628話 ザブワック その1
サラとヴィヴィが魔術士ギルドの者達の救出に向かった直後、右前方の樹海から強烈な殺気が放たれた。
カレンのメンバーが武器を手にして待ち構えているとザブワックが街道に姿を現した。
ザブワックは人型で姿はゴリラに近いが、その顔はライオンだった。
全長は三メートル近くあり、その太い腕で殴られれば一発で骨も肉も潰されそうだったが、その心配はなさそうだ。
というのも腰まきに引っ掛けていた大型のバトルアックスを手にしたからだ。
そのバトルアックスは恐らく冒険者から奪ったものであろう。
これが人間であれば両腕で扱うのもやっとの大きさであるがザブワックは片手で軽々と持ち上げる。
幸いにもそのバトルアックスには魔法はかかっていないようであった。
あるいは、もとは魔法がかかっていたが時間が経ち効果が切れたのかも知れない。
魔法効果がなくてもザブワックの剛腕が加われば十分脅威であった。
「私達だけなら勝てるって?甘く見られたものね」
カレンの女リーダーはそう口にしたものの、ザブワックの放つ殺気に気圧されていた。
「武器使うって聞いてないんだけど」
女戦士の呟きが聞こえたのかザブワックが喉を鳴らした。
笑ったようだった。
カレンとザブワックが対峙するなかでリオから緊張感の感じられない声がした。
「じゃ、俺達がサポートするから。アリス」
「はいっ」
アリスはリオに珍しく名前を正しく呼ばれてやる気満々だった。
リオは言うまでもなくアリスもザブワックの殺気に怯えた様子はなく皆に防御魔法をかける。
それに遅れて女魔術士が武器強化魔法をかけようとしたが、その前にザブワックが動いた。
巨体に似合わぬ素早い動きだった。
女リーダーと女戦士はザブワックのバトルアックスの振り回しを剣で受け致命傷は避けたものの勢いに押されて吹き飛ばされた。
「この!」
女盗賊がザブワックの死角から短剣を放つが命中する前に見えない壁によって弾かれた。
「なっ!?」
ザブワックがあっという間に女魔術士に迫る。
「!?」
恐怖に固まった女魔術士にザブワックがバトルアックスを振り下ろした。
命中したら一発で即死ものだ。
だが、バトルアックスが女魔術士に命中することはなかった。
リオが女魔術士の前に割り込み両手で握った剣で受け流し途中で軌道を変えたのだ。
「うそっ!」
それを目にした女盗賊が女魔術士が無事だったことに安堵しながら思わず叫ぶ。
ザブワックは片手、リオは両手で武器を持っていた。
片手とはいえ力はザブワックの方が上のはずだった。
実際、女リーダーと女戦士はそのバトルアックスで吹き飛ばされたのだ。
更に逸らされたバトルアックスは街道に深くめり込んでおり、威力がとんでもなかったことを証明していた。
それをリオは受け流した。
技術だけでは説明がつかず、それなりの力がなければ無理のはずだ。
ザブワックが怒りの目をリオに向けるが、リオはその目を平然とした表情で受け止める。
「文句が言いたいのは俺だ」
リオはそう呟くとザブワックがバトルアックスを引き抜こうとするのを阻止するためその握った手に剣を振り下ろす。
ザブワックはバトルアックスから手を離して後方へ飛んで逃れた。
「た、助かったわリオ!」
女魔術士が我に返りリオに心から礼を言うがリオの態度は素っ気ないものだった。
「そんなことよりライトニングプラズマ見せてよ」
「わ、わかってるわよ!」




