメージはどれもシールドを強めた時に受けたものでダメージを最小限に抑えていた。
ちなみに変態オートマタのフラインヘイダイが持つ能力、リアクティブバリアはこのシールド特性を真似て作られたものだ。
カレンはうまく連携が取れていたがザブワックには動きが読みやすかった。
リオが加わった当初はそれほど大きな違いはなかったのでザブワックは油断した。
突然、リオの動きが変則的になったため、シールドの強度を強めるタイミングが遅れた。
リオの一撃がザブワックの右腕を斬り裂いた。
切断するまでには至らなかったが初めてまともなダメージを与えたと言っていいだろう。
ザブワックが怒りの咆哮を発しながら無傷の左腕でリオに殴りにかかるがリオは難なく避けた。
ザブワックはリオの更なる攻撃を察し、後方へジャンプして距離をとった。
「残念。ちょっと遅かったか」
そう呟いたリオだが、表情からは本当に残念だと思っているのか疑問だ。
「ちょっと!今のどうやったのよ!?」
リオの攻撃がザブワックに深手を負わせたのを見た女盗賊が思わず叫ぶ。
リオはザブワックから目を離さず答えた。
「シールドが弱くなった時を狙った」
「シールド!?やっぱりあいつなんかやってたんだ!」
女リーダーが女盗賊に続く。
「狙ったってどうやってよ!?」
「なんとなく」
「何よそれ!?全く説明になってないわよ!!」
「よく見てればわかるんじゃない」
「本気で言ってる!?」
女魔術士はライトニングボルトの詠唱が終わり、あとは発動のキーワードである魔法名を発するだけの状態だった。
そんなときにリオがザブワックにダメージを与えた。
それも上級魔法ライトニングプラズマ以上のダメージをだ。
彼女はプライドが傷つき八つ当たりですぐにでもライトニングボルトをザブワックに放ちたい気分だったがその気持ちをぐっと堪えた。
リオの言った言葉「弱点を作る」、その時が来るのをじっと我慢して待っていた。




