630話 ザブワック その3
カレンのメンバーは長年パーティを組んでいただけあって連携はバッチリであった。
女リーダーと女戦士は最初こそザブワックの素早い動きに意表を突かれたが、既に対応済みで無傷とはいわないが致命傷を受けることはなかった。
これは戦い早々にリオがザブワックからバトルアックスを手放させたことも大きい。
本来であれば女魔術士の護衛は他の者がその場に状況に応じて担当するが、今回はリオがその役割をし、怪我をすればすかさずアリスが治療魔法で治すため、皆ザブワックとの戦いに集中できた。
しかし、それでもザブワックに決定打を与えられないでいた。
女魔術士とアリスが武器に付加した強化魔法によりザブワックにダメージを与えているが軽傷しか負わすことが出来ない。
その傷が回復する様子がないことからこのまま攻撃をし続ければいつか倒れるだろうが、それより前に彼女達の体力が尽きるだろう。
彼女達がそれでも諦めずに攻撃を続けるのはまだ切り札が残されていたからだ。
「下がって!」
戦いながらも女魔術士の様子を見ていた女盗賊が彼女の魔法の準備が整った事に気づき、巻き添いをくわないようメンバーに注意を発する。
女リーダーと女戦士がザブワックから離れた直後、女魔術士の口から攻撃魔法の名が発せられた。
「ライトニングプラズマ!!」
女魔術士のザブワックへと向けた手の周辺で握り拳よりやや小さめの雷球がいくつも出現するとそのままザブワックに向けて放たれる。
ザブワックが後方へジャンプして回避行動をとるが雷球は追尾しその全てが命中した。
「やった!?」
女魔術士の叫びにリオが冷静な声で呟いた。
「どうだろう」
ザブワックは死んでいなかった。
というかぴんぴんしていた。
確かにいくつもの傷を負っていたがどれも致命傷にはほど遠い。
「そんな……」
女魔術士から失望した声が漏れる。
それは他のメンバーも同じだった。
ライトニングプラズマを食らえば即死ではなくとも重傷を負うことを疑っていなかったのだ。
「こいつのバリアかよくわかんないけど強力すぎない!?」
気落ちしたカレンにザブワックが吠える。
その程度か、と見下したかのようだった。
「……チェンジだ」
「え?」
リオの呟きに女魔術士が聞き返すとリオは振り向きもせず言った。
「俺が弱点を作る。そこをライトニングボルトで狙い撃て」
「え?ライトニングボルト?プラズマじゃなくて?」
「ライトニングボルトの方が狙いやすいだろ。それに貫通力も上のようだ」
リオはそこまで言うともう説明は終わったとばかりにザブワックに向かって走り出した。
「ああっ!?」
ザブワックの鉄拳を脇腹に受けて女戦士が吹き飛ばされる。
予めアリスの防御魔法がかかっていなければ間違いなく即死だっただろう。
それでも重傷には変わりなく、血を吐いてうずくまった。
ここまで重傷だと治療魔法で治してもすぐに自由には動けない。
その事をザブワックも知ってか止めを刺しに来ず女リーダーを攻撃目標に変えた。
だが、それは普通の神官が魔法を使った場合だ。
今はアリスがいる。
アリスが彼女に駆け寄りハイヒールを発動する。
「あ、ありがと」
女戦士はすっかり怪我が治っただけでなく体が自由に動くことに驚いているとリオがその脇を通り過ぎた。
「代われ」
「え?」
女戦士が答える前にリオがザブワックに戦いを挑んでいた。
女戦士はすぐに状況を理解し、リオに代わって女魔術士の護衛にまわることにした。
体が問題なく動くか確かめる必要もあったからだ。




