629話 ザブワック その2
サラとヴィヴィはガルザヘッサに手こずっていた。
ガルザヘッサが強いという意味ではない。
倒しても倒しても樹海から現れるのだ。
ザブワックが直接指示を出している様子はないものの、連携しているのは明らかだ。
「ぐふ、きりがないな」
ヴィヴィがそう呟いた直後、魔術士ギルドの男Aがリムーバルバインダーの中から呼びかけてきた。
『サラさん!ヴィヴィさん!』
「どうしました?」
サラが迫るガルザヘッサを殴り倒して尋ねる。
『結界装置はすぐ先です!俺が結界を作動させます!』
「ぐふ、確かにそれが一番かも知れないな。ザブワックの逃げ道を封じることもできるしな」
ヴィヴィがリムーバルバインダーをガルザヘッサに叩きつけながら答えた。
「しかし、大丈夫ですか?戦いに巻き込まれる可能性もあります」
ガルザヘッサを街道から一掃したものの、まだ樹海から気配を感じる。
彼がリムーバルバインダーから出た瞬間を狙って襲ってくるかもしれない。
『でもこのままじゃザブワックと戦ってる皆さんが危険なんですよね!?』
「それはそうですが」
本当は、
「危険なのは事実ですが、そうなっているのはリオの我儘のせいです」
と言いたいのだが口にしない。
確かにザブワックは強敵だが、皆が全力を出せば倒すことは難しくないと思っていた。
ザブワックが逃げ出したとしても結界さえ起動させれば街道へ侵入出来なくなるはずである。
「ぐふ、そこまで言うのだ。やってもらおう」
魔術士ギルドの男Aの決意に異を唱える者がいた。
魔術士ギルドの女である。
『ちょっと待って!その間私はどうなるの!?』
「ぐふ、祈ってろ」
『そ、そんなぁ!』
『オレのように寝るんだ。そしたら全て終わってるぞ』
『神経が図太いあなたと一緒にしないで!』
『ひでえ……』
ザブワックとの戦いにカレンは苦戦を強いられていた。
ザブワックはバトルアックスを失い、素手となったことで攻撃範囲が狭くなった。
女リーダーと女戦士が接近戦を挑み、女盗賊が短剣を放って援護する。
彼女達の攻撃は当たるのだが、大してダメージを与えられない。
「なんなのよこいつ!?」
「フラインヘイダイみたいなバリヤ張ってない!?」
落ちていた女盗賊の短剣をザブワックは拾うと女魔術士に投げつけた。
ザブワックの中でもっとも危険と判断したのは女魔術士の魔法のようだった。
女魔術士に迫る短剣をリオが剣で難なく弾く。
その様子をライトニングプラズマの詠唱をしながら見ていた女魔術士が頬を赤らめる。
カレンのメンバーは皆惚れやすいのだ。
自分を守ってくれる、それも命の恩人である流れの傭兵リオンに姿が似ているとなれば彼女が惚れない理由はない。
そんな女魔術士にアリスが声をかける。
「勘違いしちゃダメですよっ。リオさんが守るのはあくまでも魔法が見たいからですよっ」
女魔術士がアリスを睨む。
それで通じたのだろう。
「そんなことないですよっ」
アリスは女魔術士が思ったことに反論した。




